第20章 バジリカタ親征

第151話 革命の組織

 朝。

 一緒に寝ているテディを起こさないよう、寝たまま動かず未来視で近い将来に起こる出来事を確認する。

 今日も今のところ注意すべき出来事は無いようだ。

 それを確認した後静かにベッドを出て着替えて下へ向かい、洗面してリビングへ。


 ここまでバジリカタ襲撃から僅か2週間。

 やったのは対策本部と称した組織の構築とその運用だ。


 協力者である第二騎士団、オイグル伯爵家、商業ギルド、冒険者ギルド。

 招致した学者や元官僚。

 現在の国王の政策に不信感を持っている貴族の一部。

 そういった面々で構成された対策本部を俺達と第二騎士団中心に構築。

 革命に向けて準備を進めている訳だ。


 対策本部の一部はチャールズ・フォート・ジョウント一味、そのうち主にテディとフィオナが中心となって動いている。

 彼女達は一部の学者には『想像上で論じる政治体制として可能性のある制度の構造分析』の件で知られている。

 またイービス商会で数多くの専門書を出している事を知っている者も多い。

 その辺を見込んでチャールズ・フォート・ジョウントが引き抜いたという設定だ。

 現在は学者や元官僚達に提言を出して貰ったり意見を投稿して貰ったり、革命後の憲法や政治体制構想に取り組むのが主な仕事になる。

 提言等の内容によっては第二騎士団や商業ギルドからの出向者等とはかって実施に回す事も多い。


 今日もミランダ以外は朝食後、第二騎士団本部棟内の対策本部に出勤予定。

 俺以外が移動魔法を使える事は秘密なので、俺が送り迎えする形になる。

 移動用ゴーレムの存在はうちの面子以外には部外秘扱いだ。

 なおミランダは号外紙出版社を中心に単独行動。

 時に協賛する商人を連れてきたり逆にジュリアを連れ出したりもするけれど。


 ◇◇◇


 世間は揺れている。

 陛下が正体の偽チャールズは週に1~2回くらいの割合で出没。

 ラツィオだけだった検閲がフロレントでもはじまった。

 実際には商業ギルドや冒険者ギルド経由で検閲無しの号外が入っているけれども。


 学校や一部の国の機関は活動を停止したままだ。

 一部の国の機関は中央政府から独立して住民のために動いていたりもする。

 領主である大小貴族は7割が国王側、残りのほとんどが様子見だ。

 騎士団は近衛と第一が国王側で第二が民衆側、フロレント拠点の第三はやや国王側寄り、第四と第五は様子見という状態。


 官僚機構や騎士団等に席がなく領地在住だった貴族のうち、国王側についたかなりの数がラツィオに移動した。

 暴動やチャールズの襲撃を恐れてだ。

 逆に平民を中心にかなりの人数がラツィオから逃げ出している。


 現在のラツィオにはチャールズ一派や暴動企図者を防ぐためという名目で厳重な出入り規制が行われている。

 だから本来許可がない一般の平民は勝手に出入りは出来ない。

 でも実際にはかなりの人数が暗闇等に紛れ脱出している。

 これにはチャールズ・フォート・ジョウント一味が関わっている。


 ラツィオ内では物価が他の地域以上に上がり生活が苦しくなっている。

 商人が寄りつかなくなったから当然だ。

 だが逃げ出すのはそれだけが理由では無い。

 騎士団による度重なる徴発。

 絶対王政に反する思想の取り締まり。

 暴動やチャールズ事案阻止のための夜間外出禁止令。


 そういった数々の施策が絶対的に庶民を住みにくくさせている。

 結果、脱出希望者が大勢いる訳だ。

 商業ギルドや冒険者ギルドを通じて希望をとったそれらの者を脱出させる事。

 それが今の俺、チャールズ・フォート・ジョウントの業務のひとつだ。 


 ただし脱出しても行くあてが無い者も多い。

 そういった者は現在、ネイプルに仮住まいさせている。

 この辺も対策本部が対応し実施しているものだ。


 脱出先にネイプルを選んだのは第二騎士団があるという理由だけではない。

 此処が南部の最北端にあって、ラツィオから馬車2日と遠くない割にはラツィオや王家の影響力が少ない事。

 領主のアシャプール侯爵家は先日陛下扮する偽チャールズに襲われ、代官を残してラツィオに逃避して不在である事。

 現在はラツィオで投獄中の第二騎士団長オイグル伯が民衆に対し融和的である事。

 またオイグル伯爵家がネイプルに隣接した領地を持ち、国王の現政策について批判的である事。

 南部最大の都市である事から多人数を受け入れても影響が比較的小さい事。

 そういった様々な理由で選ばれた訳だ。


 脱出者に与えられる仮住まいも難民キャンプのような代物では無い。

 空いている賃貸住宅や第二騎士団施設の一部、更には第二騎士団演習場等に建てられた仮設住宅等といったそれなりの質を確保した住宅だ。

 この辺はオイグル伯家や商業ギルド等からかなり協力して貰っている。

 俺達新興の成金ではとても対応しきれない資金が必要だから。

 

 なおオッタービオさんを含む工房の皆さんも早期に一族郎党で脱出済み。

「今のラツィオは酷い状態です。騎士団が我が物顔で街中を回っていて気に入ったものを勝手に徴発と称して持ち出したりまでしています。人数に物を言わせて文句すら言わせません。庶民のほとんどは家屋内で息を潜めている状態です」

との事だ。


 オッタービオさん達には第二騎士団演習場にある建物の一部を整備して仮住まいして貰っている。

 現在は俺が奪ってきたゴーレム車や戦闘ゴーレム、更には通信用ゴーレム等を整備して貰っている状態だ。

 通信用ゴーレムもラツィオの工房から徴用を免れた試作品を全て取り寄せた。

 おかげで第二騎士団内に置かれた臨時対策本部、ラツィオの商業ギルドと冒険者ギルド等に通信用ゴーレムを設置し、連絡がとれるようにしている。


 ◇◇◇


 仕事机が並んでいるけれど妙に落ち着く別荘のリビングで再度、未来視を確認。

 考えられる限りの条件を変えて今日、明日、明後日と確認したが、特に対応すべき事は無い模様だ。

 それを確認したところで。


「朝食です」

 食堂方面からサラの声が聞こえた。

 今日のメニューは何かな。

 そう思いつつ立ち上がり、食堂へ向かう。

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