13 二人は魔王の親衛隊だと?
ところで、ここは何処なんだろうか。
異世界へ通じるという門は確かにあるが、他は暗い闇と白いモヤが広がっているだけで、ここが日本だか異世界だか、はたまたどこの部屋の中か外かさえ分からない。
温い風がゆっくりと吹いていて、ある程度の広さがあるだろう予測はつくが、闇に目を凝らしても何も見えなかった。
俺の背の三倍はあるだろう門は、実に不気味だ。
横も幅広く、人間が通るには大きすぎる気がしてならない。
どんな仕掛けになっているかは分からないが、開かれた門の向こうは異世界でも何でもなく、門の手前と同じように闇とモヤが続いているだけなのだ。
強いて言えば、建物を失った敷地に取り残された門のようだ。
「ここはまだ門の手前。今僕たちが立っているこの位置から門を潜ると、僕たちの世界へ行けるんだ。因みにこの場所は『次元の
「そんな大事な門、開けっ放しでいいのか? さっきのカーボはこっから向こうに出ちまったんだろ?」
「いつもはここにティオナっていう門番が居るんだけど、今日は休暇を取って休んでるんだよね」
「は? だから開けっ放しなの? 会社員みたいだな」
「ここの開閉は、僕にもできない特殊な能力が居るんだよ。けど、彼女を休日に出て来させるわけにはいかないでしょ? それに、出入り口は別の場所でも管理してるから大丈夫だよ。さっきも警報が鳴ったからね」
「あぁ、あれって知ってて助けに来てくれたのか」
単にマーテルと交代したわけじゃなかったらしい。
俺は納得して門に背を向けた。
「それにしても、さっきのおばさんはびっくりしたな。あの子可愛いのに、女を見る目がないんだな」
「リトはどうも、おっぱいにばかり捕らわれてしまって、他の所が適当になってるんだよね。けど、彼女は僕の周りじゃとびきり可愛いんだよ。ちょっと抜けてる所があるけど」
巨乳ハーレムを目指すクラウにも、貧乳女子リトの可愛さは分かるらしい。
「彼女じゃ駄目なのか? マーテルさんもだけど、お前の世界の女子はレベル高いと思うぞ?」
「そりゃあ、彼女たちの顔や中身に不服はないよ。けど、ユースケだって胸がある女性に魅力を感じるだろ? 僕は自分に素直に生きたいんだ」
「ま、まぁ。あるに越したことはないけど……」
「あの二人はお前の部下なのか?」
「マーテルとリトは、僕の親衛隊だ」
「えっ……親衛隊?」
「うん」
にっこり笑顔で肯定された。
(何だその、オタク用語みたいなのは!)
俺の頭にまず浮かんだのは、ハチマキを巻いてカラフルなはっぴを着た、アイドル親衛隊の
顔と権力で黙っていても女が寄ってきそうなこの魔王様は、自分の親衛隊にあんなハイレグを着せているというのか。
とんだスケベ野郎だ。
「そんなの現実に居るんだな? 巨乳を探させるだなんて、雑用係みたいなもんなのか?」
「一応、僕の護衛って役目になってるんだけどね。今は平和だから、そういう状況になる事なんて殆どないけど。あの二人は怒らせると怖いから、ユースケも城に乗り込む時には気を付けてね」
「そうか、わかった」
流れのままに頷いてみたが、俺は美緒に会うために城に乗り込むことになるのだろうか。
お姫様を助ける勇者という設定といえばカッコいいが、できればもう少し穏便に済ませたい。
ところで、マーテルさんといえば。
「お前、マーテルさんと交代で俺の世界に巨乳ハーレムのメンバーを探しに来たんだろ? まだ見つけてないんじゃないのか?」
「今日はユースケをメルの所に送ったら、一度城に戻ることにするよ。リトが行ってくれてるし、親衛隊はもう一人いて、彼も動いてくれてるから」
「彼? 親衛隊に男もいるのか? まさか同じ服着せてるんじゃ」
「そんなわけないだろ?」
言葉の途中で、ばっさりと否定されてしまった。
だよな、食い込んだ男の股になんか、好奇心すら沸かない。
けど男が居ると聞いて、俺はへぇと思う反面、何だか惜しい気がしてならなかった。
ハーレムの巨乳女子と、親衛隊の貧乳女子が一緒に過ごす空間は、天国以外の何物でもないだろう。
妄想しただけで鼻血が出そうなのに、そこに異物が混ざるなんて。
「じゃあ、ユースケ。ここでお別れだ」
門を見上げてクラウが右手を大きく振ると、金属のアーチがぼんやり白く光り出した。
クリスマスのイルミネーションより、もう少し
「美緒の事頼んだぞ?」
なるべく美緒には近付くなよ? 触るなよ? 胸に顔なんてぜってぇ
「あぁ。ユースケはこの門を潜るのが初めてだから、恐らく意識を保てなくなるはずだ。けど、メルが君の事を引き継いでくれるから、後は彼女に色々聞けば良いよ」
「メルって子は向こうに着くと居るって事か。てっきり俺が会いに行くんだと思ってたわ」
「そんな面倒な心配はさせないよ。メルは世話好きだし可愛いし強いから、ユースケみたいな初心者にはオススメだよ。理性がなくなっちゃうかもしれないから気を付けて」
世話好きで理性がなくなる程可愛いだなんて言われて、俺はどうすればいいんだろう。
メイド服の異国少女があれこれと頭によぎって、俺は慌てて自分の頬を両手でパチリと打ち付けた。
「ふぅ。よし、分かった。色々とありがとな」
「こちらこそ」と、クラウは左手のコーラを見せる。
ゆっくりと門に向いて、俺は大きく深呼吸した。庭からここへ来た時は、クラウの光で勝手に連れて来られたが、自分の足でここを潜らねばならないと言うだけで、とんだ試練に思えてしまう。
「僕の城に来れたら、歓迎してあげるから」
「あぁ。絶対に行ってやるから、待ってろよ?」
そのための第一歩は、俺には少し重く感じた。
けれどクラウにまた会えるまでに俺はきっとこの瞬間の事を何度も思い出して、怯えた自分を笑うんだろう。
「行くぞ」
意を決して俺は門の奥へと飛び込んだ。
暗闇を3歩走っただけで気を失ったけれど、次の瞬間に俺は白いベッドの中で目を開いたのだ。
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