第八話「敵対の狭間」
さて、前回おゆうの断罪について重兵衛達と聖王都トワは衝突したのでございます。その中で国王から提案が出たのでございました。
「おゆうは、最後に処罰してくれないかい」
その提案に全員が困惑したのでございました。すぐ真意に気づいたのはカナデでございました。
(なるほど…。さすがは聖王都の国王…。)
「理由は。」
「納得できるものでなければ拙者達は止まらぬ。」
(このまま続けばおゆうを斬れなくなる。先手を打たれましたね。)
「まず、君達の目的は最終的には獄蔵、そして魔王を討つことだろう?」
「「いかにも」」
「つまり、おゆうは今すぐに断罪しなくてもいいはずさ。」
「何故でございましょう」
「勇者を救おうとした気持ちを汲み、留置するんだ。魔王とゴクゾウを討った後に改めて罪を問えばいい。この聖王都と一緒にね。」
「待てませぬ!これ以上、この世界に迷惑をかける前に斬るべきだ!斬らねば死んだ者達に申し訳が立たぬ!」
「同じく!拙者達は死んだ者達の思いも背負っておるのだ!そんな甘いことでは罪なき者達が死んでしまう!」
「待ちなさい!まだ話は終わっていない!」
国王が初めて声を荒げました。立ち上がり自ら止めに入ろうとしております。
やはり衝突は止まらないとカナデも聖王都との抗争になる覚悟を決めました。
重兵衛と奏太郎は瞬時に抜刀し、大きく構えた瞬間。ガルシアも構え、兵士達も構え、カナデがエレナの首を焼き切ろうとした刹那。
おゆうの前に飛び出してきたのは瀕死の状態の勇者アズマでございました。
「まっ、待ってくれ!」
「アズマ!?もうやめろ!あたしは死ぬしかないんだよ!」
「死に方は選べる!お二人共、落ち着いてください!俺も幼い頃は捨て子だったのです!盗みをしてなんとか生きながらえた過去もあります!罪を犯し、牢に入っていたこともあります!しかし今は勇者の一人として魔を討つため生きているんです!まだ彼女もやり直せるかもしれない!」
「甘ったれたことを
落雷のような重兵衛の怒号。そして振り抜いた拳はアズマの顔の前で止まっておりました。アズマは血を吐きつつも一心に重兵衛と奏太郎を見つめておりました。
「………」
「重兵衛…」
奏太郎は重兵衛の右手をそっと降ろし、首を振ったのでございます。重兵衛もアズマの気持ちが分からないわけではない。それがもどかしく唇を噛んだのでございました。
「……。この世界のことも大切に考えてくれるのなら、裁き方もこの世界に合わせる必要がある。違うかい?」
手が止まったところに、国王は再び凛とした声で話すのでございます。
「「………」」
「君達の世界、エドにはエドの裁き方がある。この世界にはこの世界の裁き方がある。まさか他の世界の秩序を乱すような不躾な男達ではないはずだ。」
これを言われては最早重兵衛も奏太郎も詰みでございましょう。この詰みで重兵衛達が強行するだろうと思い、カナデは戦える姿勢を続けていたのですが…。
「………参りました。流石は一国の国王様。」
「お見それ致しました。此度の件、国王様にお任せします。」
「「御無礼をお許しください。何卒平に」」
そういうと二人は深々と頭を下げて、おゆうをそのままにし、部屋へと向かって歩き出したのでございます。
国王、ガルシア、兵士達は安堵の溜息をつきました。兵士の半数程は腰を抜かして地面に尻餅を着いております。逆の立場で考えれば、竜を倒すような異世界の男達と命をかけて争うなどということ、恩人と戦うことなどしたくはないのが本音でございましょう。
カナデも急いで二人を追いかけました。二人の生き様からして最早抗争は避けられない。そう思っていたカナデは理解できなかったのでございました。
「あの!どうしてやめたんですか?」
二人は部屋に入ると、溜息をついて座り込んだのでございました。カナデはすぐにお茶の準備をしつつ、二人を見ておりました。
「重兵衛…思い出しただろう?」
「あぁ。
「えっ、重兵衛さんと奏太郎さんが?」
「あぁ懐かしいな。元の世で十年前だ。まだお互い若くて江戸で暴れまわっていたからなぁ。」
「ある日酒の場で大喧嘩してな。喧嘩を売ってきた奴らを橋の上から川へ突き落とそうとした時、まだ幕府付きの武士であられた
「あの拳骨、声は今でも思い出す。先程の重兵衛よりも恐ろしい雷のような怒号だったな。"武士が酒に酔うて人を殺すやつがあるか!"とな。」
「うーむ。あの拳骨の痛みと熱さ、未だに忘れん。そして反省のため牢へ入れられたのだ。そこから我らの力を幕府のために尽くさぬかとお誘い頂き、悪党捕縛の任をしておったのだ。」
「そんなことが……。」
「それ故に、あのアズマという若造の気持ちは痛い程分かってしまったのだ。はぁ、歳はとりたくないものだ。」
「鬼の目にも涙だな。」
「言うな。カナデ殿、寿命が縮むようなことをさせてしまいすまなかった。」
「あっ、いえ。私の勝手な判断で厄介なことになってしまうところでした。すみませんでした。」
「拙者も冷や汗をかいたぞ。まさか本当に首を焼き切るつもりではなかったであろう…?」
「はは、まさかな」
奏太郎と重兵衛は小笑いをしながらカナデに冗談だったのだろうと聞くと、予想だにしない返事がきたのでございます。
「いえ、切るつもりでしたよ?」
カナデの顔は至って真面目で目は真っ直ぐに二人を見ておりました。
「「ゑ?」」
「え?だって、そうですよね?聖王都に来て挨拶をした時は最初は戦争になると冷や汗をかきましたが、よくよく考えると邪魔だてするなら斬るおつもりだと言ってましたし、私達の…ブシのやり方を阻むなら勇者でも姫でも関係ないですもんね?でも大切な人達を殺さなくて良かったですっ!ふふっ」
軽やかに笑いながらお茶を淹れているカナデに、二人は底知れぬ危機感を感じたのでございました。
((カナデ殿は下手をすると我らより意地硬いのかもしれない))
さて、次回。
聖王都を出て旅に出る前に、不知火と魔王の居場所を聞かねばなりません。
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