第十一話 訓練所と魔法
朝、鐘の音と共に目を覚ます。
宿はもぬけの殻、俺以外は誰もいない。
オスカー曰く、「冒険者ギルドは日の出るころには開いている」らしい。
一の鐘はだいたい六時ごろに鳴らされる。つまり実入りの良い依頼は全部取られているということだ。
「そんな早くから起きれねーよ」
愚痴をこぼし宿から出た。
酒場に預けていた武器を受け取り依頼を見に行った。因みに武器が酒場に預けられることは昨日知った。
武器が盗まれては困ると酒場の前で右往左往していると親切なおじさんが教えてくれた。料金は親切設計鉄貨一枚。ある程度ならどれだけ量が増えようと料金は変わらない。
借金抱えた一文無しには厳しいお値段だが。
道路掃除に草取りに迷子のペット探し報酬はどれも鉄貨五枚。掲示板を見るもFランクにいい依頼は残ってない。
俺は肩を落としオスカーを探しに行った。
ギルド内を探し回っているとやけに冒険者の出入りが激しい扉があったので気になりギルド職員に聞くと訓練施設だと言われた。
訓練施設はおおよそ体育館くらいはある。魔法と剣が左右で別れており、中では冒険者が切磋琢磨と己の技を磨いている。その中にはオスカーの姿もあった。
槍を使い丸太を突いているオスカーを暫く眺める。遠くでは歓声とともに爆発音が聞こえてくる。
魔法勝負でもしているのだろう。異世界小説にありがちな展開だ、主人公が乱入して実力を見せつける。
つい自分の姿を見てしまう。
サイズの合わない服を学生用ベルトで無理やり着ている。風呂も何日も入ってないから臭うだろう。かろうじて革の胸当てと剣を持っているが借金抱えた一文なし。物語の主人公としてはあまりにもお粗末すぎる。
何故こんな事を考えたのかと乾いた笑いがこぼれた。
「いいよな」
屯して騒いでる冒険者横目で見てつぶやいた。
『そうですね。俺の生きてた時代はこんな簡単に魔法を使えませんでしたよ』
「そういう話じゃ……てか今と昔で魔法が違うのか?」
『ええ、そうですね…………丁度後ろで実践してますね、あれとも少し違いますが』
歩世の言葉に後ろを向く。魔法練習区域から少し離れ場所にポツンと少女が立っていた。とんがりボウシにローブいかにもな姿をしている。
少女は杖に手をかざしブツブツと呟いている。何を呟いてるのかはわからないが多分詠唱をしているのだろう。ニ,三秒すると杖の先から水で魔法陣が描かれていく。そしてすぐに火の玉が打ち出されてた。
「おー」
これぞ魔法って感じだ。感動し拍手をする。
拍手をしていると少女がこちらを向き礼をした。俺もつられて礼をする。
てか今俺の拍手に気付いて礼をしたよな。どうやって……何かのスキルか異世界だしな。
その後もオスカーや他の冒険者を観察していった。
十分くらい冒険者を観察していてわかったことがある、オスカーが同年代の冒険者達に比べ頭一つ飛び抜けて強いということだ。これは歩世からも言質をもらっている。
同年代の冒険者に比べて動きが軽い。滑らかなスイングと言うか綺麗な足さばきと言うか、兎に角見惚れてしまう自分がいる。
ただ丸太をつついているだけなのに……腹立たしい。
暫くオスカーに見惚れているとこちらの視線に気付いたのか走ってくる。
「わりぃレイヤ、もうそんな時間か」
「いや時間は大丈夫ですよ。毎朝ここで練習しているのですか」
「そうだが」
オスカーはそう言うと、ひと汗かいたぜと言わんばかりに汗を拭う。
朝オスカーと合うと汗臭いのそのためか。俺も筋トレとか始めたほうがいいのかな。
「そろそろ依頼見に行くか?」
「僕はいいですが、少し聞きたいことがあります」
「聞きたいこと? なんだ」
「魔法についてです。先程から冒険者の方々を見ていましたが魔法陣を作り魔法を使ってる方と魔法陣を作らずに魔法を使ってる方がいたので」
歩世が生きてた時代の魔法と今の時代の魔法とでは違う部分が多い。これでは歩世の使う魔法が今では通用しないかも知れない。そう不安に思いオスカーにたずねた。
「そんなことか。その変な敬語をやめたらな答えてもいいが」
変な敬語。初対面の人に毎回言われる胡散臭いだとか卑猥だとか。やっぱネットじゃなくて本買っときゃよかった。
「これでいいか」
「あぁ、まず魔力を使い魔術式と詠唱で神の力を行使することを魔術、魔術式を使わず魔術を行使することを魔法。ここまでいいか」
「はい」
「魔法は定型文があってな火ならファイヤー、水ならウォーターてな感じでな。
だから一点に魔力を集中させて、
水の精霊よ、我が祈りに答え、かの者に水の礫を降らせよ、ファイヤーボール」
オスカーの突き出した右手から火の玉が飛んでいく。
水の精霊に祈り火を出す、礫を降らせよなのに出たのは火の玉が一個。
魔法は定型文さえ覚えてしまえば詠唱を必要としない、これは便利な。歩世も「ほへー」と声を漏らしてた。その声を聞いてそりゃそうだろうと苦笑いをした。
「魔術の方はしらん。妹なら知っているが今あそこにいるからな」
オスカーはさっきまで爆音がしていた方向を向いた。さっきから見当たらないとは思ってたがあそこで一緒に盛り上がっていたのか。余程すごい魔法使いがいるのだろう。
「でも
「一番気になってた」
前のめりになりオスカーにもたれかかった。オスカーの顔が若干引きずっていたが今は無視だ。
「杖には魔石という特殊な石がはめ込まれている。魔石には魔術式を組むための術式が刻まれ魔術式には予め刻まれてた魔術式を展開するものと魔術式を自ら組み立てるものの二種類がある。これはオート、マニュアルと区別されており殆どの魔法使いはオート杖が入ることが多い。だが魔法学園の卒業生は卒業記念品としてはマニュアル杖が贈呈される。魔術は魔術式構築の媒介となる属性によって威力が変化し青杖なら水の――――」
「ストップストップちょっと待て。なんで急に饒舌に、怖いんだけど」
「……わりぃ熱が入りすぎた」
オスカーは頭を書きながら謝る。
その姿を見て半分も聴き取れなかったことに後ろめたさを感じる。
「なんでそんなに詳しいんだ」
「妹の誕生日に杖を買うために調べたから……まずそこから話すべきだったな。そうだなあれは妹の誕生日の一ヶ月前、俺が十歳の時妹が三歳になる月――――」
「ちょっと待て、それ何時間かかる」
「――ん? ニの鐘くらいまでだな」
「悪い俺から言ったのも何だか大丈夫だ。ありがとう」
こいつただのシスコンだ。俺はそう確信しオスカー相手に妹話はそよう、そう心に決めた。
その後アウロラちゃんが帰ってくるまでオスカーから魔法を教えてもらった。
アウロラちゃんが「いっぱい稼いだ」と満面の笑みを浮かベ銅貨五枚を持ってきたときは驚いたが、オスカーの反応から普通のことなのだろう。
俺の一日の稼ぎより多いいことに落胆し、今日の依頼に向かった。
星々を追う者 神無月 リア @10kannaduki
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。星々を追う者の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます