最終話 地上にできた楽園

 あの戦いから数年、リクトの作った町は国となり、その規模は既にブレード大陸全域へと広がりを見せていた。全員がリクトを王と仰ぎ、争いもなくその人口を増やしていく。

 ここは地上に残された唯一の楽園、魔と人が争う事なく平和に暮らす地。ここにようやく神が望んだ景色が完成に至ったのである。

 魔神グレマンティスが連れてきた魔族と魔人はウルティマとの戦いを遠くから見ていたようで、誰一人逆らおうとした者はいなかった。あの敵には一切の容赦ない攻撃を繰り出すリクトに完全に平伏していたのである。

 メスはリクトに群がり、オスはリクトを守るために力を尽くす。まさに理想の国が誕生したのである。


「……最高だなぁ……。何もしなくても民が自らの意思で働き、問題があれば俺の手を煩わせまいと解決に動く。ようやく理想の場所が完成に至った……。ん~……怠惰最高っ!」


 長く望んだ場所にようやく到達できたリクトは怠惰に怠惰を極めた生活を送っていた。


「こ~ら、リクト。ちゃんと働かないとダメよ?」

「母さん。ははっ、働こうとしてもさ、皆が仕事を奪ってっちゃってさ~」

「あら、リクトの仕事はそれじゃないでしょ?」

「え?」


 母親は扉の方を指差した。そこには成人したばかりの民が並んでいる。


「大陸は他にもあるんだからね? リクトはもっとも~っと人口を増やしていかないと」

「え~。勝手に増えればいいじゃん。俺じゃなくても良くない?」

「ダメよ。中にはそれでも良いって子もいるかもしれないけどね、ああして望んで来る子たちを蔑ろにしちゃダメよ。リクトは民から慕われる王じゃなきゃ。ね?」


 扉の前に並ぶ子らはもしかしたら抱いてもらえないのではと不安な表情を浮かべている。ああ、もうっ。


「お前たち、全員寝室においで。孕むまで寝室からは出さないからな? それでも良いなら服を脱いでおいで」

「「「「はいっ! リクト様っ!」」」」


 これが今日だけではなく数年前から毎日続いている。大陸はリクトの子らで溢れていた。一応言っておくが娘には手を出していないぞ。多分。


 この世界では男子は母親に筆下ろしをされる。リクトのように母親と結婚してしまう例は稀だが、筆下ろし以降も関係を続ける母子は結構いた。何せ男子はリクトの血をひいたイケメン揃い。やらないわけがない。そして女子もリクトの血をひくと絶世の美少女に。モテないわけがない。


「あっあっ、やっと私もパパに抱いてもらえたぁぁっ……」

「なにっ!? お前っ……!」

「あれ? パパ知らなかったの? 今まで何人かパパの子いたんだよ?」

「……知らんがな。っはぁ~……、言うなよなぁ……」

「パパ~、新しい法律作ってよ~」

「あん? どんな?」


 娘が言った。


「女の子の初めてはお父さんが奪うこと! ただし、孕まないように避妊はしっかりすること! ってどうかな? 男の子だけママと出来るなんてズルいもんっ!」


 ふむ。まぁ孕まなければやる分には問題ないんじゃないか。


「わかったよ、明日からそうしよう」

「やった! パパ~、娘とするならちゃんと避妊しなきゃダメだよ? 私に避妊した?」

「……終わってから言われてもよ……。ま、一回だけだし大丈夫だろ」

「へへ~。パ~パ、私今日危険日!」

「なっ!?」

「女の子産まれたら孫を抱く事になっちゃうね、パ~パ!」


 孫とやるとか想像すら出来んな。


 その翌日から処女の娘が城に大挙してやってきた。おかげで休む暇もなく娘を抱かされていた。


「はぁ~……平和だねぇ~……」


 人口は瞬く間に増え文明も発達していった。リクトは前世の知識を惜しみなく振る舞い、世界の文明レベルを現代レベルまで引き上げた。プラス魔法と言う力もあるこの世界は前世を遥かに凌駕した文明を確立していくのである。

 その一つが細胞の培養だ。これはかつて世界に存在していた種族を復活させる目的から始まった実験だ。

 世界にはかつて人間以外にも獣人とよばれる生物が存在していたのである。リクトは一人も見た事はなかった為、最近その存在を知った。


「おぉ……これが獣人か……!」

『リクト様、そろそろカプセルから出しますか?』


 培養カプセルの中には既に生殖可能な状態にまで成育した獣人がズラリと入りいくつも並んでいる。獣人は総称であり、その種は多岐にわたる。


「ああ、知能の方は問題ないだろうな?」

『はい、しっかりと教育されております。言葉も理解出来ますし、リクト様の事は神と刷り込まれております』

「神って……。まぁ良いや。一人ずつ出してくれ。じっくり確かめたいからな」

『畏まりました』


 こうしてリクトは滅んだ種族までをも復活させ自分のモノにしていく。


『ふにゃあ……、リクト様は神様にゃ~……』

「いやいや、獣人ってのも中々良いな! くそう……もっと早く見つけていたら確保していたのにっ!」


 今さらの話だ。一からゆっくり増やしていくしかない。失われたモノを復活させると言う事はそれだけ大変な事なのである。


 さらに数年かけ、リクトは滅んだ大陸を新たに整備し、そこを一から増やした獣人らにプレゼントした。獣人と言う奴らは種族にもよるが一度にかなりの数を産むのである。それでなくとも妊娠期間の短い魔族がこれまた爆発的に数を増やしており空き地がない現状。


「こりゃ違う大陸も早めに復活させとかなきゃ間に合わねぇなぁ……やれやれ、怠惰に暮らすのも楽じゃねぇな!」


 こうして、世界はリクトを中心に目覚ましく発展していくのであった。


 そして……。


『うっぐぅぅぅぅっ……ぐほっ……! はぁっ……はぁっ……くくくっ……届かんかったか……はぁ……はぁ……』


 傷つき消えかける魔神を見下ろす巨大な影が一つ。


『小さき者よ、妾に挑むのは数万年早かったのう……』

『……その様だ。我の負けだ……。だが、全く勝てぬとは思えんな……』

『ほう? そのザマでか?』


 下半身を失い身体の八割が消えかけながらも魔神は笑顔だった。


『ああ、我は確信した。お前より強い者が人間界にいる』

『人間界? ほう?』


 巨大な影、世界竜はその顔を魔神へと近付け興味深そうに問い掛ける。


『問う。その者は悪か? 世界に仇なす者か?』

『……誰が教えるか、バーカ……ふくっ、くくくくっ……! ああ、良い気分だ……。……どうやら我はここまでだ……。リクト、ウルティマ……。孫を見る約束を叶えてやれそうにない……。それだけが残念……』


 そこで魔神グレマンティスは霧となり消えた。


『……リクトにウルティマか。ふむ、これは放ってはおけぬな。人間界か……、何万年ぶりかのう……』


 世界竜は両翼を大きく広げ空に浮かび上がる。


『世界の均衡を脅かす存在……、見逃すわけにはいかぬ……。妾が自ら確かめてやろうではないか……』


 そう呟き、竜界の主である世界竜は自ら人間界へと飛び立つのであった。


 ──完──

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

怠惰な俺は転生しても怠惰に暮らしたいと思い、神様にスローライフを懇願してみた 夜夢 @night_dreamer466

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