第14話
事件から二か月経った土曜日。早苗の家の前に止まっていた引っ越し会社のトラックが二台、走り出した。それから数秒と経たず、家から早苗と大輔が出てくる。早苗が鍵をかけていると、その間に大輔は車を車庫から出して家の前につけた。住み慣れた我が家を瞳に焼付けて早苗は車へと向かう。ドアを開け、乗り込もうとした時、ふと葵子の家に目をやった。
青いビニールは外され、マスコミ関係者はもういない。あっという間の出来事に、なんとも言えない気持ちだった。小さく息を零し、瞬きを一つ。ふわっと風が吹いたとき、早苗はえっと声を上げた。
葵子が、家の前に立っていた。
顎の先で綺麗に切りそろえられた黒髪に白いワンピース。同色のパンプスを履き、レースの日傘をくるくると回している。
「葵子、さん…」
呼ぶとにこりと微笑みバイバイと手を振った。
「っ、葵子さん!」
もう一度呼ぶと、早苗! と大輔の声。
ハッと我に返ると、そこにもう葵子の姿はない。きゅっと下唇を噛むと、早苗は深々と頭を下げた。急いで車に乗り込むと、大輔はアクセルを踏んだ。窓を開け、顔を出して遠ざかっていく景色を見つめる。
「……さようなら」
先程の葵子の姿を思い出して早苗も真似て手を振る。どこから飛んできたのか、散った白い花びらが風に乗って宙を高く舞い上がっていった――。
隣の葵子さん しおぽてと @potet01234
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