第3話
もふもふな毛皮にもふられていたら、また寝てしまっていたらしい。どうやら、相当体力が消耗しているようだ。
『きっと、一度肉体が死んだ所為ね』
「死んだ?」
水色の妖精によると、やはり私は死んだらしい。しかし、離れかけた魂を回収し、肉体を再生させて再度、魂を肉体に宿したという。
「…じゃ、今の私は?」
人間なんだろうか?一度、確かに死んでいるなら私は何か違う物になってるのではと、以前と変わりない体を眺めながら推測する。
『えぇ、今の貴方は確かに人間ではないわ』
『アンデットとなるね!飢餓や体が木っ端微塵にされなければ君は死なない体になったんだよ!』
つまり、不老不死…?
その答えにぶるりと寒気が走った。私は本当に世に言う、化け物になったということ…?
『…もしかして人間が良かった?』
黄色の妖精が、不安げな表情で私の顔の辺りに浮かんで、問いてきた。
人間でいる理由…。人間に固執する理由…。
考えてみたが、良いことなど何も思いつかなかった。元々、人間でいても殺されるほど嫌われていたのだ。人間の自分が死んだ今。これは逆に生まれ変わったということで、つまり、自由になったのでは?
「…やっちゃいけないことは?」
『ん?んー?それは、特にないよ。あえて言うなら、犯罪かな』
「じゃあ、森に住んでも?」
『何も問題ないわ。そもそも私達がこうして歓迎しているし。この森には滅多に人間が足を踏み込むことも無い。だから…』
もう、自由なんだよ。
2匹の妖精はそう、言った。
自由。何ににも縛られることなく好きなことしていい、ということ。
『大声で駆け回っても良いし』
『狩りや漁しても良いし』
『果物も木の実も取り放題だよ!』
わー!楽しそー!と、2匹はきゃっきゃっと盛り上がって次から次へと案を口にしては、はしゃいでいる。
私はその2匹の話を聞いて、やりたいことを頭の中で広めていった。
『『さぁ!まずは何がしたい?』』
そのキラキラした眼差しを受けて、私が出た答えは…。
「家、建てたい」
ぽつと、私の体を支えて座らせてくれている熊さんを見つめながら提案する。
そう、この住み家は元々この子の物だ。よそ者が居候して良いわけないし、彼も嫌だろう。何より、一人と一体ではなかなかに狭い場所である。
そう思い、発言すると、熊さんがひょいっと自分の背に私を乗せて、のっそのっそと歩き出した。そのいきなりの行動に驚いて思わずしがみつく。しがみついたのは良いが、何故、熊さんは動き、何をしようとしているのか全く分からない。
『あら、一緒に手伝ってあげるって』
え?この子が?
『うん。森のこと詳しいし、力もあるから任せとけだって』
そう、妖精2匹が通訳してくれた内容に驚いた。え?野生の熊ってそんなにも起用なの?
そう、疑問と困惑に熊さんのことをじっと見つめていると「ガウ!」と、元気な鳴き声が返ってきた。
まぁ、何はともあれ。とてもウキウキする気持ちを感じる。しかし、初めての感情に戸惑った。どうして自分はこんなにも落ち着かないのだろう。胸がざわざわするけど、なんか嫌な感じではない。
これがなんなのか、もしかして生まれ変わって早々に病気になったかと、不安がよぎりつつも目の前のことに思考を向けた。
そして、小鳥のさえずりが聞こえる光差す外へ、熊の背に揺られながら向かったのだ。
わぁあああぁ…!
着いた場所は、日差しを受けてキラキラと輝きを放ってる川が目に付く川原だ。
川の中を覗けば、魚が岩の間を滑るように泳いでる姿が見えた。その、自然の美しさに目が離せなかった。
『ふふ、喜んでくれて何より』
『ここなら君も過ごしやすいところだと思うよ!』
確かに。川に森に命の恵みがそこかしこに溢れている。
では、早速家を造ろうと体に力が入った。
まずは家を建てる場所。なるべく平らな地面を見つけてそこから“なんとなく”、木を伐採し始める。
バキバキと大きな音と土埃が舞う。土埃は“風”を使って自分の所に来ないようにした。家を建てるスペースを確保したところで、残った木の根っこを、土を掘り起こす感じに土を軟らかくしてから抜き取った。うん。これで後は、伐採した木を形変えながら立てていけば良い感じだな。
『………あ、あの、ちょ、ちょっと?』
ん?声掛けられた方へ振り向けば、妖精達と熊が固まっていた。どうしたの?あ、やることが無いから戸惑ってるのかな?と、思い仕事を与える。
「水色さんは、水の確保」
『え?』
「黄色さんは、家に使う部品集め」
『え』
「熊さんは、私と家建てる」
「ガッ…」
よし、役割分担良し。続きしよーと、てってけと山積みになった丸太に近付く。
『『ちょ、ちょっと待って(待った)!!』』
「ガフガフ!」
ん?何か質問が?丸太に近付いていた足を止め、再び彼等と向き合う。どうした。
『そんなに魔力使って大丈夫?!』
「大丈夫」
何も心配いらない。何故、体調を気にしてくれるのか分からないが、こくっと頷いて元気だと水色の妖精に伝える。
『君!土を掘り起こすとか、伐採で一気に木を倒すとか…どうなってるの?!』
よく分からない。どういう意味で質問したのか分からず、首を傾げながら一先ず一言。
「……魔法で、えいって」
自分のイメージを浮かべて力を放っただけだ。しかし、その答えは違ったのか、黄色の妖精は『そんな力が抜けるような簡単に使える魔法じゃないよ!』と、天を仰いでいた。そうですか。でも、出来るし問題も起こってないから問題ないのでは?
「ガウガウ…ガウゥ?」
「熊さん、分かんない」
熊さんは言葉が通じないので論外だ。
どうして、そんなに慌てているのか分からないと思ったが、気付いた。そういえば、村の人も初めて私が魔法を使ったとき、言葉を無くして凝視していた。あの日から私は村の者から見る目が更に変わっていった。
彼等といるのが気分が良くて忘れていた。
そうだ。私はだから、嫌われたのに…。
「ごめんね」
私は、その場から離れた。いては駄目だと。また、あの目を向けられる。せっかく仲良くしてくれてたのに、浮かれた所為でまた一人になってしまった。
『ちょ!違うの!』
『別に僕等は君を疎んだり、嫌いになんかなってないよ!』
と、妖精達が私を引き留めた。え?違うの…?
「力、気持ち悪くない…?」
『驚いただけ!』
『凄くて、貴方のことが心配になったの。力を使いすぎると倒れてしまうから』
もふん
「ガウゥゥ」
気付けば、熊さんに抱き留められていた。更に顎下のふわふわな毛皮を擦りつけてくる。くすぐったい。
じゃぁ…
「…また、居てくれるの?」
『当たり前よ!!』
『言ったでしょ?僕たちは君のことが大好きなんだ!』
一度、失いそうになった物が無くならないと知って、涙が滲んだ。今日は目が潤みやすい。でも、胸がとても温かい。
そして、その日の夕方頃。
より、一層絆を深めた私達は家を完成させた。
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