第11幕「黒い波は先の篝火と記す」
さて、刀を打ち直してもらうこととなった三人は三日の間ゴルザの空き部屋を借りて山に籠るのでありました。
「お主ら、このカタナの名はなんだ?」
ゴルザに問われた重兵衛と奏太郎は顔を見合わせると首を傾げたのでございます。
「名はない。俺達に合わせて作られた刀で、日の本に一振りずつしかない。」
「間違いなく名刀ではあったが、名はなぁ。拙者は刀は丈夫でしっかり切れればよかったからな。」
「それはいかん。名は物に命を与えるものじゃ。考えておけ。」
そういうとゴルザはすぐに工房へと篭ってしまったのでございました。
「名…か。拙者の刀には何と名付けようか。」
「修行をしながらでも考えればいいだろう。俺はこの世界の生き物との力の差を味わった。力で負けぬ程鍛え上げねば。」
「拙者も、居合いは即座に脆く弱い場所を見極め斬ることにある。しかし空を飛ばれては元も子もない。技を練らねば。」
「私は魔法を練習します。お二人の足手纏いは嫌ですから」
「たかが三日、されど三日だ。不知火を追いたい気持ちを抑え、己を鍛えよう。」
そして三人は、周りは誰もいない火山地帯のため好き勝手に修行を始めたのでございました。重兵衛は岩を使い身体を鍛え、奏太郎は溶岩流の近くで飛びや集中力の修行を行い、カナデは一際大きい大岩へ魔法を当て、修行したのでございます。
熱く暑い火山地帯でございます。三人の身体は普通の場所で鍛え上げるよりも大きな負担を受けておりますので、効果もより良いものでありましょう。
さて、三日経った頃でございます。夕暮れにゴルザが倒れたのでございました。工房で吐血して倒れているのをカナデが見つけ、魔法で応急処置を施したのであります。
「カナデ殿、ゴルザ殿の様子は。」
「老いた身体に無理に鞭を打って作業をしていたようです。これ以上は限界のはずです。」
「ゲホ、ゲホ、勝手に限界を決めつけるんじゃないわい。」
そうゴルザは言うと立ち上がり、工房へ向かおうとするのでありました。膝折れし、転びそうな所を重兵衛と奏太郎が受け止め、カナデは胸を撫で下ろしました。しかし、重兵衛と奏太郎はゴルザの眼を見ると、そのまま工房へと共に歩いて行くのです。
「重兵衛様!?奏太郎様!?」
この二人は何をしようというのか。まさか無理矢理にでも刀を打ち直させるつもりなのか。カナデは理解できなかったのでございますが、このあとすぐ理解することとなりました。
二人はゴルザを工房の椅子へと座らせました。すると、ゴルザは微笑んだ後何も言わずに槌を握ったのでございます。
「まさか…」
「眼を見ろカナデ殿。ゴルザ殿の眼は光を失ってはおらん。命と心を燃やしておるのだ。異なる世界から来た我らのために。」
「ゴルザ殿は、最期の仕事として我らの刀を打っておる。その眼と記憶に焼き付けろ。そして忘れるな。あれが義というものだと。男も女も関係なく、あるものだ。」
「はいっ」
力強く返事を返したカナデは二人に習い正座へ座り直し、そして背筋を伸ばして涙を流しながらもゴルザの戦う姿をその眼と記憶に刻んだのでございます。
血を吐き、倒れても、その背中は語っていたのでございます。
そこで見届けよ。手出し無用。
と。
この時、一心不乱に刀を打つゴルザの頭の中は一つでございました。「あぁ…神というものがいるのなら…あと少し、あと…少しだけ時間を」と。
「ゴルザ殿、俺達は待つ。三日ではなくとも、いくらでも」
「男の約束だっだが、すまない。あと少しばかりくれ…げほっ!げほっ!」
しかし、ゴルザの残り僅かな命を燃やしているというのに運命というものはかくも残酷であります。ゴロスケが飛び込んできたのでございました。
「みんな大変だよ!急いで外へ来て!」
ゴロスケに連れ出され、外へ出ると北の方角の地が黒く蠢いているではありませんか。
「カナデ殿!魔法で見えるか!」
「はい!やってみます!」
カナデが自身の眼に魔法をかけ、遥か彼方を覗き込むと一気に嫌な汗が噴き出したのでございました。
「重兵衛様っ…奏太郎様っ…すぐに逃げましょう!魔王ノブナガの手下達です!数は…数えたくありませんっ!」
「重兵衛、こりゃ逃げきれんぞ」
すでに後ろの方角を確認していた奏太郎も冷や汗をかきました。敵は遥か先ではありますが、東西南北に軍勢はおり、取り囲まれておりました。
「狙いは…やはり俺達か?」
「だろうなぁ。カナデ殿、ここまでどれくらいかかる?」
「あの速さ…軍勢…。川を渡ってくるから…。反対側は谷もある…。それに今はもう夕暮れ時…停止するはず。そして動くなら…。おそらく明日の夜明けです!」
「あの数、さすがに太刀打ちはできんぞ」
「死ぬやもしれんな」
さて、異世界へ来て彼らは絶体絶命の危機に瀕してしまったのでございます。
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