第3章 手向けの花

 つい先日、ここへ来たばかりだった。病で息を引き取った母親を見送るために。

 集まった人々が同情の目で、涙を堪える自分を見ていたのをぼんやりと覚えている。

 今、あの時と同じ光景が、また自分の目に映り込んでいた。

 ただ今日、墓地の穴に横たえられ、これから自分が土を掛けようとしているのは、あの日、自身も深い悲しみを眉根に刻みながらも自分の背をしっかりと支えてくれていた父、そのひとだった。

 誰にだっていつかは死が訪れる。生まれる子供の半分は自分の歳にさえならずに死んでいくし、母のように、ちょっと病が流行ればそれこそ簡単に多くの命が失われていく。

 貧しい農村よりよほど豊かな王都で暮らしていてさえ、葬列を目にすることは珍しくもない。

 けれど、ひと月も経たずに家族がひとりもいなくなるなど、つい二日前には考えもしなかった。

 もともと一家で貴族の屋敷に仕えていたので、主の邸宅の一角に与えられた部屋で寝起きしており、眠る以外の生活は他の使用人たちと共同だった。

 母が亡くなった後も日中は雑用をこなしたり、屋敷内の聖堂に通って司祭から読み書きを学んだりと忙しく、どうにか母のいない淋しさをやり過ごしながら、表面上は以前同様にやっていけていた。

 ただ自分たち家族に与えられた部屋に戻ると、そこで毎夜毎朝与えられていた母からの安らぎや温もりがないことに、ひどく胸が軋むことがしばしばあった。

 それでも、その喪失感が傍らにあることがむしろ普通であると、ようやくそう感じられてきた――その矢先のことだった。共に街に出掛けた際、父の命が失われたのは。

 坂道で資材を運ぶ荷車のくびきが外れ、滑落してきた荷台に親子で巻き込まれかけた。

 咄嗟に父は自分を突き飛ばし、父だけが引手を失った車の直撃を受けたのだ。弾かれた父の身体に目立った外傷はなく、けれどその口から零れる血が、受けた衝撃の激しさを物語っていた。

 居合わせた大人たちが何人も駆け寄ってきたが、誰にも、何もできなかった。

 何故か涙は出てこない。それどころか、辛いとか、悲しいとか、淋しいといった、言葉で形容できる感情は何ひとつ浮かんでこなかった。

 自分の師でもある司祭の祈りの言葉が耳を掠めるも、心のどこにも引っ掛からず、ただ虚空に流れて消えていく。

 参列者は少なく、共に祈りを捧げるのは、同じ屋敷に仕える使用人の仲間数名のみ。

 父には屋敷の外にも友人や知人がいないわけではなかったようだが、昨日の今日で、自分には彼らに父の死を伝える術など持ち合わせていなかった。

 この大陸では、人死にが出ると何はともあれ速やかに埋葬が行われる。

 遺骸を放置してはニームに奪われ、弄ばれると言い伝えられているからだ。

 王都の住人は外郭にある墓地に葬られるが、そこには常時、墓穴掘りを生業とする者たちが詰めている。彼らはニーム除けのまじないを口にしながら、運ばれてきた遺体のための穴を掘り、そして埋めるのだ。

 ニームとは、かつてこの大陸全域を版図とし、千年にわたって繁栄した帝国の名であり、その支配階級を指す言葉でもあった。当時はこの大陸自体がその名を冠してもいた。

 不可思議な力を操るニームの支配下では、エルムの民は人と見做されなかったと言われている。

 朝な夕なに無差別にエルム人を拐っては、彼らが信奉する神にその肉体を切り刻んで捧げていた。

 日々に搾取される血と肉の量は膨大で、エルム人は彼らの貪欲な神の『餌』でしかなかったのである。

 後に教会が聖者として信奉することになるバルサムという人物を先頭に、エルムの民が蜂起し、長い戦いの末に帝国が滅亡してようやく五百年。

 しかしその忌まわしい記憶はいまだにエルム人の心に色濃い影を落としていた。

 教会の祈りのことばに、子供たちが遊びで歌う唄に、親が子供を叱る際の言い回しの中に、至るところにニームの名は恐怖の代名詞として散りばめられている。

(ニームなんて、ほんとにまだいるんだろうか)

