先日助けたクラスの美少女が、あの日以来SNSで俺の話ばかりするようになりました
とによ
先日助けたクラスの美少女が、SNSでぼっちの俺の事ばかりつぶやいてきます
休み時間。
つまらない授業から一時的に開放されて、自由に羽を伸ばせる時間。
多くの生徒たちがこの時間のことを「好き」と声高々に言うのだろう。
しかし、ぼっちの俺にとってはそうでもない。
むしろ、手持ち無沙汰で何していいかわからず、暇を持て余すのが大半だ。
だから俺は休み時間が嫌い……だった。
今ではそうでもない。
俺はスマホを取り出し「トリッター」という文字が書かれた、青い鳥のマークが目印のアプリを開く。
このトリッターとは「自由に好きな事を文字にしてつぶやいたり、他人のつぶやきを見たり、反応出来たりする」というアプリで、いわゆるSNSの一種だ。
最近はそこに投稿されたつぶやきを見たりして暇を潰している。
その時、ピコンという音がなる。
誰かがつぶやいたため、通知が鳴ったようだ。
まあ、あの人だろうな。
そう俺は推測しながら、とある人のつぶやきを覗く。
『あ~! 今日もSNS君かっこいいです……。さすが王子様って感じです!』
『気だるそうに頬杖をついて携帯を見つめるその横顔も凛々しくて素敵……』
『きゃー! 寝癖! 寝癖ついてます~! 可愛い~』
そのつぶやきを見て、思わず頭を確認してしまう。
うわ、まじだ。
寝癖っぽいなこれは。朝ちゃんと確認すれば良かった。
恥ずかしさに顔を熱くした俺は、逆立った髪の毛を抑えつつスマホに目を落とす。
画面には『あー、寝癖に気づいたみたい! ちょっと顔を赤らめてるのほんっと愛らしい……最高(泣)』とまた新たなつぶやきが流れてきたのが見えた。
そう、この甘ったるいつぶやきは、SNS君こと
つまり俺のことについてつぶやいているのだ。
そして世界広しといえど、こんな俺についてのつぶやきをする酔狂なやつは一人しか思いつかない。
俺はぐるりと首を回し、その酔狂なやつへと顔を向ける。
「――っ!!」
そいつは俺と目が合うと、その大きく透き通った瞳をまんまるに見開く。
そして次の瞬間には、彼女は薄く茶色がかった綺麗なロングヘアーをひるがえして、ぷいっと顔を背けてしまう。
しかし、その髪からちょこんと出ている耳はゆでダコのように真っ赤に染まっていて、照れているのは一目瞭然だった。
彼女はメガネをカタカタと揺らしながら、携帯に勢いよく文字を打ち込み、そしてピタリと止まる。
それと同時にピコンと俺の携帯が鳴ったので、早速トリッターを覗いてみると、
『うわあああああああ! い、今SNS君と、め、目が合っちゃったぁぁぁぁぁ!! ど、どうしよ。心臓やばいです。わ、私、もう死んでもいい……』
そこには限界化したアイドルオタクみたいな文章がつぶやかれていた。
そう、このつぶやきの主こそ、さきほど目があった彼女――
俺は彼女のつぶやきに対して、コメントを残そうとスマホに文字を打ち込む。
『落ち着け死ぬな』
『あ、顔面偏差値5000兆さんおはようございます! 大丈夫です! 私2つの心臓(ハート)があるので!』
顔面偏差値5000兆というのは俺のトリッターでのハンドルネームだ。
ちなみに彼女は俺が顔面偏差値5000兆だという事は知らない。
とある理由でバラすつもりもない。
彼女のコメントに対し俺は『バケモンかよ』と返す、すると『心臓と乙女心の2つですよ!』と返ってきた。
やかましいわ。誰が大喜利をしろと。
俺はそのジョークを無視し、コメントを返す。
『というか、さっきSNS君と目があったんだって? 「どうしたの?」って話しかけてみたらどうだ?』
『む、無理無理無理無理カタツムリです!! 恥ずかしくて出来ませんよぅ……』
その返信を見て俺はため息を吐く。
結局今日も進展なしなのだろうか……。
――チャンスだと思ったのになぁ。
そんな事を考えていると、ふと彼女に出会い、そして惚れられてしまった夜のことを思い出してしまうのだった。
