第4話

「お腹…空いた」


くぅうぅ~と、私のお腹から音がなった。人間じゃなくなっても、魔力が消費すれば蓄えなければならないらしい。


時刻は夕方。家は木造立ての立派な一軒家が出来た。2階建てで、ベランダもある。2階は寝室で私の部屋と空き部屋が2個。1階はキッチンと、リビング。お風呂場もある。そして空き部屋が1個ある。一人で暮らすにはとても広い物になった。普通、このくらいの広さなら5,6人世帯の物だろう。


そして、今は黄色い妖精が作ってくれた、出来たてのソファーにぐでっと横になりながらお腹の虫を抑えてる。まぁ、食べられないときはあの村の時でもあったから慣れてはいるが、辛い物は辛い。でも、とても怠くて動くのが億劫な感じだ。


「ガウ!」


と、そういえば先程までいなかった熊さんが、何かを腕に抱きながら帰ってきた。見ればびちびちと活きが良い魚だった。


「捕ってきてくれたの?」


聞けば、ガウ!と、自慢気に見える態度で、10匹の魚をべちゃっと台所にあるシンクへ落とした。魚といえば焼くか煮るかだが、今日は塩焼きの気分。


「塩…」


そう。塩が欲しい。だが、今日は何せ新築が完成したばっかりなため、最低限の家具以外は何も無い。焼くだけなら出来るが、美味しくない。せっかくなら美味しく頂きたい。でも、出来ない。


『塩ならあるよ。今日の部品集めで近くの森見て回ったら、キラキラな塊が見えたから採ってきたんだ!』


なんと、黄色の妖精が偶然採っておいてくれたらしい。私は黄色の妖精にお礼を言って、早速調理にかかった。


数分後。


立派な塩焼きが出来上がった。早速頬張れば、ホクホクとして塩の味がしっかり効いて美味しい。妖精は特に食事は必要ないと言うことで、片付けを自らしてくれた。最初は断ったけど、本人達が楽しそうに洗ったり片付けたりしている姿を見て、今は気持ちよく任せている。


熊さんは…。


「ガウッ、ガ、ガ!」


美味しそうに魚を頬張ってる。起用に大きな手を使って、焼きたての魚をどんどん口の中へ入れていく。美味しそうに食べてくれて、作った私としても、とても嬉しい。さて、もう一度食べようとしたところでふと、違和感を感じた。


……そっか、一人じゃない食事、初めてかも。

そう、赤ん坊の頃は分からないが、少なくとも、自分が物心ついた頃には誰もいなかった。寧ろ、食事は邪魔されたり横取りされたりするため、隠れて食べていた。味よりも食べられることが重要で、美味しいなんて感じたことなかった。


でも、今は、隠れて食べなくて良い。奪われるなんて恐れながら早く食べなくて良い。笑いながら食べても良い。


「…美味しい」


品数は少ないけど、でも、料理の内容なんて関係ない。これがカビたパンだとしても、きっとこんな気持ちになっていただろう。


改めて、初めての美味しい食卓を噛みしめて、夜は更けていった。






翌日。いつもの癖で、日が出てくる頃と同時に目が覚めた。気付けば、熊さんのふわふわなお腹の上で寝てしまったらしい。熊さんは、大きないびきをかきながら、一昨日の時と同じ、ボリボリと体を爪でかきながら寝ていた。


私は熊さんを起こさないように、そっとお腹から降り…ずり落ちて離れる。そして、階段を音を立てないように慎重に登る。初めての新築から見える朝焼けが見たくて、2階のベランダに出た。冷たい風が扉を開けた途端、勢いよく吹き抜けて、眠気眼だったのが一気に目が覚めた。そして、ゆっくりと風が緩やかになった頃を見計らって目を開く。


「っわああぁ…!」


森が目を覚ます。


そんな言葉が浮かぶような光景だった。緩やかに朝日が昇り、遠くの山々から光が広がる。そして、その自然の隙間から光が幾筋も照らしていた。まるで、宝石のようだ。


しばし見つめて、そろそろ戻ろうかなっと自然、下に視線を移すと川岸に何か小さい塊が見えた。目を凝らして再度、よく見ると動物が倒れている様子だった。


助けなくちゃ!


