3.5.『』


 壁際かべぎわのエリアは、貧困層である脳無しがたむろするスラム街だ。彼らは黒ずんだ古いアパートや壊れかけの民家に住み、壁面にアンカーを打ち込んでブルーシートを張ったテントを住処とする脳無しもいる。


 僕たち四人は、そのあまり治安の良くない壁際に来ていた。


 アルナナさんが視察に行くべきだ、と言い出したのだ。

 危ないですからと止めたのだが、「必要なことです」と言われたら、雇い主には逆らえない。それに視察すべきエリアであることは正論だった。壁外からのトロル襲撃があった場合、その最終防衛ラインが壁外だ。

 結局、ツィリンやクルードさんも連れての四人で視察についていくことになった。夜の街を生き抜いてきたツィリンは、こういった場所には慣れているだろうし、クルードさんに至ってはむしろ庭と言っても差し支えがないだろう。


 どこに行こうか? と、話し合った結果、とりあえず闇市に行くことになった。

 壁際では一番活気のある場所だし、そこを眺めていれば分かることも多い。例えば、生活必需品の品揃えや値段、薬物や売春のチラシ類から違法行為の取り締まりの程度など、さまざまだ。

 闇市では、廃材らしき黒ずんだ木の板をテーブル代わりにして、売り物らしき米や芋や果物を並べていた。その上には、頭を切り落とされた鶏が紐で鉄パイプに吊るされていた。地べたに置かれた檻の中を覗き込むと、豚がひくひくと悲しげに鼻を鳴らしている。


 まさに、壁際って感じだ。


 こういう雰囲気は嫌いじゃない。こういう屋台には珍しいものが売っていたりする。ちょっと探してみると、頭のない鶏のとなりに白いゴムみたいなものが吊るされていた。

 なんだろう? 

 近寄ってみると、なんと皮をむかれた蛇だ。小田原では蛇も食べるのかぁ。

 横から、ジューと焼く音といい匂いが横からただよってきた。

 釣られた目線の先では、タオルを首に巻いた男が肉の串をせっせと焼いている。屋台の木板には、『蛇(タレ・塩)200円』と書いてある。興味が惹かれて、思わずその男に声をかけてみた。


「蛇って、美味しいの?」

「おぅ、もちろんよ。なんだ食ったことねぇのか?」

「ええ」

「ウチの串焼きは、隣で殺したての新鮮だ」


 と、フガフガと悲しそうに鳴いている豚を串で指し示した。どうやら、この串焼き屋はとなりの肉屋と協業の関係にあるらしい。うん、聞いているとお腹がすいてきた。蛇の肉ってどんな味なんだろう? 食べるなら、まずは塩で素材の味をためしたい。


「どうです? ここらで食事に……」


 そう言いかけながら振り返って見ると、アルナナさんが豚の前でしゃがみ込んでいた。その長いまつ毛を揺らして、じっと豚を見つめている。


「どうしました?」

「いえ……。そうですね。ここは壁際でした」

「そういえば、アルナナさんは菜食主義者ベジタリアンでしたっけ?」

 と、言うよりも、脳有りは肉を食べない人が多い。彼らの脳には、肉食は限られた資源のムダ使いだ、とインストールされているし、他者に共感しやすい脳有りの脳は動物に対しても同情的だ。

「やはり、慣れないものですね」


 彼女はそうつぶやいて、檻の中に指を差し入れて豚の鼻先に触れた。その瞬間、豚のすぼんだ瞳が涙でうるんだように見えた。なんだか、さっきまで蛇肉に喜んで舌鼓したづつみを打っていたことに罪悪感が沸いてきた。


「生かしながらここに閉じ込める必要はないでしょうに」とアルナナさんはこぼした。「次に食われるのは自分だ、と思い知らされながら殺されるのでしょうか。肉食を否定するつもりはありませんが、せめて苦しまず、ひと思いに屠殺してやるべきだとは思います」

「おい姉ちゃん!」と肉屋の向こうから怒鳴り声がした。「指を入れんじゃねぇ! 噛みちぎられるぞ」


 屋台の店主らしき太った男が、肉切り包丁を片手に返り血がこびりついたエプロンをひらめかして姿を現した。


「そいつは野生肉ジビエだ」と豚を指差す。「壁がなかった頃は養豚だったらしいがな。それが野生化したやつだ。凶暴だぜ。指がなくなっても知らねぇぞ」

「……申し訳ありません」

 アルナナさんは手を引き、同情を振り切るように豚から目を背けた。

「あん? 姉ちゃん、もしかして、脳有りか」


 と、肉屋はアルナナさんのうなじを覗き込もうとした。

 アルナナさんはさっと飛び退いて首の後ろを手で隠した。脳有りにとって、うなじはパンツと同じくらい見られたら恥ずかしい箇所だ。いや、もしかしたら、パンツの中身くらい恥ずかしいのかも知れない。不良デビューで髪を短く切ったツィリンですら、首にバンドを巻いてうなじを隠している。

 ずいぶんと無遠慮な男だ。一歩前に出て、アルナナさんをかばう位置に立つ。


「はっ、大当たりだ」と店主は喜んだ。「脳有りが観光気分か? そこの豚なんかより、姉ちゃんが食われちまうぜ。おうおう、よく見れば、食べごろのいい女じゃねぇか。えぇ? おぅ姉ちゃんよ、お前さんはいくらなんだ? ちょっと味見がてら、揉ませてくれよ」


 肉屋はニヤニヤと卑猥な笑いを浮かべながら、アルナナさんの胸に向かって手を伸ばそうとした。

 それ以上は近づくな、と警告しようとした瞬間——。


「おぅおぅ」とクルードさんが割って入ってきた。

 まるで、漫画のヤンキーがやるような前傾姿勢のガニ股歩きで近づき、肉屋を睨めつける。

「俺のツレを売女ばいた呼ばわりたぁ、いい度胸してるじゃねぇか。能無しがイキってんじゃねぇぞ。ああ?」

「んだと?」

「やんのか!」


 クルードさんは怒声をあげると、機械義手でテントの支柱を殴った。

 鉄パイプの支柱はへしゃげて折れ曲がり、バランスを失ったテントが崩れ落ちる。吊るされていた鶏や蛇が地面に散乱し、何事か、と通りの人たちが足をとめた。


「て、てめぇ!」


 と、かぶったテントをはねのけて、肉屋の店長が姿を表した。分厚い肉包丁を振り上げて「ぶった切るぞ」と脅してきた。

 さて、とツィリンとアルナナさんの様子を確認する。

 ツィリンは手を腰にあてて様子をながめていた。一見、急なトラブルにうんざりしているツレ、という風にも見えが、こっそりと人差し指をベルトの内側に差し込んでいる。

 そこに仕込んだ刃物をいつでも取り出せる姿勢だ。

 ニィ爺をして「バクバなんかより才能がある」と言わしめた彼女ならまずは安心だろう。

 アルナナさんの方は首筋に指を当てながら、じっとクルードさんを睨みつけていた。そっと近づいて「とめますか?」と彼女に聞いてみたが「……様子を見させてください」と、首をふった。


