2章 俺の異世界でのパートナーは、可愛いだけじゃなかった。
12 可愛い彼女は、メガネの度が合ってないと思うんだ。
ぼーっとした意識から覚めたきっかけは少女の声だった。
耳奥に何度も繰り返された音がクラウを呼ぶものだと気付いて、ハッと目を見開く。
「魔王様ぁ! 魔王様ぁ!」
声の方角を見ると、白いモヤに黒い人型の輪郭がぼんやりと浮かび上がった。
出発したままの姿勢で俺とクラウは向き合っていたが、クラウは声に振り向いて「リトか?」と呼びかけた。
「はい。魔王様も戻るところだったんですね?」
駆け寄ってきた少女の姿が鮮明になり、俺は思わず「おっ」と喜んでしまう。一言で言って、可愛かったからだ。
彼女は下に縁のあるメガネを掛けていて、小動物のような丸い目で嬉しそうにクラウを見つめている。
俺と同じくらいの歳だろうか。何より、彼女がマーテルと同じ衣装を着ていることに俺は一番衝撃を受けた。
マーテルと対照的な黒髪ロングの童顔は、同じ衣装なのに大分雰囲気が違う。マントを脱いで耳でもつければ、ハイレグというよりは文化祭のバニーガールだ。
ハイレグなんて彼女のイメージとはかけ離れているのに、無理矢理着せられてる感がたまらない。
胸はやっぱり平らだが、これはこれでいいのかもしれないと思ってしまう。
けど、足がパンストじゃなくて黒タイツなのは減点だ。
そして、リトと呼ばれたその少女は俺をチラ見すると、クラウへの表情とは対照的に、
「魔王様って、男が趣味だったんですか?」
「そんなわけないだろ? 彼はミオの友人だそうだよ。まぁ色々あって、特別ね」
「えっ、まさか俺の事?」
何故か俺をハーレムメンバーだと思ったらしい。
俺は慌てて自分の胸をまさぐったが、勿論何も掴むことはできない。
「なぁんだ、びっくりしましたよぉ。胸が大きいなんて変な好みだと思ってたけど、男も好きなのかと思っちゃいました」
大分フレンドリーな部下のようだ。
魔王と言われるからには部下はひれ伏すくらいの威厳を見せているのかと思いきや、そうでもないらしい。
「そういうの、間違わないでくれる? リトはもうおっちょこちょいなんだから」
まぁ、クラウはそういうタイプには見えないけれど。
肩をすくめて照れるリトは可愛いから、そういうキャラだと俺の中で納得しておく。
それよりも、彼女と一緒にモヤから現れた、もう一人の女の方が俺は気になって仕方なかった。
巨乳の女だ。
その胸で男を悩殺……いや
女だ。確かに女だ。それに巨乳という事は、俺と同じ世界の人間。
けど、お世辞にも少女とは言えない。というか、うちの母親と同じぐらいの歳では? と疑ってしまう顔が、クラウにときめいた表情を向けている。
巨乳どころか、巨顔に巨腹に巨尻は、来る前に公園の外ですれ違った御婦人よりも俺の射程から外れている。勿論、美魔女と言われるタイプとも程遠い。
いや。あの御婦人たちに目を留めたクラウなら、もしや
二人が並んだ姿を妄想して、まさかと爆笑しそうになる俺の横で、クラウは苛立った口調でリトを咎めた。
「ところでリト、その後ろに居るのは家畜か何かかい?」
魔王クラウザー!!
爽やかな顔でそんな直球を女性に投げちゃダメだろう?
「何言ってるんですかぁ。魔王様のリクエスト通りの、おっぱいが大きい女性じゃないですかぁ!」
「その方には帰っていただいてね」
リトは「ええええっ」と不満たっぷりの顔で頬を膨らませる。
「そんな! おっぱいぼいーんとしてるじゃないですかぁ。大きいおっぱいに顔を埋めたいって言ってたのは、魔王様ですよ?」
「それは、例えばの話だよ?」
どっちが魔王の本気かは分からないが、見かけによらず大胆発言を飛ばしてくれる。流石、ハーレム作りたいって部下に巨乳を集めさせる野郎だ。
確かに彼女は思う存分顔を埋められる乳の持ち主だけれど、視線を乳から上にスライドさせた瞬間、全てが凍り付く。
このメガネ少女の美的感覚がおかしいことは間違いなさそうだ。
そうじゃなければクラウが嫌いで、嫌がらせをしているようにしか思えない。
強そうな戦士を集めてる訳じゃないんだろう?
下にずり落ちるフレームをクイと上げるリトを、クラウは珍しく魔王らしい表情で睨んだ。
「おっぱいどころか、全部ぼいーんとしてるじゃないか!」
そしてクラウは、その家畜……もとい巨乳の女性の前に立ち、有無を言わさぬ勢いで右手を彼女の額に伸ばした。
「リトに会った時からの事を消失させるよ」
女は驚愕の表情を固めたまま、クラウの手が放った黒い闇に包まれた。公園で襲ってきたカーボが消えた時と同じものに見える。
黒く細い筋を何本も合わせたような、うねうねとした闇。その一本一本に意思があるかのようにバラバラな動きを見せる様は不気味としか言いようがない。
「おい、まさか殺すのか?」
「そんな物騒なことしないよ。記憶を消して元居た世界に送り飛ばすだけだ」
をここへ来る前、記憶を消そうかとクラウに言われたが、この闇に入るのはごめんだ。
少し長い時間をかけて闇に覆われた女の巨体は、マジックでもやったかのように目の前からパッと消え去った。
「あぁ、行っちゃった」
「リト、そんなに急がなくていいんだからね」
不服そうなリトに、クラウは苦笑しつつそう宥めた。
「分かりました。でも、もう一回行ってきまーす」
ふんふーんと何やらリズムを口ずさんで、リトはマントを
リトが俺の居た世界へ消えていこうとするその時、俺の目に灰色の門が飛び込んできた。上部が丸くなっている金属の門で、俺のすぐ後ろで大きく扉を広げていたのだ。
そして、開けっ放しだ。
リトが消えたその場所には、もう俺とクラウ以外誰も居なかった。
門番らしき人物も居ない。
大分、不用心じゃないか。
これのせいで、俺は死にかけたんだぞ?
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