第六話「決心一閃」


 さて、前回カナデの策で勇者と姫を奪還した重兵衛、奏太郎は援護に来たガルシアと共闘することになったのでございます。


 ガルシアが吹き飛ばしたおゆうと竜はすでに体制を立て直し、こちらへ向かって来ようとしておりました。その様子を見ても奏太郎達は全く焦らず呟きました。


「いやしかしあの黒い竜、サディネアで戦った時より硬くてかなわん。なんとかならんか重兵衛。」


「なんとかと言われてもなぁ。柔らかそうに見える場所は眼、関節、鱗の隙間…。この鬼造平帳、そして疾風迅雷。本気で斬ってみるか…?」


 ここで二人が悩んでいたのは、新たな刀をまともに振るったのは骸骨の騎士ゾォアとの一戦のみということでございました。

 それも、ゾォアが三人を試してきていたという状況。先程も牽制はしておりましたが、二人が"本気"で斬ることを試す時が来たのでございました。


((やるか))


「お二人共!おゆうと竜が来ます!」


 三人が構える場所へ竜が突撃して参ります。さて、ここでまず動いたのはガルシアでございます。


「お二人は何か策を!時間を稼ぎますが、長くは持ちません!」


「ガルシア殿!無理はするな!」


「重兵衛、か」


 奏太郎はそう言うと疾風迅雷を見つめたのでございます。あの刀の空間であれば、この世と時の流れが大きく違うようなので本気で斬る確認ができるものでございます。


「うむ。」


 二人は目を瞑り、己の刀へ集中するとすぐに刀の空間へと入り込むことができたのでありました。なぜこんなことができるかは分かりませんが、不思議と理解していたのです。


 重兵衛は目を開くとすでに座敷、奏太郎は道場の木床に座しておりました。


 鬼造平帳は肘置きにもたれ掛かり、煙管を燻らせておりました。その赤き目と優雅な微笑みは、すでに分かっている様子。


「鬼造平帳、何を申したいか分かるか」


 ー斬ればようござんしょ。何を迷うことなどありんせん。ー


「分かった。共にあの竜を斬ろう」


 ーただしっ!ー


「むっ?」


 ー手加減は無用でありんすよ?分かっておりんすよ?主様の心底にあるものも。負けず嫌いめ。ー


 その顔はまさにうちに秘めた鬼の微笑み。見透かしたような、己の気持ちも隠せぬような妖艶であり自信のあるものでありました。


(こ、此奴め)


 重兵衛のうちに秘めた、何としても勝ちたいという気持ちを見透かしていたのでございます。


 思わず重兵衛も苦笑いするしかございませんでした。


 ーあの竜、が随分とお留守のようでありんしたなぁ?ー


 鬼造平帳は首元を開き白く透き通るような肌をなぞったのでございます。その場所は、顎下。


「っ!なるほど!」


 対して奏太郎と疾風迅雷は語らずに静かに見つめ合っておりました。


「………」


 ー………ー


 何故か疾風迅雷は呆れ目。じとっとした目をして奏太郎を見つめております。凛々しい表情の疾風迅雷がそのような顔をしているのが不思議でなりませんでした。それに耐えかね先に口を開いたのは奏太郎。


「ど、どうした?」


 ーわたくしはがっかりしているのです。何をうじうじと技を隠しているのです。ー


「しかし…」


 ーしかしもかかしもありませんっ!我らは絶対に折れません!それに…ー


「む…?」



 真っ直ぐなその鷹のような瞳が歪んで微笑んだのでございます。


「っ…!悪は斬って当然であろう!」


「ええ、そうです。そうですとも。そうでありましょう。そうに違いございません。ならば悪に対する成すべきことは一つでは?」


「わ、わかった。」


 この時、奏太郎は疾風迅雷の底知れぬ違和感のある義に、過去に師である男に言われた言葉を思い出したのでございます。


【この世に悪の栄えた試しは無し、しかし悪の絶えた試しもなし。】


「ならば、拙者達は己が信ずる道を進むまで」


「謹んで参りましょう。あの程度の鱗、斬れぬ貴方様ではありますまい。」


 二人が戻るとガルシアが駆けており、先程より瞬き二つ分ほどかという時しか流れておりませんでした。


「重兵衛」


「うむ。奏太郎」


「「刀に迷いは無用!成すべきことを!!」」


 竜とおゆうを煽るガルシアの元へ即座に参じた二人は刀を構えたのでございます。


「策は!」


「「ある!」」


「ガルシア殿、俺と共にあそこに見える鎖を!」


 竜が壊したであろう小屋から鎖が飛び出しておりました。


「重兵衛、ガルシア殿任せたぞ!月を見上げるのだ!」


 おゆうは痺れを切らしたのか、竜を街へ向け走り始めたのです。


「ごちゃごちゃと面倒なやつら!せめてりゆかおすだけでも!!」」


「行かせるかぁあああ!!!」


 その時現れた一人の男が竜に飛び乗り、おゆうを押さえつけたのでございます。


「お前っ!?ダメだ来るな!」


 それは先程救出された勇者でございました。満身創痍で血を吐きつつも、抑えたのでございます。何故かおゆうは勇者へ来ぬよう叫んでおりました。


「「見事!!」」


 その隙を突き、奏太郎が姿勢を整えたのでございます。


「フッ!!!」


 疾風迅雷が雷を纏い、一目瞬きの間に竜の両膝から下を斬り落としたのでありました。叫びを上げて前のめりに倒れる竜の下には重兵衛とガルシアが鎖を伸ばして構えております。おゆうは勇者と共に弾き飛ばされておりました。


「ひけえええい!」


「はいー!!!」


 倒れた竜は 剛腕二人が引く鎖に首を取られのでございます。


「あの人達なんて怪力っ。おゆう、諦めて投降するんだ!」


「離せアズマ!もう間に合わなくなるよ!」


 おゆうを抑える勇者もその二人の力に驚いておりました。


 重兵衛は鎖を三本の木に結びつけ、鬼造平帳を構え竜の前に立ったのでございます。


「今楽にしてやる。」


 抜刀すると炎が溢れ、重兵衛の目が引き締まった。命を絶つ覚悟の表れでございます。


「であっ!!!」


 的確に首元を切り抜き、ごとりとその巨大な頭が落ちたのでありました。炎は刃となって空へ燃え上がり、鎖と首裏の鱗すら切れております。


「ふぅ……南無阿弥陀仏」


 重兵衛の頭二つ分はある竜の大きな目を優しく閉じ、奏太郎と共に一拝みしました。


「さて、勇者とやら。よくおゆうを押さえておいてくれた。その者をこちらへ。」


 おゆうは何故か抵抗を止め、勇者と共に座しております。これは何かあると踏んだ重兵衛と奏太郎はガルシアへ目配せをしたのです。


 さて、次回。

不知火おゆうに、何故勇者アズマが捕まっていたのか分かるのでこざいます。

そして、結果は変わらぬものであると。

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