第15幕「天岩戸開き現れたるは聖国の姫君」

 さて、前回洞窟奥にて襲いかかってきた骸骨の騎士ゾォアを打ち倒した三人。すると目の前に緑の光に包まれ現れた不思議な物がございました。


 その刹那、再び重兵衛と奏太郎の心へ鬼造平帳と疾風迅雷が語りかけてきたのでございました。


 ー主人、わっちの切先を光へ。ー

 ー貴方様、わたくしの切先を光へ。ー


 言われるがまま二人はそっと切先を緑の光へあてがうと、今までいた洞窟からがらりと変わり、途端に竹林の場所へと変わったのでございます。ドワーフの山には竹林など無く、むしろこの世界にきて初めて竹林を見たので不思議でございました。


「外…へ出たのか?」


「竹林…日の本のようだ」


「不思議な魔力を感じますよ…。でも、何故か落ち着く…。」


 そして目の前には二人の故郷日本で見られる"鳥居"が何列も建ち並んでおりました。そこへ進もうとすると、どこから現れたのか竹林の中から狐の面を被り、赤い和服を着た女の子ども達が七人。いつのまにやら三人を取り囲んで静かに、しかし確かにりんりんと鈴を鳴らしていたのでございます。


 咄嗟に刀に手を伸ばす二人を止めるようにカナデが魔法の壁を周りに張り、警戒しました。


「不知火…?」


「いや…不知火の面とは違う上等な面だ。それに子ども。殺意もないようだ。」


 警戒している三人をくすくすと笑い、狐の面の幼女達は手を繋ぎ、鈴を鳴らしながらぐるぐると周りを回り始めたのでございます。


神宮女かごめ神宮女かごめ〜加護の中の鳥居は〜いついつ出会う〜夜明けの番人〜士流つる加女かめが澄ませた〜後ろの聖門しょうめんだーあれ】


「夜明けの番人…ぞおあのことか?」


 重兵衛がゾォアが言ったことを思い出し、ぼそりと口に出した途端。幼女達はぴたりと唄をやめ、じっと三人を見つめてきたのでございました。なんとも不気味でございます。


「あの、これは…」


 カナデがゾォアの遺品として拝借しておりました金の首飾りを見せると狐の面の幼女達は頷きました。


【選ばれた】


 ふと気がつくと三人は再び竹林の中へ佇んでおりました。


「化かされておるな」


「化かされてる」


「化かされてますね」


 鈴の音が響き、それに釣られて歩いた三人はいつの間にやら神社に似た建物がある場所へと歩みを進めていたのでございます。


「神社…か?しかし文字は日の本のものではないな」


「うーむ。京で似たような文字を使う陰陽術師がいたが、ここは異なる世界。カナデ殿、わかるか?」


「いえ…サディネアでも見たことはないです。といっても私は世界中の文字を知っているわけではないので、どこかの王国で使われているものかもしれないです。つまり、わかんないです。」


 重兵衛と奏太郎が一礼し、鳥居を潜り、カナデもそれに倣って一礼して潜った時でございます。琵琶の音が一つ響くと、神社のような建物の戸がぱしんと開いたのでございます。


「入れ…ということか。」


「鬼が出るか蛇が出るか」


「どっちもやですね。」


 恐る恐る入ると、中は木製の床の一部屋のみ。仏具もございません。しかし真ん中の布団に銀の髪をした目を見張るほどの美しい少女が寝かされておりました。寝息は微かにあり、生きている様子。齢はカナデと同じほどでしょうか。


「これはまた麗しい…」


「あ…ぁぁ…。」


「はぁ〜綺麗…。あれ…この人どこかで…。」


 思わず三人が見惚れる程でございます。しかしカナデはどこかで見覚えがある様子でございますが、思い出せぬよう。すると、少女が目を覚ましたのでございました。


「あ…う…んん…ん?」


「目覚めたか。俺は齋藤重兵衛影竜。」


「拙者は小川奏太郎光仲。」


「ハーフエルフのカナデです。」


 紹介を手短に済ますと、少女はよろよろと起きあがろうとするためカナデが手を貸したのでございました。


「ありがとうございます…。貴方達は使いの者ですわね?私はどれくらい眠っていたのかしら…」


 何やら話が読めぬことを話す少女。その時カナデは少女の魔力に気づいたのでございました。


「この魔力…月の力を感じる魔力は…。まさか第三聖王都トワの姫様?でも…昔話だと百年くらい前に…」


「貴方達、王都の使いの者ではないのかしら?ならなぜ私は目覚めて…。それにお兄様は…護衛のゾォアお兄様は?」


「話が読めん。我らはこの世界とは異なる世界から来た。洞窟へ迷い込んだ時、ぞおあという骸骨の騎士が何やら我らを試すよう挑んできた。カナデ殿。」


「はい。これに覚えは?」


「骸骨…?それにこれはお兄様の首飾り…。あぁっお兄様っ!」


 首飾りを抱きしめて咽び泣く少女をカナデが静かに抱きしめました。落ち着くまで数時、重兵衛も奏太郎も問うことはなく静かに見守ったのでございました。きっと推し量れぬ事情がある。そこへ無闇に立ち入ることができなかったのは男心というものでございます。


