第2幕「異世界の街サディネア」

 さて、異世界へと転移してしまった奏太朗と重兵衛は怪我の回復の後カナデの案内の元サディネアを探索しておりました。


 奏太朗も重兵衛も初めて見る異世界の光景に驚愕を隠せないでおりました。この異世界には江戸にはない様々な食べ物や造形物、建造物が存在し、元来好奇心旺盛・新しい物好きな江戸っ子としてはたまらない場所でごさいます。


「うむ!この串焼きは旨い!重兵衛も食べてみろ」


「おお!これは何の肉だ?」


「それは、この生き物の肉です。フログといいます。この時期が美味しいんですよ」


 カナデが指さした先には店先に並ぶ肉類。その中にある、自分達のいた世界では”蛙”と呼ぶ生き物でございました。


「か…蛙……」


 蛙を食べたことはありましたが、かつて口にした蛙肉は美味しいものではなかったので二人は少々驚いたのでございました。


「今夜はフログの料理にしますか?」


 ここ数週間傷の癒しのため出されたカナデの料理は大変美味で、二人は昼前というのに夕餉も楽しみとなったのでございました。


 しかし武士という風体の二人は嫌でも異世界では”浮く”ものでございまして、肩で風を切って堂々涼やかに歩き、そばには美しいハーフエルフの少女を付けている。その姿に目を奪われる者達も多いのが事実。


 そういう存在はやはり、そういった存在に憧れるものには疎まれるのでありましょう。持たぬものは持つものに焦がれるは世の常なりと昔の人は言ったものです。当然……。


「おいそこのヒトさん方よ。ずいぶんと羽振りよさそうじゃねえか。俺達に何か恵んでくれや」


 絡まれるのは必然と言えたでしょう。体中に古傷が目立つリザードマンの大男三人、三匹でしょうか、それらが路地で絡んできたのでございます。


「ほお、とかげ人か。拙者は小川奏太朗光仲。この串焼きはやらぬぞ?」


「俺は齋藤重兵衛影竜。なんだお前達、俺達は今見物に忙しい。怪我が治りやっとこさ歩けるようになったのだ。それにこの世界には初めてきたから金など持っておらんぞ」


「別の世界からきた?ほぉ。金は確かに無さそうだが…」


 奏太朗も重兵衛も江戸っ子とはいえ見知らぬ地で軽率に敵対するようなことは致しません。しかし、”武士”には絶対にしてはならない、禁忌というものがいくつかあるのでございますが…このリザードマン達はその一つを犯してしまったのでございます。


「この剣は立派じゃねえか!」


 奏太朗と重兵衛の愛刀に無断で触れてしまったのでございます。そうなっては…。


「おいてめえ、勝手に触れるんじゃあねえ!」


「このとかげやろう!」


 端正な顔立ちの奏太朗の顔が鬼の形相へと変わり、元から厳つい顔の重兵衛はもはや悪鬼でございます。


「ひ、ひい!?なんだお前ら!?くそ!」


 更にこのリザードマン達は怒りを買うことをしてしまいました。なんとカナデを捕まえ人質にしたのでございます。幕府の命を受け悪党と戦ってきた二人は正義感の塊のような者。


 特に重兵衛は火付盗賊改めの副頭まで勤めていた者でございますから、このあとこのリザードマン達がどうなるかはまさに火を見るよりも明らか。


「動くな!このハーフエルフの顔に傷がつくぜ!」


「どこまでも下衆なやつだっ……拳骨ですませてやろうかと思ったが」


「奏太朗、もはやカナデ殿を人質にしたあのリザードマンには仏様直々の仕置きが必要だ。」


 と、会話が終わった刹那でございます。カナデの顔に緑の血しぶきが飛び散ったのでございました。


「いぎゃあああああ!?」


 カナデを人質にしていたリザードマンの右腕が諸共斬り落とされたのでございます。すでに奏太朗は抜刀しており、その場にいた誰もが見切れませんでした。


「恥を知れい!この小悪党めが!」


 突然のことでもはやあっけにとられたリザードマン、今度はもう一人、一匹といいましょうか、それが凄まじい轟音と共に建物の壁に頭をめり込ませたのでありました。重兵衛がリザードマンの頭を掴み、煉瓦の壁へと叩きつけたのでございます。


 その手際の鮮やかさたるや、カナデは恐怖どころか美しさを感じたのでございました。


 ーこのブシというヒト種族はなんと気高く、そして強いのだろう。ー


 と。


 二人は抜刀し、銀の刀が重厚鈍く光り、それを凛として構える二人はカナデには英雄にも見て取れたのでございます。


 最後の一匹となったリザードマンは、そのまま仲間を連れて逃げればいいものを、腰に差した短刀を震える手で奏太朗達に向けて”しまった”のでございます。


「武士に得物を向けるとは、お主はもはや助かる道はない。」


「あの世で仏様に拳骨をもらってまいれぃ!」


「ひっ」


 奏太朗の居合で首が飛び、重兵衛の剛腕で振るわれた刀が胴体を一文字に斬り落とした。二人は刀に着いた血を紙でふき取り、納刀し亡骸に手を合わせたところに突然大勢の拍手が響き渡ったのでございます。いつの間にやら様々な異種族達が奏太朗や重兵衛を囲んでおりました。皆まるで憑き物が落ちたような晴れやかな表情であります。


「ありがとう!そのリザードマン達はこの街で好き勝手暴れまわる厄介者達で、その強さに手出しができなかったのです!」


「そうであったか。しかし、この異なる世界にきて生きるものを殺めてしまった。この亡骸の埋葬を誰か頼む。」


「カナデ殿、大丈夫か。」


 重兵衛の手を借り、呆けていたカナデは立ち上がった。そして決意したのでございます。


「あの、奏太朗様、重兵衛様」


「「ん?」」


「どうか、どうかこの街を悪の手から助けていただけないでしょうか!」


 次回、奏太朗と重兵衛は進むべき道を見出すのでございます。


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