 墓穴掘りが歌うまじないの言葉を聞きながら、そんな疑問がふと頭をよぎった。

 感情が麻痺してしまっているせいか、とりとめのない思考ばかりが浮かんでは消える。

 もう今生で見ることはなくなるであろう、父の姿が土の中に消えていくことについては、何も考えられずにいた。

 ついに穴は埋められ、自分と父は地上と地下にその居を分かたれる。

 司祭の鎮魂の言葉が終わり、最後に参列者が口々に故人に別れを告げて、葬儀は終わった。

 参列した人々が去っていく間、ぼんやりと父が埋められた跡を見るとはなしに見る。昨日の昼間まで自分と元気に言葉を交わしていた相手が、この下で眠っているのだ。あまりに現実感が無い。

(帰らなきゃ……)

 いつまでもこうしているわけにもいかない、とぼんやりと思い、しかし顔を上げる気にもならず、俯いたまま墓の前から踵を返した。

 その場を後にすべく一歩を踏み出す――と、その瞬間、どんっ、と何かにぶつかった。

「……っ」

 驚いて顔を上げると、その視界いっぱいに大量の白い花が飛び込んできた。咄嗟に、何が起きたのか分からなかった。

 花々と、その向こうに見える頭から外套をすっぽり被った人影との間を自分の目が幾度か行き来して、ようやく、たくさんの花を抱えた人間にぶつかったらしいと理解する。

 見たこともない大輪の花が、何本か地面に落ちてしまっていた。

「あ……、ごめんなさい」

 あわてて花を拾い、その人影に渡す。

 相手は花を受け取ると、しばし自分と、その向こうに見える真新しい墓穴の跡を見遣った。陽を背にしていて、外套の中の顔はほとんど見えない。

 明らかに野辺に咲く類ではない花をこれだけの量手に入れられるとは、相当に裕福な人間に違いなかった。そんな相手にぶつかってしまい、しかも花を落としてしまうなど。

 怒られるのかと身構えた自分に、しかしその相手は今拾って渡されたのとは別の花を一輪抜き取り、それをすっとこちらに差し出した。

「え……?」

 きょとんとした自分に、なぜか顔の見えない相手から、笑んだような気配を感じる。

「どうぞ」

 落ち着いたその声はまだ若く、しかし子供に対する慈しみのような気配が滲んでいた。

 反射的に、花を受け取る。

 自分が両手でそれを持ったのを認めると、相手はそのまま歩き出し、こちらが言葉もなく呆然と見つめるなか、墓地の奥、貴族が眠る庭園の方に姿を消した。

 しばらくその方角を見つめた後、手元に視線を戻し、自身の手がおそるおそる持っている花を見下ろす。

 太く真っ直ぐな茎、それを包むように、縁が波打った大きく長い葉が一対、切り口近くから互生していた。茎の先に大人の拳ほどもある花がひとつ付いている。

 六枚のやや先細りな花弁が軸から立ち上がり、途中から反るようにわずかに開いて、控えめに中のしべを覗かせていた。

「よかったなぁ、坊主。ほら、親父に供えてやれよ」

 見ていた墓穴掘りが、花を握ったまま固まっている自分にそう声を掛けてきた。

 振り向くと、まだその場にいた司祭も微笑みながら父の墓を示す。

 促されるままに歩み寄り、屈んで真新しい土の上に花を置いた。

「すごい花だな、どこの貴族様なんだか」

 たった一輪が放つ存在感に、あらためて目を瞠った墓穴掘りが言う。

 その場に立ち上がり、見るとはなしに墓を見る。確かにただ掘り返された土の跡でしかなかった場所が、花をたった一輪供えただけで、重い意味を持った特別な場であるように映る。