◆
「その子から離れろっ!!」
とある日の夜。
俺は路地裏に向かって声を荒げていた。
その路地裏には無精髭のいかつい男と、その後ろには衣服が乱れている女の子の姿が。
男はその女の子の服を掴んでおり、乱れているのは彼のせいだろう。
俺はスマホの画面、具体的にはトリッターのつぶやく手前の画面を男に見せつける。
「もう一度言うぞ? この『つぶやく』のボタンを押したら、お前が今彼女に暴行していた動画が全世界に流れる事になる。お前は特定されて、人生終了だろうな」
スマホの画面には二人が揉めあっている動画が映し出されていた。
男はゴクッと喉を鳴らして、息を飲む。
「わかったらさっさと消えろ。10、9、8、7――」
カウントダウンが終わらない内に男は彼女から手を離し、逃げるように路地裏の奥へと消えていった。
ほっと一息つくと、俺は未だ呆然としている女の子の元へと駆け寄っていく。
「大丈夫か?」
「あ、は、はいぃぃ……。な、なんとか……」
「ん。怪我はなさそうだな。ほら、掴め」
差し出した俺の手に対し、彼女は「あ、ありがとうございます」と握って立ち上がる。
「こんな夜中に女子一人で出歩くもんじゃないぞ。最後まで送っていくから。家どこだ?」
「い、いえいえ、そんなっ……もう近いですし一人で帰れます」
「あのなぁ……さっきあんだけ危ない目に遭っておいて、次またあの男みたいなやつが襲ってきたらどうするんだ?」
「あ、あう……。そ、そうですね、すみません。じゃ、じゃあ只野くんに甘えてもいいですか……?」
「おう。こっちは最初っからそのつもり……って、なんで俺の名前を知ってるんだ?」
「あ、わっ、私。遥です。同じクラスの音無遥です」
俺は目を凝らして、彼女を見つめる。
綺麗でつぶらなタレ目に、すっと筋が通った鼻、バラのような唇。
ああ、その美貌はまさしく音無遥そのものじゃないか。暗くてわからなかった。
「あー、スマン。気づかなかった」
「べ、別に大丈夫です。わ、私地味で暗くて目立たないですし……」
嘘だ、と俺は思う。
彼女自身がどう思っているかはさておき、それは間違った認識にほかならない。
彼女はクラスでも一目置かれている美少女なのだ。
確かにクラスで誰かと仲良くしている姿は見たことはないが、クラスの男子は密かに狙っている奴も多いと聞く。
本当に目立たないというのは、俺みたいな噂にも上げられないボッチの事なのだ。
ん、あれ、なんだか視界がにじんできたなあ……。
そんな俺の悲しみなど知る由もなく、彼女は「こっちです」といって家まで案内してくれる。
「しかしよく俺の名前なんか覚えてたな」
「え、えへへ。いや、なんといいますか。記憶力には自信がありますゆえ……」
そういえば、音無さんは入学してからずっと成績トップだったような。
まさかこんな冴えない男子の名前すら覚えているなんて。凄いな。
しかし、会話はそれっきりだった。
お互い話下手だし、ほぼ初対面だしなにも話題もクソもないからだろう。
微妙な気まずさを漂わせながら閑散とした住宅街を数分ほど歩くと、「あ、ここです」と彼女は小綺麗なマンションの前に立ち止まった。
「ほ、本当にありがとうございました……よ、よろしければお礼もしたいので寄っていきませんか……?」
「いや、俺もいい加減家に帰らないとまずいから遠慮しておくよ」
「……そうですか」
「ん? どうした」
「い、いえ。なんだかこのままお世話になりっぱなしなのも悪いなー……って」
「んだよ。そんなことか」
「だ、だって気になっちゃいますもん……何かお願いしたいこととかないんですか……?」
俺はうーんと腕を組んで、考える。
「じゃあさ、一つだけいいか?」
「は、はい。なんでもいくらでも……」
「手、出してくれ」
「ど、どうぞ。煮るなり焼くなり触るなり舐めるなり……お、お好きなように……」
「何の覚悟してんだよ……そうじゃなくて、ほれ」
「ひゃっ――って、これは……?」
俺は音無さんの小指をとって、自分の小指と絡ませる。
