第12幕「煌めく炎と咆哮する雷」壱
さて、ゴルザの僅かな命をかけた刀の打ち直しが進む中、魔王ノブナガの軍勢が三人のいる山を取り囲もうと進軍してきているのでございました。
命運を分けるのは、夜明け。
三人は夕日が大量の敵群の向こうへ沈んでいくのを静かに眺めておりました。静かにといってもカナデの顔は青ざめ、熱い火山という理由ではない冷や汗をかいているのでございます。それもそのはず。二人は逃げないと言ったのでございました。その理由としては
「自分の刀を任せた恩義あるゴルザや受け入れてくれたドワーフ達を差し置いて自分達だけ逃げるなど甚だ可笑しな話だ」
ということなのでございましたが…。
「さて、困ったな重兵衛。」
「困ったな奏太郎。カナデ殿、お主はー…」「に、逃げませんよ!私だけ逃げるなんて絶対嫌です!」
「足が震えておるではないか〜。」
「ひぃん…。でも!私はお二人を支えると誓ったんです!ゴルザさんの様子を見てきます!」
なかなかこのカナデ、強情と申しますか義理堅いと申しますか。義理堅いのはカナデだけではございませんでした。
「全く、どいつもこいつも。異世界とはかくも義理堅い者が多いようだ」
重兵衛と奏太郎が溜息をついて見つめた先。そこには山にいるドワーフ達も武装し、陣をはったのでございます。もちろん重兵衛も奏太郎も「我らに付き合うことはない。逃げろ」と申したのではございますが、「ゴロスケの恩を今こそ返す時。美味い鍋と酒の礼も残っている」と頑なに譲らなかったのでございました。
「魔王如きが何するものぞ、といった感じか。拙者達はこの世界にとんでも無く借りを作ることになったな」
そこへゴルザの様子を見てきたカナデが戻ってきました。その表情から察するに、ゴルザの残りの命も、刀の行く末も芳しくはない様子。
「あと少しということでした。でも、襲撃にも…残りの命も間に合わないかもしれません」
「そうか…。よもや、戦の終わった世に生まれし我らが異世界で戦になるとはな。」
「それも初陣が負け戦ぞ。どうしたものか。」
「ただで死ぬのは御免蒙る。獄蔵がいそうな陣へ斬り込み、ひと首取ってやらねば死にきれん。」
「おお、それが良いな。重兵衛、四方のどの陣に獄蔵がいそうだ?」
「うむ。やはりあの数の多い南から来ている陣であろう。よく見ると竜もおる。さでぃねいあで戦ったやつとそっくりだ。」
「ならば決まりだ。明朝あの陣へ斬り込むことにしよう。拙者らが先に死なねばドワーフ達に申し訳が立たぬからな。」
そこへカナデが手を挙げたのでございました。その眼に怯えは無く、力がこもっておりました。二人は"こういった目"をする者が好きでございます。なにかしらを企んでいる、と。
「あの、死なないとダメですか?一つ作戦があるんです。この火山の溶岩、使ってみませんか?」
そして夜明けが来る前。大山を取り囲んだ魔王の軍勢は今にも登ってくるところでございました。日の出を待っている様子。
その軍勢はまるで生き物ではない様な、絡繰人形のような出立ちの兵士達でございます。無機質で魂を感じぬその異様な姿に二人は気味が悪かったのでありました。
「カナデ殿。俺達の命、お主の策に任せたぞ。」
「はい!」
二人はドワーフ達数十人を連れて南側へと降ると、流れる溶岩を見つけたのでございます。
「あちっ。ふふ、可愛い顔をしてカナデ殿も恐ろしいことを考えるものだな。」
「いやはやあれは我らの世界におったら、名のある策士かとんだ悪党になっていたな。者共準備はいいか!」
ドワーフ達が声をあげ、崖を崩し、岩を蹴り落としていくのでございます。そうして溶岩は流れを変え、最後に一つ大きな岩で蓋をしたのでございました。
「登ってきたところをこの溶岩を流し込み、焼き尽くしつつ進路を防ぐ、か。恐ろしい女子だ。」
「そしてここで騒ぎを起こしたとなれば全軍が集まってくるだろう。…と俺達が考えて反対側へ来ると思っているだろう。」
「その裏をかき、このまま焼きついた土地を駆け抜ける。逃げるついでに獄蔵がおれば首を斬っていく。おらなければそのまま逃げて態勢を立て直し、後日追う。ドワーフ達は火山奥へ散り散りに逃げ、溶岩で手が届かぬ場所へと隠れる。拙者達武士には考え及ばぬ策であったわ」
カナデの考えた策はどこか日の本の戦で行った武将がいた気がしましたが、二人だけでは到底考え付かないものでございましたので、心底感服していたのでありました。
さて、いよいよ日の出。命運分かつ時がやってくるのでございます。
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