 花の色は白いのに、父が亡くなって以来ずっと、自分の目には色褪せて映っていた世界が、なぜだかそこを中心に急に色付いて見え出した。

 それは、あまりの事態にあらゆる感情を拒絶して閉ざしきった心が、これまた現実感のない美しさを湛える名も知らぬ花によって、無理やり抉じ開けられたのかもしれなかった。

 土の匂いが鼻に届く。早春の冷たい風が頬を撫でていることに気付く。五感が俄かに機能し始め、全てが遠かった周囲の景色が、自分の意識の中の現実に重なり合う。

 自分を取り巻くあらゆる事象が実感を伴って息を吹き返し、それにつれて感情が、思考に追いついてくる。

 それは、無防備なまま茨の棘の中に放り出されたかのような感覚だった。そして、これはまずい、と漠然と思った。

 そう、母を亡くしたばかりの自分は、頭の片隅では分かっているのだ。この現実を受け止めたら、どんな痛みが自分を襲うのか。

 分かっているからこそ、心を閉ざして逃れようとしたのだ。訪れることが予想できる苦痛を、その通りになぞって体験していくことは、恐怖でしかなかったから。けれどもう、それを止めることができない。

(……父さんは、死んだんだ……)

 鋭い痛みが、心の奥底まで一気に突き抜けた。知らず身を折り、嗚咽を必死に飲み込む。ここで泣いたらもう歩けない。本能的にそう思った。

 顔をぐしゃぐしゃに歪めて、しかしなおも涙を堪えようとする自分に、司祭が近付く。その後ろから、墓穴掘りが言った。

「坊主、泣いちまえよ。お前は今辛いんだ。辛いときにちゃんと泣いておけ。でないと心が千切れちまうぞ」

 ぞんざいな口調だが、たくさんの死に触れてきた人間ゆえの暖かさが籠った言葉だった。堪らず、傍に寄ってきた司祭の僧服を掴む。縋りついた自分の肩を抱いて、司祭も静かに頷いた。

「彼の、言うとおりです。我慢せずにお泣きなさい。……大丈夫、泣いたからって、君は壊れはしない」

 それでもすぐには泣き出せず肩を震わせていると、泣いて大丈夫、と重ねて言われる。

 ようやく食い締めた唇を抉じ開け、泣き声とも叫びともつかない苦鳴をあげながら、涙を絞り出した。

 一筋ようやく零れた涙は、途端に堰を切ったように後から後から溢れ出す。

 同時にぐちゃぐちゃに混ざり合ったまま抑えていた感情も、一気に噴き出して意識に襲いかかってきた。その荒れ狂った奔流を、心にひとつひとつ受け止めることなどできずただ押し流される。

 しまいには自身の嗚咽の激しさに、苦しいのか悲しいのかすら分からなくなった。本当に自分は壊れないのだろうか、と意識の片隅でおかしな心配すらしてしまう。

 結局、しばらくその場で激しく泣いた後、そのままぼろぼろと涙をこぼし続けながら、司祭にくっついて墓地から屋敷までの道を歩いた。

 その日はいつまでも涙が止まらず、入れ替わり立ち替わり、手の空いた大人たちが自分の居る場所にやってきては、ある人は無言で、ある人は慰めの言葉を口にしつつ、頭を撫でてくれた。

 のちのち思い返すと、あまりに格好がつかなくて恥ずかしい。

 しかし、あんまり激しく泣いたせいで、恐れていた、訪れるはずの心の痛みとやらは訳が分からないうちに自分の中を通り過ぎてしまっていた。

 ようやく涙が止まる頃には、心の中にはただ、父を喪ったという事実だけが淡々とそこに佇んでいるばかりとなっていたのである。

 それにしても、人目も憚らず大泣きするはめになったのは、あの花のせいだ。

 いずれ、ただの下働きではなく、もっと学んで屋敷の書庫に出入りを許されるようになったら、あの花の名を調べてみよう、そう思った。

 貴族の邸宅に仕える使用人たちはある種の共同体のようなもので、そこで働きながら成長していく子供は、孤児となってもその生活はそれほど変わらない。

 部屋は小さい場所に移されるかもしれないが、食事は使用人のための食堂で皆と摂ることができるし、衣服の洗濯や細々としたことは周りの大人が他の仲間の子供たちと一緒に面倒を見てくれる。