いわゆる「指切り」というやつだ。
「俺からのお願い事はこうだ。『今後、可愛い女子が一人で夜遅くに出歩くな』、以上」
「え、ええっ!? か、可愛いだなんて――じゃなくて、そ、そのお願いは意味合いがちょっと違うというかなんというか」
「うるさい。はい! ゆーびーきーりーげーんまーん」
そういってお決まりの文言を唱えて指をきりをする。
そうして文言を言い終えると、俺は指を離す。
これでお願いごとはおしまいだ。
「……」
しかし、音無さんはなんだか口を尖らして不満顔。
小指をおさえて何やらもじもじしている。
「ど、どうした? 嫌だったか?」
「ずるいです……かっこいい上に、優しくて……そんなの……」
ボソボソとなにかをつぶやく彼女。
「すまん聞こえんかった。もう少し大きく言ってくれ。俺まずいことしちゃったか?」
「べ、別になんでもありません! まずいことなんて何もありませんし、そのお願いもきちんと守ります!」
「ん、それは良かった」
俺はその言葉に安心して、思わず顔が緩んでしまう。
「――っ! え、笑顔も……素敵だなんて……うう」
「どうした胸を抑えだして、苦しいのか? 大丈夫か?」
「だ、大丈夫です大丈夫です! い、今は近寄らないでください……!」
音無さんは両手を突き出して、俺を拒んでくる。
その顔は真っ赤に染まっていて、本当に大丈夫なのか心配だが……。
彼女は何度か深呼吸をした後、こちらに向き直ると深く礼をしてきた。
「と、とにかく、本日は本当にありがとうございました……」
「いいっていいって。なんかよくわからんけど、あまり無理すんなよ。じゃあ、俺急いで帰るから。また学校でな」
そういって俺は最後に社交辞令を付け加えて、彼女に別れを告げる。
もう関わる事なんてないだろうけど。一応な。
少し彼女の家から遠ざかった所でふと後ろを振り向くと、そこにはいまだに音無さんが俺を見つめるように立っていた。
家に帰宅すると、俺は早速トリッターを開く。
へー、あいつ今こんな事してるのかーとか。
うわ。この新商品うまそうだなとか、色々なつぶやきを眺めて時間を潰していると、とあるつぶやきが目に入ってきた。
割と多くの人がこのつぶやきに反応しており、話題になっているようだった。
『【注意喚起】さっき路地裏で倒れてるおじさんがいて。どうしたんだろうと駆け寄ってみたら、急に起き上がって押し倒されそうになりました。皆さんも気をつけてください』
「へぇ~、いや怖いもんだな。しかもこれ俺の高校の人じゃねえか」
つぶやいているアカウントのプロフィールを見ると、うちの高校の制服がアイコンの画像に使われていた。
ハンドルネームは『No_Sound♪』か……、まさかな。
俺はふとある考えに辿りつくが、ぶんぶんと頭を振って考えなおす。
このアカウントが音無さんのものだなんて、まだ決めつけてしまってはいけない。
もう少し情報を集めなければ。
俺はつぶやきに戻って、それに対するコメントなどを漁ってみることに。
すると『それは怖いですね……No_Sound♪さんは大丈夫だったんですか?』というコメントに対して、
『はい! 白馬の王子様がやってきたので大丈夫でした!』
と元気よく答えているのが確認出来た。
白馬の王子様というワードに思わず身震いしてしまう。
もしこれが俺の事なんだとしたら、彼女にはそう見えていたってことか……。
嬉しいような恥ずかしいような。
なんともいえない気持ちだ。
『FF外から失礼します。その白馬の王子様はどんな外見の人でしたか?』
もう少し確信を得たい俺は白馬の王子様のコメントに対して、自分から質問を投げてみた。
するとものの数十秒ほどで返信が返ってくる。
『え~っと、前髪がちょっと長めなんですけど、目がギラリと鋭くて鷹の目みたいなんです! でも、笑うと目が細くなって、キツめの雰囲気がなくってすっごく可愛いんです!!!』
俺はその返信にゴン、と机に頭をぶつける。
か、かかか可愛いだって? 笑顔が?