何もなければ良いが、警戒心の強い動物があんな目立つ所で寝転ぶなど何かあったに違いない。急いで、静かに階下へ降り、先程見た場所へ走った。



「キツネ…」


そこには小さい狐が転がっていた。右前足を怪我しており、苦しさを耐えるように目を閉じている。応急処置として、手拭いで怪我している場所へあてがい止血する。一先ず、川に体下半分が浸かっていた状態のため、体温が下がっている。一先ず、自分の家に連れて暖めてあげようと再度、そのキツネを連れて家へ引き返した。



「…きゅ?」


応急処置と毛布に包ませて、間もなく。目が覚めたようだ。急いで駆け寄りたいところだが、相手を驚かせないようにじっと様子を動かずに見守った。


「きゅきゅきゅ…?きゅーん」


癒やされる。なんだこの子は。とてもなんだか野生にしては、大人しい子で癒やされる!!


「きゅうぅっ?!」


やっと、こちらに気付いたらしい、狐は驚きの声を上げて咄嗟に身を引こうとした。しかし、怪我はまだ完治してないため、動けずただ固まって鳴き声を発するだけだ。


「大丈夫」


私はなるべく狐と同じ視線になるべくかがんで、目を合わせる。すると、狐は落ち着いてきたようで、警戒しつつも、私の伸ばしていた手のひらへすんすんと、鼻を近づけてきた。


あ、あとちょっとで…


「ガウ?」


「!きゅうぅ!!」


あとちょっとで、というところで大きな熊さんが寝室から出て階段を降りてきた。そして、タイミング悪くはち合わせてしまった。


『おっはよー!』

『て、あら、新しい子がいるわね』


ポポンと、何もない空間から突然妖精2匹が現れた。と、水色の子が早速キツネに気付いて、ふわっとキツネの周りを飛ぶ。


『あら!この子ただのキツネではないわね』


なんと、キツネだと思ったものは違ったらしい。では、何だというのだろう?と、妖精の言葉を待つ。


『尻尾が二つあるわ』


「え」


なんと、尻尾が二つ!そっと狐のお尻を確認すると、確かに今は怯えているため丸まってしまっているが二本あった。


『かなり弱っているけど、魔力も持ってるみたいだね』


「じゃ、この子は…魔物?」


『ううん、この子は知性か高い生き物だから魔獣に当たるね』




この世界には、普通の動物の他、魔力を持つ生き物もいる。


欲望のまま魔力を使って生きてるのが魔物。


知性があって魔力を持っているのが魔獣。


普通の魔獣より、何倍も高い魔力と力を持つのが聖獣。聖獣は、大体各森や自然を守る守護獣とも言われている。


そして、この子はその中の魔獣と呼ばれるものらしい。


『この子、前足を怪我してるのね』


「うん。あの、妖精さんは治せない?」


治癒系の魔法に長けていると言われる妖精。それを思い出してお願いしてみる。痛いのは早く治したいもの。


『ん?それなら、君が治せるはずだよ』


「…は?」


いきなり、変なこと言われた。え?私が治せるって?


「それは、確かに包帯とか巻けるけど…」


でも、すぐに治すことは出来ないよ?と、ふわふわ浮かんでる妖精に伝える。私が行えるのは常識的な治療だけだよ?


『あ、もしかして自覚無い?』


『貴方は治癒の魔法を自分は勿論、相手にも使えるのよ』


………え?何だって?そんなのは知らない。と、首を振って否定していたら、妖精達が『まぁ、何でも百聞は一見にしかず、だね!』と、言って背中を押して狐の前に私を移動させた。


『大丈夫よ。治したい場所をどんな風に治したいかイメージして』


『手を当てれば、自然と魔法が発動するよ!』


期待の眼差しで、両腕に絡まってそうアドバイスしてきた。え、えーい!そう言うならやっちゃうよ?!出来なかったら貴方たちの所為だからね!と、半ばやけになって魔法を放ってみた。


「ガ、ガウ?!」


熊さんの驚きの声を耳にしながら、魔法の結果を見る。


「きゅ…?きゅきゅきゅ!」


そしたら、先程まで立てなかった狐が立ち上がりお礼を言ってるかのように、私の周りをぐるぐると歩き回った。


「…治ったの?」

「きゅ!」


そっと、狐の前足に巻いてある包帯を解き、怪我を確認する。そこには先程まであった痛々しい傷痕は、嘘のように消えていた。


『後…』


と、両腕の妖精がぼそっと声を漏らした。ん?


『私達は“妖精”じゃないわよ?』

「え?」

そう言って、黄色と水色が光り出した。あまりの眩しさに目が眩み、手を覆って目を閉じる。


「ガガガ、ガウッ?!」


熊さんも目がやられたのか、変な声を上げている。そして、光が収まったところで、再度目を開ける。


「…へ?」


『『精霊なの(だよ!)!』』


目の前には、光り輝く女性と男性が立っていた。

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森に捨てられた少女は、獣に愛される @ssk20

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