第9幕「熱き岩の心を持ちて」
さて、前回謎の敵と交戦となり何者かに命救われた三人は村の跡地に簡素な供養の墓を建て、ドワーフの住む山へとやってきたのでございます。そこは二人が話には聞いたことのある、しかし見たことがない、活火山であり溶岩が流れておりました。本来、溶岩が流れる方向には行く必要はないのですが、好奇心には勝てず三人は少しの寄り道をしたのでございました。
「お、おお、これは凄い。この熱い山の息遣い、活力、霊峰といっても過言ではないぞ。」
「それだけではないぞ重兵衛。この赤い火の川、まるでいつかに見た"地獄の絵"にそっくりではないか。落ちたらひとたまりもないな」
「本当に落ちたら冗談じゃなく死ぬので気をつけてくださいね?それにしても熱いです…。」
三人は溶岩から離れた道へ移動しようとしたその時でございます。溶岩の川より微かに声が聞こえるのでありました。
「た、助けてっ!」
そこには川に落ちる寸前で岩にしがみつく、話に聞いたドワーフであろう幼児がいるではありませんか。
「今ゆく!」
重兵衛は咄嗟に川土手を滑り降り、その隙に奏太郎が縄を輪にして準備し、重兵衛へ投げ渡したのでございます。あっという間の連携に、カナデは一瞬気を取られた程。
重兵衛はドワーフの幼児を縄に括り付け、土手を登ったのでございました。
「くっ〜熱い!まさに地獄の業火とはこのことかっ。」
「フローズンブレス!」
すぐ様カナデが魔法を使い、重兵衛とドワーフを冷やしたのでありました。
「無事か坊主。」
「あ、ありがとうございます。」
「よし、傷は浅い。何故あんな場所にいた?」
「これだよ。この薬草、溶岩のそばにしか生えない変な薬草なんだ。これが俺達ドワーフの貧血に効果があるから、採りに来たら、足を滑らせちゃって。父ちゃん、ひどい貧血だから」
「うむ。父のために、か。その気持ちと勇気、忘れるでないぞ。もしこの事で叱られるのであれば俺はお前の味方になろう。な?奏太郎?」
「ん、当然だな。あ、カナデ殿先程の魔法を強めに拙者達の周囲へ頼む。」
「え?は、はい。」
「あ"〜生き返る。この涼しいままドワーフのところへ行こう」
「ちょっと奏太郎様!勘弁してください!結構魔力の消費がすごい魔法で…あれ?全然減らない…。この魔法具のおかげ…」
謎の少女より受け取った最上位の魔法具。カナデは元より治癒魔法以外はそこまで得意というわけではなかったのでございますが、この魔法具が威力を底上げし、魔力の補助まで行っておりました。もちろん、重兵衛も奏太郎もそんなことは分からないものであります。
少々火傷を負った二人を治癒しつつドワーフの村へと来ると、入り口で門番のような者がおりました。筋骨隆々。体躯は重兵衛に負けず劣らずの者達であります。
「ヒトか。何の用…って、ゴロスケ様!?貴様らゴロスケ様に何を!」
「待って!このヒト達は溶岩に落ちそうになった俺を助けてくれたんだ!命の恩人だよ!お!ん!じ!ん!」
という言葉にすぐ様二人は手厚いもてなしを受け、ドワーフの長の元へ案内されたのでございます。ドワーフの長は床に伏せており、病を患っているようでございました。
「おおゴロスケ、無事でよかった。ヒトの方々、礼を言うよ。しかし何用かな?ゲホッゲホッ」
「用事より気になる事がある。カナデ殿、見てやってくれ」
「はい。痰の絡まない咳、瞼の裏…白。心臓は、正常。言う通り貧血ですね。あとは少し栄養失調気味。最近ちゃんと食べてましたか?」
「あぁ、最近は顎の調子が悪く柔らかい岩ばかりでなぁ。」
「栄養が足りてないですね」
「岩を…食うのか。ドワーフというのは」
「うーむ、拙者も幼い頃飢餓で岩を齧った事はあるがなぁ。美味くないぞ。」
「えっ」
「分かりました。私は岩に詳しくないので、他のドワーフさん達に栄養のある岩を砕いてもらいましょう。あとは、ゴロスケさんが採ってくれたこの薬草を煎じましょう。うん、大丈夫です。三ヶ月もすれば戻ります。」
「あぁ、ヒト様とハーフエルフ様にここまで手厚く助けられるとは。ありがたいお話だ。ゲホッゲホッ。」
「三ヶ月は待てぬ故、急ぎお仲間にお頼み申したい事がある。拙者らの刀、打ち直して頂けぬか」
奏太郎と重兵衛が刃こぼれした刀を出すと、周囲のドワーフ達の目が鋭くなった。長が刀身をじっくりと見て、周囲のドワーフ達へ回した。
「見事な冶金だ。これは?」
「刀という。我らの武器だ。これが無ければ悪党を討つことが容易ではないのだ。あ、そうだ。これを混ぜ込んで打つと良いと貰ったのだが、何だろうか」
「この力…龍…?まさか!?こ、これは龍玉ではないか!?しかも二つと!?ゲホッゲホッ!」
「父ちゃん落ち着いて」
「あぁすまない。今のドワーフでもこれを見た者はいない。伝承でしか聞いたことはなかったが実在するとは。」
「りゅうぎょくとは何だ?」
「龍の玉、龍玉。はるか昔、何千と昔。この世界は二つあり、一つは龍が支配していた時代があったという。その世界を治めていたという二匹の龍。赤き龍、スヴァローグ。青き龍、ウィンディーネ。二つの世界が滅びようとした時に、二龍が命をかけてこの片方の世界を守ったという。その時に生まれた龍の力、それが龍玉という。世界に10個あったとされるが、一つも見たことはない。まさか、そんな物が実在するとは…」
「よく分からぬが、龍の力なのだな?これを刀に打ち込めるか?」
「この龍玉、ここにいる若いドワーフには無理でしょう。恐らく、山頂に一人暮らす師範ならば…」
「その師範とやらに会えるか?」
「ここ数年姿を見ておりません。気難しい性格のため、馴れ合いを好まないのです。」
「ふむ。ならば土産の出番だな。」
「うむ。そうだこれは手土産だ。口に合うか分からんが飲んで食ってくれ」
三人は山頂にいる師範と呼ばれるドワーフへ会いに行くこととなりました。
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