第四話「カナデの奇策」壱

 さて、前回聖王都トワは不知火の急襲を受けたのでございました。


 町を駆け抜ける重兵衛と奏太郎はカナデに住民の避難を任せて、不知火の元へ一直線に向かっておりました。


 すると竜に乗る不知火は紙を町へいくつか投げ込むと、飛んで王都の先にある平原の小高い丘に降り立ったのでございました。


 紙を拾い上げると、驚愕の事実と不知火の望みが書かれているではございませんか。


 "三番目のエレナ姫と勇者達は預かっている。助けたくば引き換えに、聖王都への要求として聖王都の聖鈴せいりんであるを我らに頂きたい。拒めば勇者と姫は死に、町を焼き払う。一刻の猶予もない。黒爪のおゆう。"


「屑めがっ。望む物が何か知らぬが、此奴はあの世送りだ!」


「今すぐ拙者達が八つ裂きにしてくれる!逃げ落ちた恥辱ここで一つ晴らしてくれるわ!」


 憤る二人が紙をくしゃくしゃにし踏みつけて駆け出そうとしたところで、カナデが駆けてきたのでございました。


「落ち着いてください!もう、やっぱりすぐに向かおうとしてましたね?とりあえずこの内容について国王様に聞いてみましょう?」


 冷静なカナデにピシャリと抑えられた二人は、すごすごと国王の元へ戻ったのでございました。


「紙は読ませてもらったよ。まさか聖王都が襲撃され、更に勇者と姫が捕まってしまうなんてね。捕まっているのは、偵察からの情報だと3番目の姫と勇者達のようだね。」


「竜はいるが、どうやら単騎。魔王も獄蔵もいないようだ。それに我ら三人がこの地に来ていることもあの様子では気づいておらん。」


「クロム国王殿、とはなんだ」


 問う奏太郎の前に姫君が一歩進んで話したのでございます。


「それは私が説明しますわ。聖鈴リュカオス。この王都に秘蔵されている、退魔の鈴ですわ。伝説によれば、"一つ鳴らせば邪心を正し、二つ鳴らせば魔を滅し、三つ鳴らして唄えばこの世を滅ぼす"とされており、1000年も昔から存在し、いつ誰が作った物かもわからないんですの。使われたかどうかも伝承には残っていないのですわ。」


「ほう。一千年も昔より……。しかしこの世を滅ぼすとはまた物騒な物を。何故不知火はそれを望むか、心当たりはあるのか?」


「先程も聞いた通り、この鈴を使った記録は無い。つまり、本当にそんな力があるのかも私は知らないんだ。使って試すわけにもいかないだろう?だが、力が無いとも言えない。不知火が狙うには十分な理由だろうね。」


「ふむ。クロム国王殿、我らは不知火を討つ。が、一宿一飯の恩をお返しさせていただけるならば奴等から勇者と姫君を救い出そう。」


「うむ。拙者達が不知火を討つことには変わらん。そのまま助け出してやってもよい。」


「あぁ、それは助かる。けれど何か策はあるのかい?」


「「ない」」


 ため息をついたカナデが手を上げたのでございます。


「私は策があります。それには本物のリュカオスとガルシアさんの協力が必要です。」


「どうかエレナお姉様をお助けくださいませ…」


 さて、黒爪のおゆうが竜と共に丘で待っているとガルシアが聖鈴リュカオスを持って現れたのでございました。


 竜の足元には磔にされた3番目の姫と勇者達がおります。いつでもエレナ姫を殺せるとの意思からか、竜の口元は姫、勇者、魔術師に向けられておりました。


 そこから離れた雑木林の中に重兵衛と奏太郎が竜と黒爪のおゆうを挟み撃ちする形で身を潜めておりました。すでに重兵衛は抜刀し、奏太郎は居合いの構えでございます。


「そこで止まりな!りゆかおすをそこに置け。」


 黒爪のおゆうがガルシアを止め、ガルシアが両の手を挙げて敵意がないことを表した。


「リュカオスは国宝。地につけることはできない。せめて受け取ってくれ。こちらは丸腰だ。」


 舌打ちをした黒爪のおゆうが、受け取るために竜から降りたその時でございます。


 重兵衛と奏太郎が一気に駆け出したのでございます。


 次回、カナデの奇策が不知火に炸裂するのでございます。


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