1-3.霹靂

朝のチャイムが鳴り響く。ホームルームの時間だが、珍しく今日は担任が来るのが早い。


「今日は転校生がいるから、紹介する。」


珍しい。アニメや漫画と違ってこの学校は転校生が少ない……というのは単に自分の運かもしれないが。


例によって少しざわつくクラスの中。そうして担任はゆっくりと廊下の方を向く。


何故かその顔が引きつっていて、怪訝そうな表情だったのが気になった。


「……マジか。」


ゆっくりと扉を開けて入ってきたのは、まさかの美少女だった。


それもとびきりの。俺自身タイプだ、というのは含まれていたとしても、世間一般的に見て美人だと言える。


普段目立つことのない自分が思わず声を出してしまったことに焦り、変な汗が滲む。


近くの席の様子を見るに、気づかれていないようだ。そうしてもう一度転校生の姿を見て。


「……椎倉 時雨です。よろしくお願いします。」


細やかな声。透き通ったような声は上品に、小さくともクラスにしっかりと通って響いた。


なるほど、昔推しだったキャラにもどこと無く似てる。なんて、柄にもないテンションの上がり方に、自分自身びっくりしていた。最近はどんなキャラを見ても高ぶることなんてなかったのに、ましてや三次元なんて。


……と、先からクラスの様子がおかしいことに気がついた。


もっとざわめくはずのクラスが。


いや確かに、DQNよろしくキャーキャーと、めっちゃ可愛いねー!とか叫び散らすようなクラスではない。


かと言って何も言わず、ほとんど静寂の…なんてことは普通あり得ない。


よく耳を澄まして見れば、近くの女子が二人コソコソと話をしていた。


「……マジ無理なんだけど。」


ようやく聞こえたのは、そんな言葉。


確かに彼女たちの顔を見るに、まるで虫でも見つけたかのような引いた顔で彼女を見ていた。


そこまで嫉妬させるほど、同性からしても飛び抜けた美貌なのか、と改めて一人勝手に感銘して。


ところが隣にいる十郎を見て、また異変に気づく。


「おい、十郎。どうしたんだよ。」


「ど、どうしたもこうしたも……、フミヤンは平気なの? あんな……。」


「何を言ってるんだ、あんなって……転校生のことか?」


彼は何かに怯えたように、ただ頷いて目を伏せる。なるべく彼女のことを直視したくないとばかりに。


「空いてる席、後ろの方だ。座ったら授業始めるぞ。」


担任は淡々と指示し、転校生の彼女はゆっくりと歩みを進める。


それでこの異変が、ただの違和感じゃないことを思い知らされる。


彼女が通った道が、周りの嫌悪の目にさらされていくのだ。


それはまるで腐った生ゴミやら嘔吐物やら、それこそ不快害虫を見つけてしまった時のような。


何故そうするのかは、全く分からない。けれど男女共に冷たい目で彼女に一瞥もくれず、中には十郎と同じ目を伏せ、机に突っ伏し、すすり泣いている者もいた。


そうして彼女は一番後ろの席……ちょうど俺の後ろの席に着いた。


「……あの、よろしく。陶磁、っていうから。」


「え、あぁ。よろしくね、陶磁君。」


彼女は一瞬狼狽えてから、返事をした。


俺は確認したかったのだ。彼女の顔が、気がついたらタランチュラのようになっていないか。


上体を捻って挨拶をして、確認した。それは直視できないほど、やっぱり美少女だった。


陰キャよろしく名前を呼ばれて、それだけで舞い上がっている。


けれどクラスの雰囲気は変わることなく、むしろ挨拶をしたのは俺だけで、その俺にすら冷たい視線が注がれている気がして。


とにかく一限目が終わるまで、その異様な雰囲気の理由を掴むのに思考を繰り返したが、一向にヒントが得られることはなかった。

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