第十五話「刃と鉄は唄わず」
さて、前回タマヨを救い、猫獣人達の事情を知った一行。ツガルを集めていた魔王軍に利用されていることを知らずにいた猫獣人達、そして思い違いから争いとなっていたカナタとの和解のため一行はカナタへと向かうことにしたのでございます。
して、翌日のことでございます。猫獣人の村を旅立った五人は王都まで残り半分ほどの距離まで来ておりました。
「あ"あ"、頭が痛い…お酒とは飲み過ぎれば毒なのですね…。記憶がありませんわ。」
しこたま酒を仰いだレイは二日酔いになっておりました。
「私はまだ身体が小さいからか、お酒を飲むとすぐに倒れてしまうので飲めて羨ましいです」
「私は飲んだら記憶が無くなりますね」
「子どもらが酒を飲むでない。奏太郎、大丈夫か?」
「背なにまだ…か、感覚がある」
後ろから奏太郎を抱きしめて一晩中寝ていたいたレイの様子を思い出し、重兵衛、カナデ、タマヨの三人は(あぁ、なるほど)とレイの胸元を眺めたのであります。
「な、なんですか?」
奏太郎の目元に隈ができている理由は一目瞭然です。
「いや。罪な姫様だと思っただけよ。さて、カナデ殿、王国の方角は?」
「ここからはもう半日もかからない程ですね。あの、本当にこの剣ずっと持っていていいのですか?」
カナデは昨晩、ヤズーから猫獣人の墓場にあった封印されていた剣をずっと預かっていて良いと言われたのでございます。理由は重兵衛が言いましたとおり魔王軍や不知火が狙うならば理由は分かりませんが持っていた方が得。しかしヤズーの思惑は少し違うようでございました。
「できれば魔王軍達とはもう関わりたくない。持っていってくれ」
との一言。あぁ、どうせ「重兵衛達に持って行かれた」とでも言って程よく縁を切って逃げ切るつもりなのだなと、そのしたたかさに呆れを通り越して尊敬したのでございました。
「持っておけカナデ殿。」
「わっ!やった!私のカタ」
「だが、絶対使ってはならん。身の丈に合わぬ武器は不要なものも斬ってしまうぞ。」
「ナななななななぁ〜……そんなぁ。タマヨちゃんでさえ本物のカタナを持っているのに」
「タマヨは実力があるからな。それにいずれ稽古をつけてやる。柄もないのではろくに振るえんしカタナというよりは腰の飾りか盾だと思え。刃は被せがあるゆえ鋭くないところを見ると護身用くらいにはなるだろうがな。」
落ち込んだカナデがタマヨを見ると、ふふんと自慢げな顔をしており苛立ちました。
「タマヨ、拙者が武士道と剣の道が何たるかを教えるまで人を殺めるでないぞ。」
「…なるべく。」
「くっ…。もう行きましょう!」
悔しそうに先立って歩く後ろ姿を見守りつつ、レイはふと疑問に思ったのでございます。
「そういえばあのチェシャという猫獣人は連れて行かないのですか?」
「拙者らがいない間に魔王軍か不知火か、現れれば連絡役になりますゆえ。彼奴の脚は速いので、すぐさま駆けつけるでしょう。」
「あぁ、なるほど。では先程からずっと後方から追ってくる妙な者達はどうするつもりですの?」
五人の背後、30間(約55メートル)程の距離をぴったりと木の影に隠れて追ってきている数名がいたのでございます。仕事柄そういった者の気配には鋭い重兵衛と奏太郎でございますが、まさかレイも気づくとは思いもよりませんでした。
「刺客…ですね」
どうやらタマヨも今頃に気づいた様子で、そっと違和感なく素知らぬ顔で右手を剣の柄にかけました。重兵衛はカナデに目配せをすると、やっと追手の存在に気づいたようで、自分以外が既に悟られぬようにすでに構えていることが恥ずかしくなりました。
「レイ様よくぞお気づきに。彼奴らは泳がせておりました。が、もう半分で王都というところ。そろそろ動きがあるはず。」
と、話したところで追手は一気に周囲の木々に詰め寄り集まっておりました。ここまで殺意を隠し通せる者は、明らかに手練。
来る。
「皆、殺すでないぞ。生け取れ。」
重兵衛が皆とは言いつつもカナデを見て言っておりました。
もはやこちらが隠し通すことは無いため、重兵衛と奏太郎が一気に敵意を向け抜刀。背を向かい合わせにし、左右をタマヨとカナデが守り真ん中にレイを。その刹那木の影から同じく五人。剣士が飛び出してきたのでございます。顔はローブで見えません。
まず先行してきた一人目。最も速い剣の腕のようですが、その者は剣を振り被る直前、瞬時に間合いを詰めてきた奏太郎の居合術で剣ごと斬られ疾風迅雷の刃に走る稲妻に撃たれ木へ吹き飛びました。