 ひゅ〜、とクルードさんの口笛が挑発的に鳴る。


「ほう、まじかよ、やる気かよ? 能無しのくせに根性だけはあるじゃねぇか。嫌いじゃないぜ」

「ふざけやがって、てめぇらなんざ、三枚におろしてやる」

「なんだぁ? てめぇ肉屋のくせに魚もさばけんのか? 能無しなのに多芸なこった」

「てめぇ。ここは壁際だぞ! 脳有りが、馬鹿にしやがって!」


 肉屋が振り上げた包丁をクルードさんはひょいひょいとかわす。

 それでさらに大ぶりになった拍子に、クルードさんは足を引っ掛けて肉屋を転がす。地面につっぷした肉屋の肩をブーツで踏みつけると、あの機械義手で後頭部を掴んだ。

 キィィ、と義手のギアが回る音が聞こえた。


「いでぇ! いでで、で〜!」


 肉屋は絶叫をあげた。

 鉄パイプすら破壊した義手で頭蓋骨を締め上げられているのだ。手足をバタバタさせて抵抗は試みているが、クルードさんは手を緩める気配はない。

 さすがにやり過ぎだ、止めに入ろうとした時、


「クルード」


 と、背後のアルナナさんの鋭い声を発した。


「やめてください」

「分かってねぇな。姉ちゃんはよ」とクルードさんは肉屋の頭を離さない。「まだまだだ。舐められっぱなしで、優しくするのが一番良くない」

「もう一度言います。やめてください」

「ここらじゃそういう丁寧な言葉もダメだ。こいつみてぇなクズには、姉ちゃんはりごろの都合のよい女にしか見えないぜ」

「……もう一度だけ言います」

「こいつが冗談で姉ちゃんにからんだと思うか? そんなのは絶対にありえない。包丁をチラつかせて、女をなめ回すようなのにまともな奴はいない。俺も含めてな。壁際ではよくあることさ、育ちの良さそうな脳有りの女を見たらとりあえず絡んでみる。そうやって、こいつらは観察するのさ、連れの男がそれでビビったら、輪姦まわしてOKだ、ってね。壁際ってのはそういうもんだろ、なぁ、そうだよな、ボッチ?」


 えっ、僕?

 ……まぁ、一理はあると思う。

 確かに、まともな肉屋なら包丁を人前で見せびらかさないだろう。アルナナさんへの卑猥な挑発にも明らかな下心があった。壁際で性犯罪が多いのも事実で、しかもタチが悪いことに、証拠隠滅のために安物の脳消しメモリイレーサーで記憶を消すから脳に障害が残る場合もある。

 だけれど、だから自分も同じことをしていいのだろうか? う〜む。

 あわせて、もらって、かえす。

 ニィ爺に教えてもらった合気の極意も、やり返せと言っている気もする。だけど、ニィ爺に笑われる気もする。バク坊や、そいつは単純すぎるだろ。


「視察かなんだか知らねぇがよ、姉ちゃん」と答えあぐねていたら、クルードさんは矛先を変えた。「あんたは壁際のやり方ってのを知らない。痛がっているうちはまだ分かってねぇんだ。まだまだ締め上げねぇと」

「これが最後です」とアルナナさんは声を張った。「クルード、手を離しなさい」

「だからよぉ」


 アルナナさんが自分の首筋を、とん、と指で叩いた。

 その瞬間、肉屋の頭をつかんでいたクルードさんの義手が、まるでヒトデのようにピーンと指をのばした。

 開放されたことに気がついた肉屋は、まるで地面を泳ぐように這って逃げていく。それを横目にしながらも、クルードは伸び切った自分の義手を左右にふった。


「おいおい」とアルナナさんのほうに視線を戻す。「なんだ、なんだよ。高級品のくせに不具合かぁ?」

「違います。忘れたのですか? あなたの共有脳の管理者アドミンは私です」

「……なる」クルードさんは口元をゆがめた。「そういや、この義手は共有脳と直結しているんだったな」

「操作できるのは義手だけではありません」

「俺を殺すこともできるんだろ? 思い出したよ」

「あなたが子どもの頃に好きだった五人五色のヒーロー戦隊、その主題歌を歌わせることも可能です」

「……ちっ」


 と、クルードさんは頭をかきむしった。


「ねぇ」

 と横で見ていたツィリンが眉をしかめる。

「今のなんなの?」

「クルードは自分の共有脳の権限を剥奪され、新たな管理者として私が登録されています。一方的思念でログインすれば、彼にあらゆるコードを入力し、実行することができます」

