アプルスの少女そんたく(※題名と本編はユーチューブの動画くらい違う)

ちびまるフォイ

よくわからないことがよくわかる

「お父さん、テレビでやってたんだけど

 "そんたく"ってどういう意味?」


「うーーん。難しい質問だなぁ。

 ちょっと長くなるけどいいかな?」


「うん。いいよ」


おじいさんは孫にわかりやすいようエピソードで話すことにしました。

それは、とある三つ子のお話です。


「ついに親父が死んだか……」

「ククク。やつは家族の中でも最弱……」

「それでは遺産分配としよう」


莫大な遺産を分配することになった三つ子だったが、

回りくどい遺書が見つかってしまいました。


『わしが死んで遺産分配することになったら、

 兄弟で多数決を取って決めることとする。

 多数決で決まらなかったら遺産はすべて寄付。

 

 分配方法は長男から順に決めること。

 多数決で否決となったら提案者はその場で死ね』


遺書を読んだ3人は頭を抱えた。


遺産の分配方法を真っ先に決められる長男はすぐに考えました。


(遺産は全部俺のもの、という分配方法を提案したら

 やっぱり二人が反対するよな……。

 となると、次は次男が分配方法を決めるのか)


このアホ丸出しの考えは三つ子の次男にも筒抜けでした。


(兄さんの考えなんてお見通しだ。

 どうせ独り占めしようと考えているんだろう。

 なにを提案したところで口数減らしに反対してやる)


アンチ長男となった次男の思考は三つ子ネットワークを通じて三男にも伝わりました。

一番焦ったのは三男でした。


(おいおいおい。次男のやつ、必ず反対するつもりか?

 そんなことしたら長男が死んでしまうじゃないか!)


三男の思考を読んだ次男が「だから?」と喧嘩越しに脳内反論します。


(もしも長男が死んだら、次男と三男しか残らない。

 2人で多数決はできないだろ?)


(あっ……)


1:1では「多数」が生まれない。


多数決の決が取れないため遺産はすべて寄付されてしまう。

次男も三男も遺産に手を付けるチャンスはなくなる。


(だから、多数決するためには1人も欠けない状態。

 つまり長男がいるタイミングで多数決を締める必要がある)


三つ子特有の意思疎通で、

三男の思考と次男の葛藤を理解した長男。


「ようし、分配方法を決めたぞ」


満を持して命をかけた多数決を開始します。


「分配方法は、

 長男が90%を受け取り

 次男と三男は5%ずつ分配とする!」


次男と三男は露骨に嫌そうな顔をした。


(くやしい……でもっ……!)


(ここで決まらないと、少しも手に入らないっ……!)


次男と三男はしぶしぶ賛成した。

長男は嬉しそうに手を叩いた。


「満場一致だな! よかったよかった」




と、ひとしきり話したおじいさんは満足げだった。


「これが忖度だよ。わかったかい?」



少女は正直なところまったくわからなかった。


こちらに配慮してエピソード式にしたこともわからないし、

ストーリー仕立てだったことでさらにわかりにくくなり、

結局なにが言いたかったのかもわからないし、

なんで市販のTシャツは意味不明な英語入れたがるのかもわからない。


なにひとつスッキリしなかった。

スッキリした顔をしているのはおじいさんだけだ。


しかし、正直にわからないと答えてしまっては

「可愛くない孫だ」と思われるかもしれない。


今ままでのように優しくしてくれないかもしれない。


何ひとつ理解できなかったが、

孫はにこやかに笑っておじいさんに答えた。



「ありがとうおじいさん。

 そんたくがすっごくよくわかったよ!!」

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