第161話 ファブーロ阻止戦

『視力を使わないで動くというのはやはり微妙に不安だよな。アシュの特訓で慣れたけれどさ』

『でも支障はないよね。見えているときと同じようには動けないけれど。必要な程度には魔法でわかるからね』

『確かに道路も人もゴーレムもわかるけれどさ』

 ファブーロの湿原出口付近。

 いつでも道路を封鎖して戦闘態勢に入れるよう部隊は森の中で待機中だ。


 俺はいつもの黒装束姿だが、今回はミランダとフィオナも俺と似た黒装束姿になって貰っている。

 全く同じという訳では無く、ミランダは右肩、フィオナは左肩に赤い肩カバーのような飾りをつけている。

 この服装はナディアさん考案だ。


『いかにもチャールズ・フォート・ジョウントの部下と一目でわかる服装にしておいた方がいいでしょう。その方が敵に対して効果的ですから。本来は目立つ衣装は攻撃の的になりやすいので避けるのですが、あの魔法を使えれば問題ありません』

 なおナディアさんについては既に脅威として騎士団に知られているから、こういった服装は必要ないとの事。 


 魔法で監視している地点のひとつをゴーレム車の車列が通過した。

 それではお仕事をするとしよう。

『チャールズ・フォート・ジョウントより部隊に連絡、敵はバースチの街を通過。ゴーレム車70台。騎士団員3個中隊、ゴーレム3個中隊と思料される。なお陛下及び近衛騎士団長カシム伯爵の紋章を確認。当地へは最短で3半時間20分で到着』

 伝達魔法をここに配置した第二騎士団全員に流す。


『派遣隊長より騎士団各位へ。これより状況開始。3の1にあっては街道封鎖措置を開始せよ。回信は3の1のみ』

『3の1了解』

『以上派遣隊長』


 作戦が開始された。

 俺も丸太障壁を街道上に設置する。

 この辺はいつもの作戦通りだ。

 だが今回のゴーレム阻止はナディアさんではなくフィオナとミランダ。

 その辺慣れていないのが少し心配だ。

 未来視では問題無いという結果が見えているけれど。


 そうだ、向こうの情報も流しておかないとな。

 魔法で確認してから一報を入れる。

『チャールズ・フォート・ジョウントから派遣隊長宛。バジリカタ方面もまもなく接敵。敵側が同時に戦闘に入れるよう調整しているものとみられる』

『派遣隊長了解』


 よし、それでは俺も作戦にうつるとしよう。

 丸太障壁のところまで俺とミランダとフィオナ、3人で歩いて行く。

 今回はゴーレム同士の戦闘は行わない予定だ。

 だから俺達が最も前。

 しかも丸太障壁の上が配置場所だったりする。

 理由は簡単、一番前でありまた一番目立つ場所だからだ。


 さて、ゴーレム車が湿原入口に入ってきた。

 そろそろ次の段階に行くか。

『チャールズ・フォート・ジョウントより派遣隊長宛。敵先頭ゴーレム車湿原入口。以降チャールズ側の報告はチャールズ部隊左が代行する』

『派遣隊長了解。派遣隊長から派遣隊各位、敵部隊湿原入口、以上』


 先頭車両が目視でも見える距離になった。

 流石に車列は停止する。

 降りてきたのは偉そうなの2人とそのお付き数名。

 そしてゴーレム部隊だ。


『また会ったね、チャールズ・フォート・ジョウント君と第二騎士団の諸君。今度も僕たちの邪魔をするつもりかい』


『ここで陛下の覇道を許してしまう訳にはいかない。さもなくばかつて陛下自身が目指した、スティヴァレの目指すべき道がまた遠のく事になる』


『権力なんてものは所詮は覇道の末にあるものさ。それは歴史が証明しているよ。でもこの辺の議論を君達としてもどうせ無駄だろうね。だから事実だけを並べて降伏勧告と行かせて貰おう。


 現在、此処には3個中隊300の戦闘用ゴーレムと同じく3個中隊の騎士団がいる。そして他ならぬ僕がいるんだ。更に言うとバジリカタにも同規模の騎士団が向かっている。今頃はここと同じように接敵しているところだろうね。


 さて、見たところそちらにはこっちの3割程度の兵力しかないようだ。ついでに言うと前回いたナディアはどうもバジリカタのようだね。更に言うと今度はこちらの戦闘用ゴーレムも同じ戦闘用ゴーレム相手に戦えるよう調整を繰り返してきた。この前のようにはいかないと思うよ。


 更に言うと、チャールズ君のお相手は今度も僕がさせて貰う。そして此処にはナディアはいない。どう考えても今度は君達が不利じゃないかな。でも僕も鬼じゃないしここで戦力が減るのも正直嬉しくない。

 だから君達に降伏勧告をさせて貰うよ。チャールズ君が僕及び僕の率いる騎士団他の戦力に以後反抗せず、第二騎士団がこちらの傘下に入るという条件で降伏を認めよう。悪くない提案だと思うけれどどうだい」


 陛下本人は別として向こうの兵や指揮官は自分達の優位を信じているようだ。

 その方がいざ不利になった場合に動揺が大きいだろう。

 陛下はそのような舞台設定をしてくれた訳だ。


『確かに今回はナディアをバジリカタに置いてきた。彼女がいればバジリカタの防衛も安心だろうからな。だがこちらを軽視した訳では無い。ナディアの代わりに部下を2名連れてきた。この2名には臨時に私の魔法を貸し与えてある。陛下以外についてはこの2名がお相手をさせて貰おう』


 それにしても茶番だよな、この会話。

 これもひとつの様式美という奴だからやっているけれど。

 だがこれで舞台説明はほぼ終わった。

 主に陛下が説明してくれた形だけれども。


『なるほど。それでは貸し与えられた程度の力でこの圧倒的な兵力差に対抗できるか見せて貰うとしよう。それでは栄えある近衛騎士団及び第一騎士団の諸君、我らが前に立ち塞がる敵を一掃せよ』


『それでは陛下、参ります』

 俺と陛下は姿を消す。

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