廃壊世界

@sukemaru0218

序章

「ねぇ。おとーさんは、次いつ帰ってくるの?」


物心がついた辺りの幼い子供が、庭の腰掛けに腰を下ろし、手荷物のチェックをしている男に話しかけた。その男は、一瞬だけ驚いたような様子を見せたが、すぐに表情を戻し、右手を顎にあてて考えた。


「そうだなぁ...。今度は少しばかり長い旅になりそうなんだ。一月もしたら帰ってくると思うけど、それまで一人で待てるか?」


少年は少し寂しそうな顔を見せたが、すぐに笑顔になると頷いた。


「そうか。お前は偉いな。一月も一人で待てるようになったのか。」


「うん。僕だって成長したんだ。」


少年は満面の笑みで男を見ると、男も少し笑いながら少年の頭に手をやった。


「大きくなったな。子供の成長ってのは早いものだ。俺たち大人が予想するより断然早く大きくなっちまう。」


男は乱暴ながらも少年の頭を撫でた。


「うん。僕はね、世界が平和になったらやりたいことがたくさんあるんだ。まずね、僕のお母さんを探そうと思ってね、今大陸のことを勉強してるんだ。」


少年の言葉に男は少し顔を曇らせたが、すぐに戻したため少年にはバレなかった。


「そうか。お前には立派な夢があるんだな。」


少年が頷くと、遠くの方でオオカミの遠吠えが聞こえてきた。


「おっと。もう行かなきゃ行けねぇ。一月で帰れると思うが、何かあったらお前がここを守れよ。」


男は鞄を背負うと、壁に立てかけてある剣を手にした。


「ばいばい!」


少年は元気よく手を振った。


「そうだ。お前に俺から一つ言葉を授けよう。」


歩き始めていた男は振り返ると、少年の目をしっかりと見つめた。


「夢っていうのはな、願っているだけでは絶対叶わないんだぜ。夢を叶える努力をしてこそ、やっとスタートラインなんだ。どうやって、ゴールの夢を叶えるかって言うと...」


男は前を向いて歩きながら、少年に聞こえるように言った。


「どんだけその夢を叶えたいと思っているかだ」


少年は男の姿が見えなくなるまで手を振り続けた。いよいよ、男の姿が見えなくなると、急な寂しさが込み上げてきた。


「どんだけその夢を叶えたいと思っているか...」


寂しさを紛らわすために男が最後に口にした言葉を繰り返すと、なんだか少し和らいだ気がした。


「いってらっしゃい。」


少年はそう呟くと、家の中に入っていった。



──────────


それから半年もたたずして、人類は衰退した。長らく争っていた種族間同士での戦争に人類は敗れたのだ。世界の半分は竜族が占領し、かつて人類の文明が栄えていた場所には、エルフ族や、ゴブリン族などが住み着いた。

運良く生き残った人達の運命は様々だった。

エルフ族の魔術の研究台として使われるもの。

竜族の飯として出されるもの。

アンデッド族に殺され、そのままアンデッドになるもの。

......


地上から人類が快適に住む場所などどこにも無くなった。

どの種族にも捕まらなかったものは、大陸の端っこの方で、小さいスラム街を形成して生き残っていた。そこでは、貨幣制度などは崩壊し、単純なる弱肉強食の社会。殺人なんて当たり前であり、そこに住むもので、人肉を食べたことないものなどおらず、ましてや殺人を侵したことの無いものなど一人も居なかった。



人類が種族間戦争に敗北してから9年。一人の少年が立ち上がるところから、物語は始まる。

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