同時。二人目と三人目はカナデを狙ったようでございますが、重兵衛の恐るべき剛腕の一振りで二人が巻き込まれるように刀の爆炎の下に斬り伏せられ、地面に叩きつけられたのでございます。そして重兵衛のそれを読んでいたかのように伏せたカナデが魔術を唱え終えて、その両手の人差し指は四人目と五人目へ向いております。
四人目と五人目は瞬時に起きた剣撃に臆して一瞬立ち止まってしまい、その隙を見逃さぬタマヨに首を抜刀せぬままの鞘で打ち抜かれカナデの雷の魔法で痺れさせられたのでございました。
恐らく三度瞬きをする間でしょう。たったその間に五人の追手は成す術なく倒されたのでございます。五人の真ん中で護られていたレイは、あまりの手際の良さに思わずごくりと生唾を飲みました。
「お、お見事ですわ。」
「タマヨ、よく殺さなかった。」
「師匠が殺すなと申したからです。」
「し、師匠では…まぁいい。重兵衛、そっちの男はどうだ?」
重兵衛は奏太郎が始めに吹き飛ばした者を見ておりました。どうやら峰打ちで大事は無い模様でした。
「流石だな奏太郎。胴を一閃するだけで気を無くすとはな。そっちは?」
奏太郎は重兵衛が地面へ斬り伏せた二人を見ておりましたが、どうやら骨をやられている様子。
「あ〜あ〜…。二人とも利き腕があらぬ方向に向いておる。刺客とはいえ一人は
「手加減はした。が、
ぺしんと鬼造平帳の柄を叩き、タマヨとカナデが見ている二人の刺客の所へ行くと気を失った衝撃かカナデの雷の魔法のせいか失禁しておりました。
「師匠、どうしますか。こちらの二人も女です。」
「手を縛った状態で水を全身にかけてやれ。カナデ殿、魔法でできるか?」
「そこまで気遣う必要ありますかねぇ。」
「此奴ら最後まで殺意が無かったのだ。おそらくこちらを生け取りにするつもりであったのであろう。互いに生け取りを狙うとこういうことが起きる。カナデ殿は腕の折れた二人の治療を頼む。学び代だ、折ったまま痛みだけ取り除いてやれ。」
「重兵衛、拙者が仕留めた者を尋問しよう。」
奏太郎が木に縛った男のフードを上げると、重兵衛や奏太郎と同じくらいの年齢でありそうでございます。顎に無精髭がありますが、顔の細かい傷から熟練の者とわかります。そしてタマヨが声をかけてきました。
「アイザック?傭兵をしていた時、一緒に戦ったことのある雇われ冒険者です。」
「知り合いか。ならば話が早いだろう。ほれ、起きろ。」
「う…いてて…。やっぱり負けたか。タマヨもいたし、一目で敵わない奴らだと思ったよ。あ〜あ、みんなもやられたか。」
「誰も殺してはいない。安心せい。拙者は小川奏太郎光仲。そこの大男は齋藤重兵衛影竜。何故拙者達を狙った」
「そうたろうさん、じゅうべえさん、心遣い感謝する。俺はアイザック・フォロー。タマヨから聞いてるか分からないが、雇われ冒険者でね。あいつらも流れの雇われ冒険者で、最近知り合ったばかりなんだ。俺達の狙いはそこのお姫様さ。」
「やはりそうか。聖王都カナタからだな?」
「御名答。でもこの道を進んでいたってことは、カナタに向かってたのか?」
「あぁ。どうやら猫獣人とカナタと思い違いがあるようでな。和平交渉のために。」
「なんだよ〜。そっちから行くなら俺達はやられ損じゃないか。ではカナタに到着したら北の門にいる護衛団長に事の顛末を伝えてくれるかい?通してくれるはずさ」
「やけに潔いな」
「なぁに。金はすでに貰ってるし、お姫様をカナタに連れて行くことが目的だから、やり通したようなもんさ。」
「うむ。これからどうするつもりだ。」
「そこで倒された仲間達が気づいたら、後を追ってカナタの医者に連れ行くよ。後からになるが合流して話を通せばあんたらの筋も通るだろう?それにしても、割に合わない仕事だったなぁ。」
「あの、カナタから来たのですよね?お姉様は、サレナ姫と勇者は来ましたか?」
「あー、そういえば妙な一行が王宮に行ってたようだな。だから俺達が王宮の命令で姫様を攫ってくることになったのかもしれない。でも何やら急いでいた様子だぞ?もう王都にいるかどうか。」
「急ぎましょうみなさん!お姉様に追いつき、魔王と不知火の情報を得なければ」
次回、いよいよ次の王都に足を踏み入れるのでございます。
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