 暫くして少女が落ち着いた頃合い。少女は大きく一つ深呼吸をすると、まだ涙に濡れる赤い瞳を三人へ向けたのでございます。


「私は第三聖王都トワの第六王女、レイ・アースウェル・トワ。私の兄、ゾォアを救っていただきありがとうございました。」


「「なんと?」」


「えーと、一つの国のお姫様ってことです。ゾォアさんを救っていただきありがとうございますと。」


 と、カナデが二人へ耳打ちした途端。重兵衛も奏太郎も即座に数歩分下がり、平伏し頭を床へ打ち付けるが如く下げたのでございました。


「「大変失礼を!」」


「そんな…お気を遣わずに…。私は六番目。地位も高くはありませんわ。それより貴方達は違う世界から来た、と。」


「はっ。俺は火付け盗賊改副頭として不知火という悪虐非道なる者どもを追っております。元の世では爆発に巻き込まれ、気づけばこの異なる世界へ迷い込んだのでございます。」


「何の因果か不知火共もこの異なる世へ迷い込み、拙者達はそれを追っているところでございます。しかし不知火は魔王ノブナガと手を組み、強大。恥ずかしながら逃げ延びたところで洞窟へいたぞおあという骸骨の騎士と戦ったのでこざいます。」


「そして変な狐の面の子ども達に導かれてここへ。」


「なるほど。魔王ノブナガ…。きっとこれが私の使命…。貴方達、異なる世界より来たとは苦労も絶えないでしょう。」


「有難きお言葉…」


「貴方達は私の兄、ゾォアを倒したようですね。その…骸骨…というのは?」


「は…甲冑、剣は錆びつきもはや崩れんばかりの骸骨の武士でございました。」


「お兄様がそのような姿になるほど私は長い時間眠っていたとは…。そちらのハーフエルフさん、先程は落ち着かせてくれてありがとうございます。聖王都トワはどうなっているかご存知ですか?」


「聖王都トワは月光の守護者として邪を払う魔法使いや騎士を育てる国として知られています。行ったことはありません。」


「そうですか…。」


「姫君は何故この様な場所でお眠りに」


「私は国王である我が父、ガルシア・アースウェル・トワの命により"きたるべき日"のためにお姉様達と各聖地に封印されていたのです。私達は六姉妹で、皆強力な聖なる月の力を持って産まれてきたのですが、来るべき日は遠い未来と予言されました。そのため悪用も避けるため秘密裏に封印されたのです。」


「ということは…。この度目覚めたということは、その来るべき日が来るということでございますか?」


「いいえ、もう来たのです。魔王ノブナガ、それはきっと私がこの長きにわたる封印の理由だと感じるのです。月の魔力が、身体の中で騒めいているのです。」


「つまり姫君は魔王ノブナガを打ち倒すために長きにわたる封印をされてきた、と」


「そのようですね。どうしましょう?」


「うーむ。不知火は霧散し隠れた。追う手立ては無い。しかし魔王ノブナガを遥か昔より迎え撃つ用意をしていた国というなれば。」


「王国とやらに姫君を送り届ければ、何かしら進展するやもしれんな。拙者は良い案だと思う。」


「第三聖王都トワ…ここからかなり遠いですよ。二十日はかかります。ん…ここってそういえばどこなんでしょう?」


「ここは聖地ヤミギ。トワから西へ五日程進んだ秘密の竹林ですわ。」


「なんと!ドワーフ達の山から少し降りた洞窟にいたはずが。」


「なぜお兄様が私の守護を離れ、そのような遠き場所にいたかは定かではありませんが、見定めた者をここへ魔法で転移するように仕掛けていたのだと思います。狐の面の子らはお兄様がいない間私を守護する召喚精霊でしょう。」


「なるほど、わからん。では、行くとするか。」


「なっ、長年眠っていたというならば足元が覚束ぬでしょう。ひひ姫君がよろしければ拙者がおぶらせていただく。」


「まぁ、ありがとうございます。」


「第三聖王都トワ…どんなところか楽しみです」


 さて、次回は第三聖王都トワへと向かうことになった三人と姫君。しかし何やら不穏な気配が漂うのでございました。

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