電車で一目惚れをした
神谷メイ
第1話
僕はこの日恋に落ちた。
一目惚れだった。
通学時の乗車率150%は超えそうな程の満員電車で見た彼女の笑顔に僕は一瞬で恋に落ちた。
どこの高校の誰さんかもしれない彼女に恋をした。
僕こと、澄元浩司は都内の高校に通う二年生。何かしら特徴があるのかと言われれば何も無いが、何も無いことがある意味特徴かもしれない。
学力は中の上、運動神経は中の下、顔立ちはイケメンとは言い難いけどブサイクではない。髪型と服装で何とか誤魔化せれる範囲。友人もそこそこいるし、コミュニケーションもある程度取れる。
そんな何の取り柄がない僕が恋に落ちた。
電車で見た彼女は黒髪を背中まで伸ばしていて、目鼻立ちが良く、とても笑顔が可愛らしかった。
名も知らないその子のことを電車に降りてからずっと思い出していた。
「浩司ー、おはよ!」
「おはよう」
教室に入ると近くの席の田端晶が挨拶をしてきた。高校に入ってから席が近くて2年も同じクラスになった時は素直に喜んだ程仲良くなっていた。
「浩司どうした? なんかいいことでもあったのか?」
「へ? なんで?」
「いや、なんか機嫌良さそうだし、顔ニヤけてる」
「うそっ! まじで?」
「マジマジ。で、何あったん?」
僕は知らない間に今日の朝の出来事を思い出して顔をニヤケさせていたらしい。そんなにわかりやすく顔に出てることと、ニヤけてる顔が恥ずかしくて少し項垂れた。
「今日の朝の電車ですげぇ可愛い子にあった」
「マジ? 誰?」
「知らない……。でも、制服がここの高校じゃなかった」
「マジか……。てか、そんなに可愛かったのか?」
「笑顔がもうすごい。天使かと思った」
もはや誇張表現ではない。あの子はそれほど清楚で笑顔が可愛く、素敵だった。朝の満員電車で見つけた最高の癒しだった。
「そんなにか……。俺もその子見ていたいな」
「初めて見たからなぁ……。また会えるといいなぁ」
「通学時間一緒ならまたいつか会えるだろ。なんか進展あったら教えてくれ」
「おう、出会える奇跡を信じる」
朝の雑談もチャイムによって打ち切られ、担任の先生が入ってきて、SHRが行われてる間もずっとその子の笑顔が頭から離れなかった。
同じ電車ならもう一度会えると期待を胸に1日を過ごしていく。
* * *
ずっと電車で見ていた彼と初めて目が合った。
私ーー柊華恋が2週間前から見ていた彼がこっちを見た気がした。目が合うと少し驚いたけど、第一印象は大事だからとにかく笑顔を向けた。
私が笑顔で見ていると彼はすぐに目を逸らしてしまった。何か駄目だったかな……。
私が彼を認識し始めたのは2週間前。
彼は女性を痴漢から助けていた。乗車率が異常な都会では本当に痴漢なんてあるんだってその日は思った。でも、それを助けてあげられる彼がすごいと感心した。
その日からだった。彼のことを意識し始めたのは。
最初はもう会わないだろうなって思っていたし、私は女子校だから男子との接触もない。だから、何も無く忘れていくんだと思っていた。
次の日にも同じ時間、同じ電車に彼は乗っていた。
彼を見つけると前日のこともあって気になってずっと見ていた。英語の単語帳に目を落とす彼。ただその行為だけを見ていた。ただ見ているだけ。
その次の日も、また次の日も彼を同じ電車で見つけた。本を読んでいたり、スマホを触っていたり、小さなプリントを見ていたり。
毎日ちょっとの時間だけだったけど彼を見ているのが少しだけ楽しかった。
だから、今日目が合った時はドキッとした。
一方的に見ているだけだと思っていたから、不意に目があったことに驚いた。心拍数も僅かばかり上がって、ずっと見ているだけだったから恥ずかしかったけど、とにかく印象を良くしようと笑顔を彼に向けた。
そのあとはもう彼のことを見れなかった。
私の方が彼よりも早く降りることは知っていたからちょっと名残惜しかった。
また明日も会えたらいいな、と心で呟いて電車を降りた。
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