人生で初めて言われたぞそんな事。
顔が熱くなるのを感じる。
俺は気を取り直し、念のためもう一つ質問を投げてみることにした。
『そうなんですね。ちなみにどんな感じで助けてもらったんですか?』
『なんか携帯をみせて叫んでましたね。カウントダウンとかしてたかも? そしたら暴漢の人はすっ飛んで逃げていきましたね~』
チェックメイト。
そんな声がどこかから聞こえてきたような気がした。
これは……これは間違いなくさっきのことで、そして白馬の王子様は俺の事だ。
まじかよ。俺、バズつぶやきの当事者じゃん。あは、あはは。
世間の狭さに思わず笑ってしまっていると、ピコンピコンと通知が連続して鳴り響く。
『白馬の王子様って実在するんだなあって初めて知った日でした! すっごくカッコよかったんですよ! 今でも胸がドキッとします』
『あと少し変なんですよね。胸のドキドキが止まらないというか、興奮冷めやらないというか。ポカポカしてむず痒いです』
『私、もしかして、初めて恋しちゃったのかも……』
画面には音無さんが連続してつぶやいているのが見えた。
そのつぶやきにもう周りのみんなもお祭り状態。
『青春だあああ』『それなんてエロゲ?』『男爆発しろ』『告白しちゃいなよ~』『嘘松』などなど勝手なコメントが波のように押し寄せる。
俺はそのつぶやきに対し、ぞくぞくと身震いをしていた。
おいおいおい、まじかよ。
あの音無遥が俺の事を好きになってくれた?
俺は拳を握りしめて、それを天高くかかげて喜びに酔いしれる。
「ついに俺にも春がきたんだあああああああ」
◆
「そう、思ってたのになぁ……」
回想から戻った俺は、音無さんの『恥ずかしくて無理』というコメントに対し、返信する。
『いつもそうやって見てるだけだけど、アタックしなくていいの?』
『いやあ、なんといかもう見てるだけで十分というか……。勇気も話題もないですし、このままでいいかなって』
俺はそのコメントを見て、深くため息をつく。
トリッター上では音無さんが『ああ、何か物憂げな表情。どうしたんでしょう? でも、その表情も素敵……』などとつぶやいていた。
いや、君のせいだからね。
あの後何かを期待していた俺だったが、彼女が予想を遥かに超えるほどの奥手でコミュ障だった事が判明してしまった。
そのせいで俺たちの関係は何一つ一歩も進んでいないのである。
『もったいないと思うけどなあ……。それにその男の子からは何か話しかけられないの?』
もちろん俺もただ黙って見ているわけもなく、何度も自分からアタックしようと試みたが、
『え、えーっと。何回か話しかけてきたのかなって事はあったんですけど……。パニックになっちゃって、逃げちゃうんですよねぇ……
という感じで毎回逃げられてしまうのだ。
ちなみに別のアカウントを使ってトリッター上でもなんとか接触を試みようとしたが、最終的にブロックされた。SNSでも押しすぎるのはダメみたいです。
『そんな事言って、一度きりの青春を無駄にしていいの? 好きじゃないの?』
『好きですよ! もう彼の事を考えてるだけで一日が過ぎていきますし、色々と妄想するだけで幸せな気持ちになりますし!』
「ゲホッゲホッ!」
こちらから聞いておいてなんだが、あまりのストレートな好意に思わず咳き込んでしまった。
一方でトリッター上で『あ、SNS君咳してます……。だ、大丈夫かなあ……』と彼女のつぶやきがのんきに更新されていた。
リアルでもこれくらい自分の意志を表示してくれたら楽なんだけどなぁ。
まあ、こういうやり取りも嫌いじゃないんだけども。
『じゃあ、絶対行動した方がいいって。気持ちを伝えないと後悔するよ!』
そう俺がコメントを返すと、今度はリアルの彼女も頭を抱え始めた。
ほんと反応がいちいち可愛いな。
『う、ううう~。わかってるんです……。でも振られたらどうしようって考えると怖くて……』
『別にいきなり告白じゃなくてもいいでしょ!? 何か話しかけなよ!』
『で、でも、なんて話しかければいいかわからないですよ! もし変なこといって引かれたり、あまり会話が盛り上がらなくて「つまんねーやつ」なんて思われたくないですもん!!』
『大丈夫だから! そんな事思わないから!』
『顔面偏差値5000兆さんに彼の何がわかるんですか!』
『わかるよ!! なんかその彼、俺と似てる気がするし!!』
だって俺だもん!
