第7話 作戦は成功してしまった……
結局自然科学系統についてはニュートン力学の解説本を、御嬢様用発禁ぎりぎり政治思想本については高校の教科書と副読本を訳した上で、政治体制のところについてフィオナさんと2人でまとめて貰って解説本という形で発表した。
なお著者は生徒自治会役員合同という形だ。
これらの本は俺達が予想した以上の反響を呼んだ。
例えばニュートン力学の本については、もともとこの世界は自然科学の知識があまり発達していなかった。
何せこの世界には元々魔法がある。
だから魔法抜きで自然科学の法則を解き明かそうという学問があまり発達していなかったというのがある。
そこに初めて魔法をのぞいたとは言え統一的な理論を発表したのだからまあ、その専門の皆さんに響くのは仕方ない。
例えばこの学校の先生の一部からも強烈な質問攻めにあったし。
ただ一般の人にも思った以上に受けたのは想定外だった。
何せこの世界、その気になれば力の大小はともかく誰もが魔法を使える。
だからこんな面白くない理論、専門家だけにしか広がらないと思ったのだけれど。
そして政治思想本というか『想像上で論じる政治体制として可能性のある制度の構造分析』と題した比較的薄い本。
こっちの反響はそれ以上だった。
内容はこの時代にはまだ存在しない、国王による専制政治以外の体制について色々と長所や短所を含め説明した本だ。
そもそも政治体制なんて考え方自体存在しない処にぶつけた本だ。
しかも元々教科書を訳しただけに分かりやすい。
俺達としては内容にかなり色々気を配ったつもりだった。
出来るだけ国王専制政治を批判しないように注意して、あくまで『神権を持つ王が存在しない架空の世界』でありうるべき可能性として描いたのだ。
それでもこういった内容の本は少なくともこの国では初めてだった。
それもあり、いつもの小説以上に売れてしまった。
具体的には俺達へのバックが
更に内容のせいで『国立図書館ではこれ以上この本を出版しない』というおまけもついた。
幸いあまりに好評だったので民間の主にニュースや娯楽本を扱う業者から新たに刊行されることになったけれど。
それで更に
おかげで無事、テオドーラさんは家及び王族の婚約者という地位から脱出出来た。
実はそれだけではなく俺達4人全員この学校から除名という話もあったらしい。
一応この学校は国立というか王立で俺達の寄宿舎での生活を含め全てが国費で賄われている。
それが国に逆らうような本を出すのは何事だという訳だ。
ただその辺は校長以下教師の皆さんが守ってくれた模様。
「これは批判の本ではなくあくまで社会学的な考察だ。それにこのような考察を行えるだけの生徒を持っている事はむしろこの学校の教育水準の高さを物語っているとして誇りに思うべきである」
とか色々理屈をつけて庇ってくれたらしい。
とばっちりで俺まで実家から勘当されてしまった。
「国を批判するような内容の考えを述べる等とは貴族としてあるまじき云々……」
とかいう手紙が届いただけだけれども。
これで部屋住みでのんびりするという俺の計画そのものが破綻してしまった訳だ。
俺としては何気にダメージが大きいのだけれど……
「これで自由になりましたわ」
御嬢様、いや元御嬢様は大喜びの模様。
「資金も集まったしな。卒業後に向けて拠点を探しておかないと」
ミランダさんもやる気満々だ。
「取り敢えず4人住める部屋が必要だよね。あとはこうやって翻訳作業をする事務室かな」
なんだと!
ちょっと待てフィオナさん!
「俺も含めてなのか」
「当然でしょう。アシュノールさんはこのメンバーの要ですわ」
いいのか元御嬢様それで!
「一応反体制的な本を出しちゃったからな。身の安全の為にも4人まとまっている方がいいだろ」
ミランダさん貴方まで。
正直この3人と同居というのは考えていなかった。
言っておくが俺だって全く性欲が無いという訳ではない。
しかし部屋住み予定者には結婚なんて未来は存在しない。
家柄もいまいちだし5男だしで女子もよりつかなかっただけなのだ。
女子と言ってもここ学生自治会室の面子に限ればある程度慣れた。
だがそれは放課後の数時間だけいるというのが前提だ。
これが毎日同じ屋根の下で一緒だと考えると俺の自制心がヤバい。
3人とも全く違うタイプだけれどそれなりに綺麗だし可愛いし。
ああいかん余計な事を色々考えてしまう。
雑念を払うには何かに集中することが一番だ。
よし、翻訳をしよう。
「次は何を訳す予定だ?」
「本当はこの『共産党宣言』なんていいかと思ったのですけれど」
おい待て元御嬢様!
それは今の状況で一番出してはいけない本だ!
「やめてくれ。国を刺激しすぎる」
ちなみに共産党宣言は政治思想本の例として取り寄せた代物だ。
他にも宇宙関係の本とか色々候補は取り寄せた上、あらすじを皆に伝えてある。
「私もそれは危険すぎると思うな。当分はまた無難に小説と自然科学本を中心にしておこう。次は取り敢えず実用的なこれなんかどうだい」
ミランダさんが選んだのは家庭用の医学知識の本だ。
確かにこれは実用的だし売れそうだな。
「わかりました。それじゃちょい長いですけれど、これを訳しましょう」
「実用本は今ひとつ清書して面白くないですわ」
「私は楽しみかな。新しい知識が増えるし」
そんな訳で俺は翻訳魔法を起動。
雑念退散の為、出来るだけ無心かつ機械的に翻訳文を書きはじめる……
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