1-2.回想

俺は中学の頃まではアニメにも夢中で、純粋にそれが楽しかった。

推しを共有できる友達も出来て、アイドルにもハマるようになって、とにかく画面の中でも舞台の上でも輝いている誰かを応援して、感情移入するのがたまらなく楽しくて。


けれどふとした時に、それが粉々に砕かれた。


ヲタクがバレた時の頃の、心無い言葉だ。


それはいじめとかじゃない。俺自身が半分以上悪い。

とにかくいろんなコンテンツに夢中だった俺は、その時の推しに関連づけた生活を送っていた。


身に付けるもの、持ち歩くもの推しのカラーにして、推しがプリントされたキャラグッズは片っ端から集めた。それが自分なりの推しへの愛だと疑わなかったし、周りのヲタク友達とも競うようにしてグッズを収集し、より自分を捧げていくのが心地よかった。


そんな時、ふとキャラグッズをカバンから落としてしまった。教室の机の間にポツンと落ちたペンケース。

それをタイミング悪くクラスの女子が踏んづけて、思わずその女子と俺はほとんど同時に声を上げてしまった。


「は? ナニコレ、ちょっとマジ気持ち悪いんだけど……。」


「……。」


「え、何? 何か言いたいことでもあるわけ?」


その女子は一瞬悪びれるかと思えば、ペンケースを拾い上げる時にはもう侮蔑の目をしていた。

そして俺は、何故かそれに反論出来なかった。

とにかく大事にしていた、推しのペンケースにはヒビが入ってしまって。


自分の不用意さと、注意不足。

そして何より、彼女たちに反論するのが怖かった自分の弱さが、嫌だった。


推しを足蹴にされて、たとえ自分が原因で悪かったとしても、踏んづけられて謝りの言葉一つすらない。

睨み返してさらに文句を言われて、思わず竦んでしまった。


『一般の人からみたら、これは気持ち悪いんだ』


その意識は、確かにヲタク活動をしていて思うところはあって。けれど見ないふりをしていた。


それがふっと自分の中に降りてきたようだった。弱い心、悪魔の囁きが、自分の心も、推しも、どちらも守れないまま。お前は何かに縋ってるだけだと言われるみたいで苦しくて。自分には何もない、空っぽだって反証になるのが嫌でたまらなかった。


それ以降俺はヲタクをやめた。いじめられるのが怖いとかじゃなく、単にその資格がなくなったからだと思った。


実際、まだそのキャラたちが好きかと言えば、嫌いでは無い。でもあの頃の熱はもう無い。

それがどういう風にして夢中になっていたのかさえ、忘れてしまっていた。


とにかくあの時の経験がトラウマになって、平凡な自分を形作っている。

自分はありのままでいい。必要以上の期待を抱かなければ、喪失感に苦しむこともないのだ。


そう思うと十郎には同じ思いをして欲しく無い、と同時に、羨ましく、嫉妬すら覚える。

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