第4話⑥:ケジメ
倉庫への強襲前。
ブリキ屋でバージンは、キリサキとグスタフが集まる倉庫について伝えながら、他にも警備体制やシステムの情報を見せた。
「ほぼ、要塞じゃねぇかよ!」
目を通すトウマは顔を顰め、舌を出しながらぼやいた。
「じゃ、諦めて街から逃げる準備をすれば? そっちの方が楽だろうし」
挑発するような視線を向けるバージンに、トウマは忌々しそうに鼻を鳴らす。
「ここまで来て引き下がれるかよ。ライデッカーに誤解されたままなのも勘弁だ。それに……こいつら、マジでムカつくしな」
首謀者のキリサキ、グスタフの両名の画像を睨みつける。
「じゃぁ、攻め込むしかないわね」
「まずは厄介な監視システムを何とかするか。あとは、ゲイリーに暴れてもらえば、大概のことは解決するだろう」
少し離れた所に座るゲイリーへ顔を向けてウィンクすると、彼はしばらくトウマを見てから小さくではあるが凶悪に笑う。
「それで? 何か作戦はあるの?」
バージンの質問にトウマは、ゲイリー、ジェニファーに作戦を話す。
「……これはあいつらから仕掛けてきた喧嘩だ。しっかりケジメを付けさせてやろうぜ!」
そして現在。
倉庫内では、弾丸が飛び交い、ウォータンクが地鳴りのような駆動音をさせながら動き周りゲイリーを砲撃する。
しかし、そのいずれもゲイリーを傷つけることはできない。弾丸は彼の体に触れるとへしゃげて落ち、砲弾は強引に掴まれて逆に投げ返される。デタラメな強さだ。
ゲイリーはニヤリと笑みを浮かべながら相変わらず、手をピストルの形にして撃つマネをしまくる。タイミングばっちりに狙った場所に当たるので楽しくなっているようだ。
手当たり次第に撃ちまくり始める。
『ちょ、ゲイリー! そんなに連続ではさすがに間に合わんて!』
ゲイリーの耳に取り付けた通信機器からトウマの声が聞こえたが、気にすることもなく撃ちまくっていると衝撃を受けて倒れる者の頻度が減っていく。
「あれはノックじゃねぇ。奴の手に合わせて、どっかから狙撃してやがるのか」
様子を見ていたグスタフは先ほど弾いて抉れた地面に目をやり、めり込む弾丸を確認しながら呟く。それにしても完璧なタイミングで全然気付かなかった。
「狙撃されている。弾丸の軌道から場所を特定しろ」
グスタフの指示を受け、ウォータンクが即座に解析。倉庫の天井部分の縁の隅に照準を合わせると、一斉に放射。あっという間に、外が見える程に無残な状態となった。今や動くものは確認できない。
そのウォータンクの射撃に腹を立てたのがゲイリーだった。
怒りマークが見えそうなくらいに怒気をはらんだ眼光で睨みつけると、手を掲げて握りつぶす。タンクの砲台が音を立てて捻じ曲がり、強烈な圧力で押し潰れる。そしてそのまま横滑りして、警備兵もろとも薙ぎ払っていく。
さらに別のタンクに接近し、下から突き上げるような拳を一撃。鉄の塊であるタンクが、宙に舞い、天井に激突して落ちた。
ちょうどタンクの落下先にいたキリサキは腰を抜かし動けない。潰されそうになっている所を、近づいてきたグスタフが振りかぶり、拳を一閃。耳を覆いたくなる衝突音が鳴り響き、宙にあるタンクは大きく折れ曲がって吹き飛んだ。
「期待させてくれるじゃねぇか、帝王さんよ」
巨大な筋肉はさらに膨れ上がりながら、グスタフは歓喜にも似た笑いを漏らす。
助かったことへの安堵からキリサキは、再度通信機器を手に怒鳴る。
「親友とは、何を言ってるんだ? ふざけてる場合じゃねぇんだ。ゲイリー・フォノラズが来てる、さっさと奴を殺せ!」
『だから、親友が【撃つな】って言ってるんだか、仕方ないっしょ。親友の頼みは断れないですよ』
相変わらずの返答に、一体に何を言っているのか、キリサキには理解できない。
「やっぱり、親友の頼みは聞かないとダメじゃないっすか」
システムのコントロールルームでベルボーイは回転椅子の上でクルクル回りながら、ヘッドギアから聞こえる焦りと怒りに満ちたキリサキの声に、呑気に答える。
そして、背後に顔を向けて、そこにいる相手と「ねぇ~」と言い合った。
「そうそう。わたしたちは『しんゆう』なんだから。おねがいを聞いてね!」
ジェニファーがニッコリ微笑んでいる。
「あったり前だろ。僕がお前の頼みを断ったことがあったか? 困ったことがあったら、僕に言えよ。親友」
「ありがとー。やっぱり『しんゆう』はたよりになるなー!」
喜びはしゃぐジェニファーの姿に、彼は少し照れたように笑う。
「……あとね。もう1つ、おねがい聞いてくれる?」
頭を少し傾けて、上目遣いをする所はあざとい。もちろん、ベルボーイが断るわけもない。
「そうこにいる人たち、わたしたちをころそうとしたのよ! 今も、わたしのなかまをころそうとしてる。助けてくれるでしょ?」
「いや、まぁ。防衛システムを起動させて標的を変更すればなんとかなるが……」
さすがにそこまでは、とベルボーイも躊躇う。
「僕も会社に雇われてる身だからさ。社員への攻撃はちょっと」
と言いかけた所で、ジェニファーが彼の手を掴んで懇願する。
「おねがい。だいじな人たちなの。『しんゆう』からのおねがい。聞いてくれるよね?」
じっとりと見つめられたベルボーイは、クラリと目眩がした感覚に陥ったが、すぐに元に戻って頭を振る。
「そうだな。親友の頼みは聞かないと。任せとけって」
ベルボーイは頭へずらしていたヘッドギアをセットし直し、機械と自身を接続した。
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