第7話 会社の日常 前編

 会社に出勤して挨拶もそこそこにパソコンを立ち上げた。みんな今日から地獄が始まるのかと顔を暗くしている。

 仕事内容に不満があるわけではない。クライアントの依頼にそって管理システムや教育カリキュラムを組んだり、クライアントの業務内容の効率化の提案などをやりがいはたくさんである。しかし、日々業界は変わっていき会社によっても求めることが変わっていく。社長は従業員が毎日全力で働けば何とかなるし、何かあっても悪いのは現場のせいであるという能天気な考えからをしている。さらに加えて、クライアントの依頼内容の共有が遅い時には午後5時を回ってからくるというとてもいい会社だ。契約している会社からプログラマーとして腕を買われてスカウトされる人間が簡単にやめていく会社ある。

 俺もいつかやめようと思いつつも他に就く仕事もなく気づけばたくさんの仕事を押し付けられて沼に沈められていっていた。同じ学年のやつらには結婚をして子供ができ始めているやつもいる中で、いつまでたっても独り身だ。同窓会や同級生の飲み会に誘われたりもするが、毎度行くのが面倒と感じて参加したことはない。毎回来いよとメッセージが来るが仕事が忙しいと断っている。

 パソコンが立ち上がるとクライアントから何かメールが来ていないかを確認するためにメールソフトを起動させた。見てみると急ぎのメールは来ていなかったが、新しい依頼のメールが来ていた。そしてその中に1つ埋もれかけていたが、とある件に関してお誘いのメールが来ていた。

 それは自分の会社で働かないかというモノだった。エンジニアとして腕を買われたと思いとてもうれしかった。しかし、その会社の経営状況をすこし調べたときに、少しやばそうだと感じてずっと保留にしてきた。そろそろ、答えを出さないといけない時期になってきている。

 どうしようかと考えていると

「そんなむずかしい顔してどうしたの?」

と声をかけられた。

 後ろを振り向くと先輩の緒方さんがパソコンをのぞき込んできた。

「あーこんなの来てたんだ。確かにあなたはとても腕がいいものね。どうするの?」

と何でもないような顔をして聞いてきた。

「どうしようかはずっと迷っています。相手方のほうもあんまり状況はかわらないみたいですし」

「そう、でも決めるなら早めのほうがいいわよ。これからもっと動けなくなるから 」

 そういって彼女は自分のデスクに戻っていった。

この世界は残酷なのだろう。彼女もそろそろ結婚適齢期を過ぎてしまうころ。しかし、その気配は全くない。

 政府が働きから改革だなんだと言っていても何も変わらないのがうちの会社だ。

何かが変わるなんて簡単なことではないだろう。

 俺はため息をつきながら業務を始めた。

 今日も仕事は山積みだ。

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