 なのでこれまで通り働きながら、書記を目指して学ぶ日々が続く……はずだった。


「お前のような罪人つみびとの子を、屋敷に置いておくことはできぬ」


 ――父の葬儀からわずか三日で、自分の暮らしは急転した。 



 いったいこの暗がりでどうやって見付けたのか、ヴィーが走るのは獣道か何かのようだった。

 下草は踏みしだかれ存外に走りやすく、上からは葉が覆いかぶさっているものの、行く手に木の幹などが立ちはだかることもない。

 しばらく走った後、ヴィーは歩調を緩め、ディルにも止まるよう手で指示した。速度を落とし、更に十数歩進んだ先でどうにか立ち止まる。ふたりとも激しく息が上がっていた。

「……ちょっと、状況の、整理をしましょう」

 苦しい息の間から、ヴィーはなんとか小声で言った。ディルは無言で頷く。とても声など出せなかった。

「必ず、暗くなる前に、逃げ道を探しておけ、と教えられていましたが……。まさか本当に、使うことになるなんて、ね……」

 それでこうも都合良く逃げられたのか、とディルは納得する。しかし、その教えというのはいったい何なのだろう?

 しばらくふたりは無言で荒い呼吸を続けた。ただ走るだけならともかく、身体をかがめながらというのはヴィーにとってもかなり消耗するものだったようである。

「……あの包帯をした男を知っているのですね?」

 ディルより早く呼吸が整ってきたヴィーは、だいぶ普段の穏やかな調子を取り戻して尋ねた。

 ディルは肯く。まだまだ乱れたままの呼吸をどうにか宥めると、途切れ途切れに言った。

「……あ、いつの、怪我……おれがやった……」

 ヴィーが目を見開く。

「貴方が?」

「……おれ……王都で、いきなり殴られて、気を失ったんだ。気が付いたら街の外で……。縛られて荷馬車に乗せられて、どこかに運ばれてるとこだった。夜になって野営が始まったんだけど、そしたらあの頭目に引き摺り降ろされて、地面に押さえつけられて……」

 そこまで言って、ディルは自分の身体を抱くように両手で自身の二の腕を掴み、身を縮めた。

「なんか、あいつ……服、脱がそうとしてきて。冗談じゃないと思って逃げ出してきたんだ。そのとき……よく覚えてないんだけど、あいつの目、斬っちゃって……」

 ヴィーは怪訝な顔で小首を傾げた。

「目を斬る?」

「あいつが腰に差してたナイフ抜いて、振り回したら……」

「……ああ、つまり事故……」

 納得したようにヴィーは言い、ディルは頷く。

「うん……もうおれ、あいつから血がすごい出るしおっかない悲鳴あがるし、わけ分かんなくなって逃げ出して……。そのあと森の中で迷ってたら、ヴィーを捕まえたやつらに出くわしたんだ。あいつらはあいつらで、言葉が分かんなかったりすぐ殴ってきたりっていうのはあったけど、でもそれだけならまだマシかなって……」

「それであの小屋で、自分から逃げようとしなかったのですね」

 ヴィーは深いため息をついた。

「貴方は、強運です。……逃げおおせて本当に良かった。それなりの規模の一団を率いているにしては迂闊としか言いようがないですが……。貴方のような王都育ちの子供なら、反撃などできないと高を括っていたのでしょうね」

