第七話「信念と義と忠」
さて、前回竜を撃破した重兵衛、奏太郎、カナデ、ガルシア。しかし捕縛したおゆうと勇者は何やら訳がある模様でございました。
「待ってくれ!話を聞いてくれ!おゆうは殺さないでくれっゲボッ…がっ…」
「アズマ!?」
吐血し倒れた勇者はおゆうの腕の中で見る見る顔から生気がなくなって行くのがわかりました。異様。ただ打ちのめされただけではこのようにはならぬもの。
そこへ一人の兵士が駆けて参りました。カナデも何やら焦っている様子。
「ガルシア様!助け出したエレナ姫君や魔術師ルーシーが危篤でございます!毒ではなく、呪いの様子!なぜか手当はされておりましたが、もはや!」
「私も知らない魔法でした!手の施し用がありません!」
「おゆう!これはどういう事か話せ!」
「ぐっ…。これは呪いなんだよ。やったのはあたしじゃない。頼む、あたしは死んでもいい。アズマ達を助けてくれ。」
「誰がやった。」
「変な布被りさ。男か女か爺婆ともわからん変な声の。」
三人はアリアスという村で石化魔法を使った布被りの者を思い出しました。あいつだと。
「其奴がなぜお前と関わった。不知火の仲間か」
「いや、違う。あたしとアズマ達が知り合ったのは数日前。親父の命令でここを目指してる所だった。突然布被りの者が現れて、手も足も出ないくらい強くて、あたしは殺される寸前だったんだ。そしたら、この勇者達が現れて助けてくれたんだよ。」
「何故不知火を…。して、どうなった」
「見たこともない魔法があたしに放たれて、それを三人が庇ってくれたのさ。悪党であるあたしなんかを…庇って。だからあたしは…」
「その恩義に報いるためにりゆかおすを狙った、と」
「そうだよ。親父の命令は敵となる聖王都を焼くことだった。背けばあたしは殺される。アズマ達が救ったあたしの命を無駄にしたくなかったから、りゆかおすを奪ってせめて助けようと思ってね。でももう無理だ。さっき偵察に来ていた奴がいたから、あたしが失敗したのは伝わっている。どっちに転んでもあたしは殺される。」
「おゆうを捉えたまま急ぎ城へ戻ろう。りゆかおすで勇者達が助けられるかどうか…。」
城へ戻るとすぐに多くの魔術師達が集まり、エレナ姫やアズマ達を治療しようとしておりますが表情を見るに焼石に水のようでございます。
「エレナお姉様!死なないで!目覚めてから一度も話さずに別れるなんて嫌ですわ!」
エレナの胸元で泣き叫ぶレイを奏太郎は近くで静かに見守っておりました。こんな時には肩を抱いてやるくらいよいではないかと重兵衛は思いましたが、そんな女慣れをしていない奏太郎には無理だなと改めたのでございます。
クロム国王の表情は、すでに重兵衛達の考えを分かっている様子。
「国王殿、りゆかおすを鳴らしていただきたい。」
「他に道は無さそうだね。貴重な仲間を失いたくない。本当に力があるのか…。」
リュカオスが鳴らぬように鍵がかかっていたようで、国王殿は胸元から小さな銀の鍵を取り出すと鈴の中へ入れた。
「一つ鳴らせば邪心を正し、二つ鳴らせば魔を滅し、三つ鳴らして唄えばこの世を滅ぼす…。」
クロム国王が二つ鳴らすと、この世の物とは思えぬ美しい音色が響いたのでございます。
「よ、よかった…」
「あぁっ、エレナお姉様!」
「本当に力があったんだね。つまり、三つ鳴らして唄えば世が滅ぶというのも…。リュカオスはやはり危険だ。」
まず最初に安堵し膝をついたのは、意外にもおゆうでございました。
「獄蔵などに付かず、助けられた恩をそのまま返せばよかったものを…」
「そうはいかなかったのさ…。親父だって、捨てられたあたしを拾って育ててくれた恩人なのさ。」
落ちた仮面の下の顔は、若い
「どっちか片方なんて…選べるような器用な人生送ってないよ」
「おゆう…思い残すことはないか」
「一つある」
「なんだ?」
「次の世があるなら、惚れた腫れたの駆け引きをしてみたいね」
眠るアズマの顔をそっと撫でるおゆうの顔は、優しくも悲しみに満ちておりました。
「外へ行こう」
奏太郎は優しくおゆうを抱え、歩き出しました。そこへ声をかけたのはガルシアでした。
「奏太郎様、重兵衛様、どこへ行くのです」
「おゆうを楽にしてやる。」
「なっ、殺すのですか!?もはやその者は反省し、勇者を助けるために」
驚くガルシアの言葉を遮り、重兵衛と奏太郎は背中を向けたまま静かに語ったのでございます。
「一の善行百の悪行赦しに及ばず。一度良いことをしたとて、百の罪は消えん。それに、おゆうはもはやこの先生きてはいけぬ。失敗したことを獄蔵は許さぬ。」
「追手に殺されるか、この異世界の者達に殺されるか、自害するかしかない。王都で匿うか?籠の中の鳥のように。獄蔵に怯え、己の行く末に怯え、罪も償えず。」
「しかし!」
ガルシアがそれでも何とかならないかと言い寄ろうとした時、カナデが静かにしかしはっきりと声を上げたのでございます。
「ガルシアさん、そこまでです。そこまでなんです。あなた方が言っていいのは。これ以上お二人のブシに踏み込むと、私は許しませんよ」
カナデの手元には眠るエレナ姫君の首がありました。この時全員が気づいたのでございます。看護を装い、無理矢理にも不知火に手を出そうとした時にエレナ姫を殺すためにそばにいたのだと。
「や、やめてください!?カナデさん!なぜそんなっ!?」
焦るレイを見向きもせず、カナデの手は少しずつ魔法を帯びていくのです。
「カナデ殿そこまで!それ以上は武士のやることではない。」
「っ…。す、すみません」
流石の重兵衛と奏太郎も冷や汗が少し出ました。近頃よりカナデは時折妙に冷静さを失うことがあるのでございました。
そこで、纒めるために国王が声を上げたのでございます。
「みんな落ち着くんだ。重兵衛君、奏太郎君、カナデ君。もはや他に道はないんだね?」
「この者は俺達の世界で罪を犯した。物を盗み、人を殺し、町へ火を付けた。」
「許される道はすでに途切れている。」
その場にいた者達は背筋が凍ったのでございます。その二人の瞳の奥は黒く、深く、最早染まることのない
これ以上何を言っても、何をしても、彼等は絶対に止まることはないのだろうと。
「ガルシアや兵士達もこの度は協力した。その貸しはどうするつもりだい?」
「どうしろと。」
「それはね…」
さて、次回。聖王都と武士達の考えの違いが大きな歪みを生むこととなるのでございます。
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