不正。

「ちょっと!タケル!サラ!早く起きなさいよ!」


 まだ日が昇り始めた頃、5時前だろうか、ベティが廊下をドタドタと走り回りながら個室のドアを叩いてまわっている。

 実はベティは早起きで朝、毎日のように庭で作業しているのだが、今日は騒音を振りまいているようだ。

 黙っていれば静かになるだろうとベッドの中に潜りしばらくすると声はやんだが、少しして部屋のドアが勢いよく開けられる。


「んんん!んっん、んんんんんんんんん------」


何事かと起き上がってみれば、そこにはまだバジャマ姿で、口にテープをグルグル巻きにされたベティが立っていた。

 まあ、何となくは分かるがどうせサラ姉に怒られて口を閉ざされたのだろう。

 仕方がないので、テープを取ってやる。


「あまり大きい声をだすなよ」

「ポストの中にギルドからの緊急の呼び出し状が入っていたわよ。何かいいことがあるかも」


 サラ姉がよほど怖かったのか、急にささやき声で喋るベティ。


「何かいいことって例えば何があるんだ?」

「実力が認められて難易度の高い緊急の依頼とかかもしれないわね。そうゆう依頼は報酬がばか高いの。なんてったって緊急の依頼だからね」


 ほう、なるほど。俺からしたら実力を認められるほどの事をした覚えは無いが、恐らく以前3人組と戦って勝った事に起因しているのかもしれない。

 そうなれば、有難迷惑だ。なにせ実力にそぐわない依頼を受けることになるのだから。

 その感情が顔に出ていたのかベティがさらに続ける。


「もしかしたらボーナスが支給されるかもしれないわ。ギルドとしては優秀な冒険家は手放したくないものよ。となれば、ボーナスを支給して他のギルドに行く事を思いとどまらせる。それに緊急の依頼だからってギルドに行けば皆それを受けるわけじゃないわ。当然受けるかどうかは私たち次第ってこと」


 なるほど。どうせ今日やる事も無いし、依頼の一つでも受けようとは思っていたからギルドに足を運ぶのも悪くないな。


「じゃあ、呼び出しもあった事だし今日は朝からギルドに顔を出すか」


 タケルは臨時収入の可能性を頭の片隅に置いて朝食の準備に取り掛かかる。

 朝食を食べ終え、不機嫌なサラ姉と上機嫌のベティを連れてギルドへ向かった。

 サラは睡眠を妨害されると夜まで不機嫌なのだ。


 自信満々のドヤ顔でギルドに足を踏み入れるベティ。その顔を見てこいつに話は通じないと思ったのか、受付嬢が俺の方を申し訳なさそうに見つめてきた。なんだか嫌な予感がする。

 呼び出し状が間違っていました。程度なら問題ないのだが。


「すいません。緊急の呼び出し状が届いたので伺ったのですが---」


 俺が受付にてそう話していると後ろから聞き覚えのある声が聞こえてくる。


「ちゃんと来てくれて感謝しますよ」


 後ろを振り向くと、3人組マルクス達が立っていた。後ろの2人は俺らに負けプライドが傷ついたのかバツが悪いのか、目を合わせようとしないが、マルクスは睨みつけてくる。

 また何か俺らに絡んでくるつもりなのだろうか。しつこい奴だ。

 しかし、2日前に3階から落下したにも関わらずケロっと出歩いちゃって、体はよほどタフなのか、余計な事を省けば普通に優秀な冒険家なのだろう。


「この前の勝負について、不正があったという事をギルドに報告させてもらったよ。キミ達は勝負に関係ない魔術師の用心棒を雇って僕らを攻撃してきただろう? 明らかな不正じゃないか」


 たしかにその点だけ抜き取ればはたからはそう見えるのかもしれない。しかし、どう考えたって不正を働いているのはマルクス側だろう。サラ姉を賞品にされて、見覚えの無い勝負を仕掛けられて、挙句に手をあげたのもそちら側が最初だ。

 それなのにギルド側はなぜマルクス側に肩入れしているのか、それがようやく分かった。


「ああ、そういえば言ってなかったか。僕の父はこのギルド支部の支部長でね、残念だけど君たちに未来は無いよ。ギルドからは除名。冒険家としての夢はついえる事になるね」


 それを聞いて納得できる事はたくさんある。お互いの承認無しに勝負が始まったのも、呼び出し状が届いたのも。ギルド内で働く人はマルクスの言う事に従うしかなかったのだろう。でなきゃ自分がクビにされるわけだから。


「まあでも、僕は優しいからそうはしないよ。サラ様を僕らのパーティに譲ってくれたらね」


 結局狙いはサラ姉だったのか。手に入れるためなら何でもするらしい。さながらストーカーだ。

 だが、今の俺にはこのストーカーに対抗する手段は持ち合わせてない。


「分かりました。あなたのパーティへ加入しましょう。結婚するかどうかはその後決めさせてください」


 最初に口を開いたのはサラ姉だった。普段はマイペースで我儘なサラ姉が自分を犠牲にしようとしているのだから、抵抗する手立ては無いという結論に至ったのだろう。

 サラはタケル達の方を向きなおした。


「私は冒険家になりたくて付いて来た訳じゃ無いわ。タケル達は違うでしょう? 私の事は気にしないで、上手くやるわ」


 そう言うサラ姉の顔はとても寂しそうな笑顔をしていた。

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MPを無限に使える俺が世界中を飛び回るトレジャーハンターになる さとり @satorin_

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