「すごい厭だった、ってだけでよく分からないんだけど、あいつおれに何しようとしたの?」

「……それについては今の歳の貴方に話したくありません」

 げんなりした様子でヴィーは言った。

「なにそれ」

 承服しかねる顔でディルは食い下がるが、ヴィーは断固として口を割らなかった。

「……でもディルの勘は正しい。逃げられなかったら貴方は心身共に大きく傷ついていたことでしょう」

「だからなんだったの、って訊いてるんだけど」

「言いたくありません」

 きっぱりと言われ、ディルは半ば睨むような目つきでヴィーの顔を覗き込む。しかし彼はまったく動じる様子も無く話を続けた。

「でも、これからも気を付けてくださいね。痣が薄くなってきたら、貴方はなかなか整った顔をしていますし、格好の餌食です。嫌な予感がしたら、とにかく逃げてくださいね」

 ディルは憮然とする。

「ヴィーに顔が整ってるなんて言われるのおかしいし、何が餌食なのかちっとも分からないし」

「いいから。これからも自分の身を大事にしてください」

「ちゃんと教えてよ」

「うーん、無理です」

 こんな真っ向から拒否されてはもはやどうしようもない。

「あれは盗賊の一団と見えましたが、あの集団に名前はありますか? 何か聞きました?」

 何事もなかったかのようにヴィーは堂々と話題を移した。

 ディルは未だに納得がいかなかったが、良くも悪くも、今押し問答をしている場合ではない、と分かってしまうくらいには、彼は聡明だった。

「……うーん? どうだったかな。……赤……キツネ……?」

赤夜狐あかよぎつね?」

「ああ、それだ! 知ってるの?」

「名前だけですけれどね」

「キツネっていうよりクマみたいなやつばっかりに見えたけど」

 ヴィーは何やら考え込みながら、更に尋ねた。

「彼等と一緒にいた者たちのことは? どこかの家に仕える騎士か何かのようでしたが……」

「……分からない」

 ふむ、とヴィーは彼をしげしげと見つめる。

「……答えたくなければ答えなくていいですが、貴方の父上は貴族に仕える書記だったということでしたね?」

「……うん」

 父親について訊かれるのだと分かり、ディルは明らかに身を固くした。

「なんという家に仕えていたのですか?」

「……リリー卿」

 ヴィーの目が僅かに見開かれる。

 リリー一族といえば、カンファーでも屈指の権勢を誇る名門だ。それでヴィーはその名に驚いたのだろうか、とディルは思った。

「何人かいますね。どなただろう……」

「ええと、アブラス・リリー男爵」

「ふうん、議会の重鎮ですね。――何かおかしいと思っていたのですが、貴方もリリー卿の屋敷で暮らしていたのではないのですか?」

「そうだよ。……でも……」

 肯定したのち、ディルは声を詰まらせて項垂れる。

「おれ、父さんが死んだすぐ後、あそこでまずいものを見ちゃったんだ。たぶんそれで……こうなった」

 ヴィーはまたもやきょとんとした顔で小首を傾げる。

「あの、最後が大事なので、そこを省略しないで話してもらえると助かるのですけど」

「……うん」

 ディルは力なく頷いた。

「そこを話したくなくて、今まで口を閉ざしていたのですか?」

 そう問われ、ディルは俯く。

「……うん。信じてもらえるか分かんなくて……」

「私は、貴方が嘘を言うとは思いませんよ」

「分かってる。ヴィーには話したほうがいいんだってことも」

 ヴィーは腰の剣帯から長剣を外し、その場に片膝を立て、剣を抱いて腰を下ろした。

 ディルはともかくヴィーはずっと身を屈めたまま話していたので、さすがに体勢が辛くなったのだろう。

 ヴィーはディルを自分の向かいに座らせた。

「……話を聞いても?」

 あくまで無理に聞き出そうとはしないつもりらしく、控えめにヴィーは問う。

 ディルはようやくそこで顔を上げ、真剣な面持ちでこくりと頷いた。

 まだ自分に選択の余地を与えるなんて、どこまでこの連れは緊迫感がないのだろう、とほんの少し、心の何処かで呆れながら。

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