第二話「五つの明けの明星」
さて、前回聖王都トワへと辿り着いた四人は、現在の国王であるクロム・アースウェル・トワの城へとやってきたのでございました。そして門番を一蹴してしまったのでありました。
「失礼いたす。」
「いやほんと失礼しちゃったんですよ。あぁどうしよう。」
「カナデ殿、仕方ない。」
「……私見てました。少しずれはありましたけれど、真っ先にカタナを抜いたのは奏太郎さんです。」
「ぬっ……。」
奏太郎は少し驚いたのでありました。手加減していたとはいえ抜き身も見せぬ神速を誇っておりますので、まさかカナデが抜き身を読むまで成長するとは嬉しいような悔しいような気持ちでございます。
「まぁまぁ。私もいることですし、きっと許してくれますわ。」
堂々と城の中を進むと、内装はやはり日ノ本に似た畳や障子。
すると途中で一人の男が待っておりました。腰に剣がありますが殺気はございません。重兵衛と奏太郎ぐらいの年齢と見えますが、すぐに"できるやつだ"と勘づいたのでございます。その男も二人の様を見て同じく感じた様子でございました。
「……最後の姫君ですね。お待ちしておりました。私は国王様に支えるガルシア。どうぞこちらへ。門番の件、お見事でした。こちらの無礼をお許しください。」
どうやら"話の分かる者"でございました。カナデはホッと胸を撫で下ろしたのであります。そのまま案内で進むと、広い畳敷の居間に通されたのでございました。周囲には武装された騎士達。中央の椅子のそこには一人、二十代程の若い男がにこにこと笑顔で座しております。この世界では珍しい黒髪の人でございました。
「皆様、聖王都国王クロム・アースウェル・トワ様でございます。」
すぐさま重兵衛と奏太郎とカナデは正座し、頭を下げたのでございます。カナデはこの正座がどうも苦手で、すぐに足が痺れるので早く崩したいと思っておりました。
「俺は齋藤重兵衛影竜。この世界とは異なる場所、江戸より悪党を追って参りました。」
「拙者は小川奏太郎光仲。重兵衛と共に悪党不知火を追う命を受けております。」
「私はハーフエルフのカナデです。お二人とは話せば長くなるので割愛しますが、一緒に旅をしてブシを勉強しています。」
「紹介ありがとう。どうぞ楽にして。先日ドワーフの山で起きた争乱の者達だね?そして貴女は封印されていた最後の姫君だね?」
その声は優しく温かく落ち着くもので、三人は不思議と警戒心を抱きませんでした。
「ええ、私がいた時代より随分と時間が経ったようですわね?」
「貴女が眠ってから100年の月日が経っているよ。そして他の姫君達は10日ほど前に目覚めて既に旅立っている。」
「100年…。それに旅立って…どういうことかしら?」
「他の姫君達はすでに選ばれた勇者達と魔王とその部下を討つため旅立っているんだ。君を待っていたが、目覚めが何故か遅れたようだね?」
「そうなのね。お姉様達も無事目覚めたのなら安心したわ。さて、出遅れた私は誰と魔王を討つ旅に出ればいいのかしら?」
「すまないが、レイ様はもう少しこの国で待ってもらいたい。もう精鋭と呼べる者達はいなくてね。今から探すことになるんだ。」
「んー、仕方ありませんわね。寝坊した私が悪いですものね。」
「待て待て構わん。俺達と共に魔王を追えばよい。そこに不知火もおる。」
「拙者も賛成する!」
珍しく奏太郎が少し声を上げたのでございました。
「しかし…君達には君達の使命があるはず…。迷惑ではないかい?」
「滅相もございません!是非!」
重兵衛とカナデは気づいておりました。恋心だな、と。
「ん…ならばお願いしようかな。旅の資金はしっかり出すよ」
「しかし困ったことが。その勇者とやらに魔王ならまだしも、不知火や獄蔵を討たれては困る。あれらは我らの真の宿命。」
「うむ。それはそれだ。なんとか不知火は居場所を我らに知らせるだけにしてもらいたい。」
「ん?それは誰が殺しても一緒ではないのかい?同じ敵だと思うんだけれど。」
その言葉を話した瞬間、重兵衛と奏太郎の雰囲気ががらりと変わり空気が重くのしかかったのでございます。カナデでさえこのような二人の空気は初めてでございました。
「一緒…?違う。不知火は日ノ本という世界を、幕府の威信を、罪なき人々の幸せを傷つけた。」
「その者達が見ず知らずの世界の者達に迷惑をかけて、更に代わりに恨みを晴らしてもらったとて、気持ち赦されるものでは断じてない。」
「不知火は俺達が斬る」
「不知火は拙者達が斬る」
「「手出し一切無用」」
その眼は"不知火に手を出せば勇者とて斬る"と、そういった眼光でございますから国王クロムも側近ガルシアも肝を冷やしたのであります。周囲の兵士共もごくりと唾を飲み込むだけでございます。
そしてカナデだけはもっと恐ろしい事実に気づいておりました。二人の右手が腰あたりに上がり、掌が開いていたのでございます。それはつまり、先程の二人の意見が通らず勝手にも不知火を討つようなことを勇者達に命じて強行していればここで国王も側近も斬るつもりだったのだと。
「はっ…はっ…」
カナデは口の中が渇き言葉になりません。己の使命、宿命のためならば一つの国とでさえ一戦交えることも辞さない。これが武士のもう一つの姿なのかと。確かによく考えてみれば、いくら聖王都とはいえ違う世界から来た二人が従う義理はない。そしてその前に、このままでは魔王・不知火の軍勢と戦う前に聖王都トワとの戦いになってしまう。どうやら側近のガルシアも手に気が付き、震える手で剣にゆっくりと手を掛けたのでございます。
こうなれば最早カナデの行動は一つでございます。
「お二人とも!!」
カナデは二人の頭に拳骨をかましたのでございました。
「いでっ!」
「あだっ!」
「国王陛下様大変失礼致しましたお二人は旅の疲れで苛立っておりますので後で強く反省させておきますそして土埃もついていてお見苦しいままなので湯をお借りします失礼します!」
早口で早々に王室から出たカナデは二人の首根っこを掴み風呂場へ来ると刀だけ外させ二人を湯船へと投げ込んだのでございました。
「ゴホッ!カナデ殿!?」
「何故怒っている!?」
「お二人は聖王都と戦争するつもりで来たのですか!?全く!たしかに宿命は大事です!でも上手くごまかして生きることも覚えてください!」
「……。っはは。ではその役目はカナデ殿に任せよう。」
「ああ、それがいいな。拙者達はこういうものなのだ。」
二人が揃って笑うとカナデは呆れたのでございました。私がいなければこの二人は己が義のために全てを敵に回しかねない、すぐに死ぬと。
「あーそうだカナデ殿、ついでに酒とつまめるものをもらってきてくれ。」
「豆腐のようなものがないか聞いてみてくれ。」
そういうと二人は濡れた服を脱ぎ始めたので、カナデは返事する間もなく風呂場を駆け抜けたのでございました。
さて次回は、聖王都で次の行先を決めている最中、最悪の情報が飛び込んで来るのでございます。
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