「なにそれ……、もしかして私にも」 

「ご安心ください。この処置はクルードだけの特例です」

「本当に?」


 アルナナさんはツィリンに笑いかけた。


「ご心配なら思念通話いたしましょうか? ツィリンさんと思念通話をすると、また検疫を受け治す必要がありますが」

「……いや、そこまでは別に、いいけど」

「補足すると、これは殺処分と判断された者だけに適用される処置です。現在の制度では人権のある脳には、その自由が尊重されていますので」

「へぇ〜」とツィリンは肩をすくめた。「私に人権なんてまだあったのね」

「ええ、もちろんです」

「じゃあ、俺はもう人間じゃねぇ、ってか」


 肩をすくめたクルードさんに向かって、ツィリンは鼻を鳴らした。


「私を殺そうとしておいて、今更?」

「あぁ、くそ。せっかく気分が良かったのによぉ。助けてやった女には脳を乗っ取られるわ、手が団扇うちわみたいになった。最悪だぜ」

「ところで、クルード」


 アルナナさんが首筋から指を離すと、ピンと伸びていたクルードさんの指がしおれて元に戻った。クルードさんはさっそく、義手をグーパーと握り直して動作を確かめる。


「今日は、ずいぶんと機嫌が良さそうですね」とアルナナさんが目をほそめた。

「そう見えるか? さっき、最低な気分になったばかりだけどな」

「いつもはやる気が感じられませんが、今日はやけに積極的なように感じます。喧嘩腰は変わりませんが」

「あんだよ」

「率直に聞きます。市長から入れられたスクリプトの影響を自覚していますか」

「あっ? あの電気流すやつのせいってか?」

「はい」

「はぁ〜、んなもん、分かんねぇよ。だいたい、俺みたいな黒い奴は脳をいじくりまくっているもんだ。今さら数ボルトの電流くらいで変わるもんじゃねぇだろ」

「……サンプルとしては、クルードは不適切でしたか」

 アルナナさんは残念そうにため息をつく。


「いたぞ! おい、てめぇら!」


 突然、背後から怒鳴り声があがった。

 振り返ってみると、先ほどの肉屋がぞろぞろと仲間をつれて戻ってきた。数はざっと十数人。日本刀やら鉄パイプなどの獲物を手にして周囲を威圧している。

 まずいな。おおごとになってきたぞ。


「調子こいてんじゃねぇぞ。終わったからな! お前ら、終わったぞ。国府津組の親分をてめぇらは怒らせたんだ」

「他人のふんどしで大声でほたえんじゃねぇ、この肉太郎が」


 大声で叫んだ肉屋は、バシっと後頭部をはたかれた。

 目を細めてみると、作務衣さむいを着た初老の男が頬髭をつまみながら姿をあらわす。

 ん? 見覚えがある。この人は確か……。


「もしかして、モリタさんですか?」

 汽車を入門していた時に、免疫屋をまとめていた人だ。

「おや? あんちゃんは確か、昨日の」

「バクバです」

「おお、ボッチさんか」


 そっちで覚えてしまったんですか。まぁ、確かに覚えやすいですよね。


「てぇ、ことは……」


 モリタさんはアルナナさん、ツィリン、クルードさんに視線を泳がせた後、売り物の肉がぶちまけられた地面と崩れた屋台のテントを見渡した。


「おい、肉太郎」

「へ、へい」と肉屋は頭をさげた。「あの……もしかして、親分のお知り合いで?」

「下手うったな。あの姉ちゃん、東京の防疫官だぞ」

「へ?」

「ついでに、あそこのボッチさんは、東京の一等の免疫屋だ。後ろの嬢ちゃんと長髪の男も脳が黒い。てぇなると、この喧嘩、コトだぜ」

「も、も、申し訳ありませんでした!」

「いや、芋は引かねぇがよ。だがな、」とモリタさんは声を落としてドスを聞かせた。「もしもよ、てめぇの方が筋道を外してたとすりゃ。てめぇは魚の餌だ。それは分かってるよな」

「……」


 怖っ! まるで任侠映画みたいな啖呵たんかだ。


「で、ボッチさんよ。うちの若い衆とごたついたようだが、どういうことでぇ」

「えっと」そうか、モリタさんは極道系の免疫屋組織の組長だった。「ここらはモリタさんの?」

「おうよ。ここら国府津は俺たちが仕切りだ。国府津門の門番役だけじゃなく、闇市もそうよ。一応、こんな奴でもうちの若え衆だからよ。ケツ持ちに来たわけだ」

「そうですか。知らなかったとはいえ、お騒がせしました」


 まずは頭を下げてみた。

 事情はどうであれ、あちらは親分を出してきた。そして、こちらは堅気カタギだからまずは恐縮しておいた方が良いだろう。でも、防疫官であるアルナナさんが謝罪すると、それはそれでややこしいことになる。

 ここは東京のナンバーワンランカーと名指しされた僕が頭を下げるのが、ちょうど良いかえしだろう。

 ふむ、もしかしたら、モリタさんとなら合気の極意を実践できるかもしれない。暴力だけではない、あわせて、もらって、かえす、を。


「なに」とモリタさんは鷹揚おうように手をあげた。「あんたの噂は聞いているぜ。東京でナンバーワンのランカーらしいな」


 モリタさんは大声で僕を紹介した。

 おそらく、わざとだ。親分として始末をつけに出たなら、簡単に相手にゆずるわけにもいかない。例え、自分たちに非があったとしてもだ。

 しかし、相手の代紋だいもんが大きいのなら話も変わる。

 実際、周りの子分たちは「おおっ」とざわついた。ケツモチに連れてくるのは武闘派の免疫屋たちと相場が決まっている。ランカーについてはよく知っていたのだろう。


「うちの若いのをもんでくれたみてぇだな。あんたほどの御方が弱いもんイジメが過ぎやしねぇかい」

「すみません」

 ともう一度頭を下げて、相手の次の言葉を待つことにした。あわせが未熟でまだよく分からないから、もう少しだけもらいたい。

「……そうやって平謝りばかりじゃ進まねぇ。事情を聞かせてもらえると俺も仕切りやすいんだがな」

「お、おやっさん!」

 問題の肉屋が声をあげた。彼はモリタさんの足元にすがりついて訴えはじめた。

「こいつらが勝手に暴れだしたんだ! そこのランカーじゃねぇ。あっちの長髪野郎が勝手に!」

「るっせぇな。それは何度も聞いてんだよ。だがな、てめぇだけの事情ばかり聞いてたんじゃ、仕切れねぇだろうが」

「こ、こいつらの言うことなんてデタラメだ。おやっさん、俺を信じてくれよぉ」

「幸い今回は脳有りの姉ちゃんがいるじゃねぇか。あの頭の中をのぞかせて貰えれば、ハッキリと見えらぁな。違うか?」

「……」


 絶句した肉屋の顔面が青く染まっていく。

 なんとなく解決の糸口が見えてきた。肉屋が自滅した感じもするが、そろそろ、モリタさんに導いてもらったものをかえすべきだろう。そして、かえすのは僕じゃない。

 チラリとアルナナさんに目配せをする。

 うなづいた彼女は一歩前に出る。


「はじめまして、東京本部所属の防疫官アルナナと申します」

「おうよ」とモリタさんは腕を組んだ。「姉ちゃんは東京の防疫官なんだろ? またなんで壁際になんか来た? ここらの市には脳有りどもはビビって近寄らねぇ。あんまり感心はしねぇな」

「仕事ですので」

「東京の防疫官が小田原の壁際で仕事ねぇ。……キナ臭ぇ、何用だ?」

「ここでは話せません。しかし、モリタ組長だけであれば」

「……なるほど」


 モリタさんは拳で自分の肩をとんとんと叩いて、にやり、と笑った。


「なら、俺の家まで来てもらおうか」と片目をとじる。「茶は出せねぇがな」



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