第3話④:犯人?
ジェニファーの声に、トウマが部屋を出るとエレベーターへとつながる通路から何人もの武装した集団が向かってくる。恰好からしてポリスだが、おそらくはホテル側が金を積んで専用に警備している部隊だろう。街中で見かけるポリスよりも装備が充実しており、小型の無人機動戦車(ウォーマシン)まで数台ある。
部屋の事態に気付いて駆けつけたのだろう。トウマたちも直に追い出される。
と思ったが、彼らは一斉に立ち止まると、銃を向けてきた。
「今回の犯人はお前たちか?」
「え?」
トウマから間抜けな声が出た。
「我らの管轄でこのような事態が発生することは非常に遺憾。何かしらの示しは付けなければいかんだろう」
「いや、ちょっと」
「全員、始末しろ。事実関係はその後、確認する」
隊長格の人物が指示を出す。
ポリスの威信にかけて、何としてでも惨劇の犯人だけでも処理したいのだ。それが、例え冤罪であっても、表向きに発表できるネタが欲しい。不都合は、後でどうにでもできる。
「いや、俺達じゃないですよ。旦那!」
今にも撃ってきそうなポリスに、トウマは声を上げる。
「俺たちも今、来た所ですって」
「ここに来た理由は?」
「護衛の依頼で雇われたんです」
「襲撃が終わった後に、護衛に来たと? もう少しマシな嘘をつけ」
「嘘じゃないですよ。俺たちは何にもしてませんって!」
「追い詰められた犯人は、たいていそう言うもんだ」
「ホントにやってない人だって、そう言うでしょうが!」
トウマが何を言っても取り付く島もない。このまま何もしなければ、撃ち殺されて終わり。ただ反撃してポリスを傷つけようものなら、この件の誤解が解けたとしても別件で追われることになる。極力、トラブルは避けたい。
ただでさえ、デスペレーターのような半分アウトローの職業は弱い立場だ。おまけに代わりは掃いて捨てるほどいる消耗品。相当、有名にでもならなければ、命はそれだけ軽い。
反撃は無理、逃げ道も無い。となれば、ここは交渉で乗り切るしかない。
トウマは軽く唇を湿らせる。
「旦那、ホントに俺たちは依頼を受けてここに来たんです」
「それを信じろと?」
「犯人を見つけます!」
「お前らだろう」
「俺たちが護衛で雇われただけなのは、すぐにバレますよ。それよりも、俺らが犯人を見つけ出して、差し出します。しかるべき場所へ突き出せば、報酬が出るかも……」
「そんなことを言って、お前らがそのまま逃げるかもしれん」
「一緒に行動するにも、人質を取るでも、好きにしてもらって構いません」
「……。もし、本当に犯人が見つかれば、我らに引き渡せ。そうでなければ、お前たちの命で今回の事後処理とする」
「はい、もちろん、それで構いま……あ」
話がまとまりかけている。かなり不利で、理不尽な話だが、時間に猶予があるだけマシだと言える。トウマが内心、胸を撫で下ろしかけた時。
ポリスの側面の壁が勢いよく吹き飛び、爆風のような力で飛び散る瓦礫にポリスも巻き込まれた。
ポッカリと開いた大穴からは瓦礫を踏みしめ、服に付いた汚れをはらいながらゲイリーが現れる。
「ちょ……」
「ちょっと、げいりー! 何してるのよ。いま、とうまが話してたとちゅうなのにっ!」
トウマが言いかけるのを遮るように、隣で驚いていたジェニファーが声を張り上げる。ただ、反応したのは言われた当の本人ではなく、ダメージが抜けきらないポリスの隊長。
「ゲイリー……トウマ……」
名前が相手にバレた。
自分の過ちに気付いたジェニファーは「あっ」と口を抑えながら、バツの悪そうに隣のトウマを見上げる。
トウマとしては泣きたい気分だが、そうも言っていられない。
「お前ら、こんなことして……」
幸いなことにポリスに死者は出てないようだ、呻きながらもノソノソと起き上がろうとしている。復活したら今度こそ戦闘は避けられない。
「ごめん、とうま。わたし……名前言っちゃった」
「いいよ、もう。名前がバレたのは誤差みたいなもんだよ」
謝るジェニファーにカラカラとトウマは笑う。
「こういう時に、取るべき行動は何か知っているか?」
「え? たたかう?」
「ホテルから脱出! 脱兎のごとくな!」
そう言うと、トウマはジェニファーを抱え、踵を返した一目散に通路をエレベーターとは反対側へと爆走する。ポリスはまだ追いかけられるほど回復していない。ゲイリーは彼らの脇をすり抜けながら、ジョギングする感じでトウマの後を付いて行った。
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