1-1.日常

俺はいつも通りに登校する。早すぎることもなく遅すぎることもない時間。遅刻もない。


高校は特段楽しい日々もなく、漫画やアニメのようにいじめが横行しているだとか、あちらこちらで恋愛ムードで持ちきりだとか、かといって異世界に召喚されるようなこともなさそうで。


それでも自分はおそらく”陰キャ”とかいう分類に属されるんだろう。


なんて物思いに耽っていると隣の席の眼鏡に小太りな男、世良十郎が話しかけてきた。


「ねぇねぇフミヤン、今期のアニメ見た? 見たよね? ほら、俺が前からめっちゃくちゃ勧めてた奴だよ! 激アツだったぁああ……製作陣マジ神。主題歌神。レイサたんマジ神ぃい! って、絶対ハマるの間違いなしだかんね。フミヤン、聴いてる?」


「……あ、あぁ。聴いてるけど、まだ見てないよ。」


「なーんだよぉ! 絶対見てって言ったのに!」


「ちょっと、タイミングが無くてさ。そのうち見るよ、そのうち。」


「頼むよ〜! やばいなぁ、これは帰ってからもグッズ調べて円盤予約して……」


と、彼は絵に描いたようなヲタクだ。


そうしてそのヲタクとつるまざるを得なくなったのが俺だった。


十郎はヲタクで見た目もイメージ通りだが、悪いやつじゃない。


自分の好きなことを散々話して、それが賛同されようと反対されようと、自我を貫く。


ものの見事にクラスの女子からは白い目で見られているが、彼はものともしない。いや、諦めているのかどうかまでは分からない。


とにかく彼は文字通り鋼のメンタルを持っていて、俺がそれが内心羨ましかった。

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