第2話
今日の僕はかなり朝からテンションが高かった。
昨日出会ったあの電車の彼女。あの子に会えるかどうか。そのことだけが今の関心ごとの全てだった。
どこから乗ってどこで降りるのかも知らない彼女を探すのは至難の業だけど、また会えれば多分それは運命の赤い糸なんじゃないかと、思春期男子の妄想を掻き立てるには十分すぎる出会いだった。
電車に乗って6駅。
たったそれだけの時間が楽しいと感じるのは高校に入ってすぐの頃以来かもしれない。
いつもは小テストの勉強や、本を読んだり、携帯でゲームしたりと、ただただ移動するということ以外意味がなかったその時間が楽しみだった。
今日は彼女を見つけられるかなと多大な期待を乗せて今日も電車に乗っていた。
いつもは下に向けている顔もしっかりと上げ、キョロキョロと周りを見渡した。
近くの人からは、なんだこいつ、みたいな目で見られたけど、そんなの気にしない。
1駅すぎても彼女は見つからなかった。
もう今日は会えないのかなと諦めかけていた時、やはりこの出会いは運命なんだと理解した。
彼女が電車に乗る瞬間を見た。
自分の最寄り駅から3駅目。
もはやストーカーのような情報収集だけど、電車でしか見れないし、別にあとを追いかけてる訳でもない。話しかけられもしない。遠目から見るだけで幸福だった。
紺のブレザーに赤いリボン。
着崩した様子は全くなくて、清楚でお淑やか。
黒く長い髪の毛がまたそのイメージを増幅させる。
今日も笑ってくれないかなと期待を込めて見つめるけど、彼女がこちらを見てくれはしなかった。
少し残念な気持ちで電車に揺られ続けるのだった。
* * *
「華恋ー! おはよっ!」
教室に入ると、去年から同じクラスの友人である日向美鈴が挨拶をしてくれる。
「おはよう、美鈴」
「今日は昨日より機嫌よくないね。どうしたの?」
「今日は電車の彼が見当たらなくて……」
電車の彼。
彼を認識し始めてからずっとそう呼んでいる。名前も知らない男の子。
朝の通学電車のたった3駅の間だけ出会える彼を今日は見つけられなかった……。
2週間近く見てきたけどこんな日はなかった。
もしかして、昨日笑ったのが駄目だったのかな……。電車の時間変えられちゃったかな。
別に何か約束があってその電車に乗ってるわけじゃない。たまたま居合わせただけ。だから、いつかはこんな日もあるとは思っていたけれど、朝の楽しみの一つが無くなるのは少し残念……。
「そっかー……。たまにはそんな日もあるよ。明日は見れるかもしれないしね!」
私の気持ちを理解してくれるのか、慰めてくれる美鈴。
いつもはおちゃらけてるように見えるけど、ちゃんと人の気持ちをわかってくれる優しい人。
「そうだよね……。明日も探してみる」
「うん、そう来なくっちゃ! 今日はお稽古あるの?」
「うん。何かあるの?」
「駅前に新しくカフェが出来たらしいから一緒に行けたらなって思って……」
「ごめんなさい。でも、明後日なら行けると思う」
「ほんと!? じゃ、約束ね! 忘れないでね!」
「うん、わかった」
朝のチャイムがなって担任の先生が入ってくる。
朝の喧騒も静まり先生が連絡事項を告げていく。
話を聞きながらも、頭では明日も彼に会えるかどうかだけが気になっていた。
明日はきっと会えるよね……。
電車で一目惚れをした 神谷メイ @Meikoubou
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