第五話「カナデの奇策」弐
さて、前回は人質に取られたエレナ姫と仲間を救うべくカナデが奇策を放ったのでございます。
ガルシアの元へ黒爪のおゆうが歩み出した隙を狙い、重兵衛と奏太郎が一気に人質の元へ駆け出したのでございました。奏太郎が瞬く間に速く着き、姫達を縛る縄を瞬時に切り落とし、落ちた三人を一人で抱えた重兵衛は踵を返したのでございます。咄嗟に竜が驚き前足で重兵衛を蹴ろうとしますが、なんと左腕のみで弾き返したのでありました。
何という早業か。策の内容を知っていたガルシアでさえ息を呑む暇もございませんでした。つまり、黒爪のおゆうと竜は何が起きたのか理解するまで時間を有したのであります。
そしてその焦りは何を生むか。
「な、なんだ!?貴様らは重兵衛と奏太郎か!?なぜこの場所にっ!」
焦り竜へと乗り込む黒爪のおゆうはすでに罠に嵌っておりました。高い木の上から滑空し、月を背にして姿を隠して飛んできたカナデが炎の魔法を纏った右足で竜の頭を蹴り飛ばしたのでございました。
高いところは苦手なカナデでございましたが、もはやそれをどうこう言っていられる場合ではございませんでしたし、何より自分が足手まといになることが嫌なのでございます。
黒爪のおゆうは吹き飛び、地面に叩きつけられつつも体勢を立て直しております。しかし、竜には予想以上に効果は薄かった様子。
「しまッ!?」
竜の口から炎が噴き出し、カナデに直撃したのでございます。
「「カナデ殿!!」」
ガルシアへ姫達を引き渡していた重兵衛達は焦りました。サディネアで見たギルドラゴンよりも一回り以上は大きい竜。そんな竜の炎を受けてしまえば灰すら残らないでしょう。
カナデは魔法の盾を張っていたようでございました。竜の炎を二重の障壁で受けたものの、勢いは殺せずカナデは吹き飛ばされ、三度地面に身体を打ちつけ、木にぶつかる寸前に重兵衛が受け止めたのでございます。
「付け焼き刃でも刃は刃!でかしたカナデ殿!」
「や、やりましたっ。うぶっ」
その顔はまさにしてやったり。焔の様に煌めく瞳は一心に重兵衛へと向けられておりました。口から滲む血も勲章といった面持ち。それで重兵衛は
(はは、たいしたものだ)と微笑んでカナデの頭を撫でたのでありました。
「後は任せよ。カナデ殿はすぐに城へ引き返すのだ。」
「嫌です!重兵衛さんと奏太郎さんと一緒に戦うんです!」
重兵衛は一つ拳骨をカナデにくれると、駆けつけた兵士にカナデを頼んだのでございます。
「嫌です嫌です!私も戦うんですぅうううう!」
「カナデ殿の役目はここまで!己自身の力量と役目を履き違えてはならん。あの竜にカナデ殿の魔法は効かん。それに策は成功したのだ。誇れ。」
兵士に抱えられながらも駄々を捏ねるカナデは、その一言で黙ったのでございます。自分の力量と役目…。分かってはおりましたが、これ以上戦えない悔しさに歯を食いしばって涙を流しておりました。
「よし、ゆけ!」
担がれていくカナデは悔し涙を流しつつ、こう思ったのでございます。
(私もカタナがあれば隣にいられるのだろうか)
と。
そして奏太郎はすでにおゆうが乗る竜と戦いを進めておりました。おゆうも竜も、奏太郎の素早い動きと剣技に全くついて行けておりません。ただただ翻弄されております。
「ちょこまかと!」
ここで不思議に思っていたのは奏太郎でございました。己の身体がまるで稲妻の如く動けること、重兵衛の元より強い怪力が、竜の強靭な前足を咄嗟に左腕のみで弾き返すほど剛力になっていたこと。
この世界へ来てから、二人の身体が日ノ本にいた時に比べて格段に強くなっていることに。
ドワーフの火山で濃厚な鍛錬を積んだとて、それはあくまでも数日のうち。強くなるには理由があるはず。それが己自身のことであるはずが理解できていなかったのでございます。もちろん重兵衛もそのことに気づいておりました。合流した重兵衛が竜の右脇腹に飛び蹴りを入れると、その巨体が大きく揺れたのでございます。
((奇妙だ…))
それを見ていた聖王都の兵士達は歓声を挙げておりましたが、これが癪に触ったのか…おゆうが竜に命じて兵士達へ炎を向けたのでございます。
「退がれ!ここは俺達に任せよ!」
竜の炎を何とか止めようと二人が向かう直前、援護に来たガルシアが竜の頭に向かって飛びかかったのでございます。剣を振り下ろし、その威力たるや凄まじいもので竜の巨体を大きく弾き飛ばしたのでございます。
「ぐっ!今ので斬れないとっ!?」
「ガルシア殿!」
「加勢に来たつもりが、攻撃を止めるので精一杯とはっ。」
「構わん。助かった。お主が来なければ兵士達は焼け死んでいたであろう。」
「拙者達に任せよ。」
「重兵衛様、奏太郎様!私にも戦わせて頂きたい!これは国王様の命ではありません。レイ姫君の願いなのです。貴方達ブシを守れと。」
「拙者はそれで構わん!姫君のために戦おう!」
「おい奏太郎…。まぁ良い。おゆうの首は我らが。竜の足止めを頼む!」
さて、次回は重兵衛と奏太郎、そしてガルシアの共闘が思わぬ好機を呼ぶのでございます。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます