お題箱消化

あずさ

依存。

依存



 手を取って、優しく握る。そうすれば、まだ少しだけ残った温かさが肌から伝わってきて、涙が溢れる。

 「好きだよ、好き。大好きだ。」

 まるで幼い子供のように拙い好きを繰り返して、そうして、また涙をこぼす。

 「ねぇ、もう一度、綺麗な瞳を見せて。」

 自分を抱いていた手が、自分と同じぐらいの大きさであることに今更気がついた。どうして、気がつかなかったんだろう。


 死、というものはとても近くにあることを理解している積りだった。それがすごく重たくて暗いことも。

 けれど、やっぱりそれは「つもり」で、「つもり」以上でも以下でも何者でもない。

 彼が死んだ、ということが何度も何度も脳裏を過ぎる。

 「好き。」

 また、声に出してみて、そうして一人で泣く。

 泣けば涙を拭ってくれる温かい手が、今はもう動かないのだと知っているのに、期待することをやめられない。

 「なんて、馬鹿らしい。」

 馬鹿なのはあんただよ、って言って、死んだフリでした!って大声で馬鹿みたいに笑って言ってほしい。

 壊れた機械のように、ずっと涙は止まらなかった。上を向いては溢れてくるし、下を向いては止めどもなく流れていく。


 もう一度、死体の手に触れた。さっき自分で分けた生暖かさが残っているだけで、もう、あの温度とは程遠い。

 「馬鹿、馬鹿。なんで先に行くんだよ……」

 そんなふうに罵ってみても、あの声は聞こえてこないし、ただ涙が流れるだけだ。


 君と一緒にいたせいで、長くいたせいで、自分一人で涙を止めることができなくなった。自分の温度も触れたものの暖かさも、全部君が教えてくれたって言うのに。

 ずっと自分を抱いていた手が、思っていたよりも、感じていたよりも小さかったことに、ただ、後悔が残る。


 君に教えてもらうしか、この世界の素晴らしさなんてわからないんだよ。

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お題箱消化 あずさ @azusa_92969

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