しかし、話題か……。何かないかな。
俺は顎に手をやり、考えること数瞬。
ピカンと頭の上に電球が光ったような錯覚を覚えた。
『そうだ。なんか彼、咳こんでるんだって? じゃあ、なんか飲み物持ってってあげなよ』
『ええっ!? で、でも私の飲みかけのジュースしかないですよ!?』
『なんでもいいから!! そういう気遣いの出来る子は絶対男子から好かれるよ!』
『そ、そうなんですか?』
『マジマジ! 俺も今の嫁と結婚したキッカケが飲み物をもらった事だからね!』
大嘘だ。
結婚どころか、彼女すらいない。いない歴イコール実年齢だ。
というかめんどくさい設定が一つ出来てしまったが、この際致し方ないだろう。
『け、けけけ結婚!? うう、わかりました……、頑張ってみます……』
そうコメントが返ってきたかと思うと、ガタッと椅子の引く音が音無さんの方から聞こえてくる。
チラリと音の方を見ると、ペットボトルを持った彼女が蒸気でも出るかという位に顔を赤くして、ぎこちない動きでこちらに迫ってきていた。
足と手が一緒に出てしまっていて、ぎこちなさも相まってまるでロボットのようだ。
クラスメイトも何事かという目線で彼女の行く末を見守っていた。
頑張れ音無さん……もう少し……。
あああ、ペットボトル落としちゃった……!
でも、近くにいた女子が拾ってくれた。ナイスだ、そこの女子!
「ああああああのぉ……」
なんやかんや俺の席までたどり着いた音無さんは、うつむきながら体を震わせて俺に話しかけてきた。
ペットボトルを掴むその手は力が入りすぎて、若干ペットボトルがへこんでしまっている。
だが、今そんな事はどうでもいい。
大切なのは、こうして彼女が勇気を振りぼってきてくれた事なのだから。
俺はわざとらしく「何?」と音無さんの方を向く。
「よ、よかったら……これ……SNSで……結婚……」
音無さんはへこんだペットボトルをずいっと俺の方に差し出す。
いや、口下手すぎるだろ。
俺じゃなかったら意味わからんわ。
事情を知っている俺は「くれるの?」と尋ねると、彼女は体を壊れたおもちゃのようにコクコクと何度も頷く。
俺はありがとうと言って、彼女の差し出してくれたペットボトルを受け取った。
その瞬間、彼女はパァァァっという効果音が聞こえるかのような笑顔になり、
「――っ!」
俺は思わず見とれてしまった。
うっすら涙を浮かべた目尻が嬉しそうに持ち上がって細目になり、それにつられて口角も上がって出来たえくぼが眩しい。
まさに満面の笑み。
花が咲いたという言葉がふさわしかった。
それくらい彼女の笑顔は苛烈に、それでいて可憐に。
死ぬほど可愛かった。
その笑顔に俺やクラスメイトが呆然としているのよそに、彼女はぴゅーっと自分の席に逃げるように返っていき、再度スマホをいじり始める。
ピコンという音に我に返る。
スマホを見ると『わ、わたせましたぁ!!』というコメントが来ていた。
だが俺はそれどころじゃなかった。
心臓の高鳴りが収まらない。
何が「笑顔が可愛い」だよ。
お前の方がよっぽど可愛いだろうが。
そして俺は改めて決意を胸にする。
――絶対お前と、音無遥と付き合ってやる。
さあ、これから楽しくなりそうだ。
待ってろ、音無遥! お前のそのコミュ障叩き直して、絶対告白してやる!
――ピコン
なんて意気込んでいると、それに水を刺すように通知音がなった。
なんだよ人がせっかくいい所なのに、とスマホを見ると、
『SNS君、私があげたジュース飲んでくれません……。や、やっぱりキモいと思われちゃったんでしょうか……』
とコメントが。
バッと音無さんの方へと顔を向けると、彼女はこちらを泣きそうな顔でこちらをチラチラと見ていた。
え? マジ? だってこれ飲みかけなんでしょ。
そ、それって、か、関節キス。
……いや、覚悟を決めろ。
今から間接キスなんかで動揺してどうすんだ!
意を決した俺はペットボトルを掴む。
そして蓋をあけて一気に中身を飲み干した。
「甘……」
俺は甘すぎる桃の後味に顔をしかめながらも、かすかに香るレモンの風味に心拍数を早めてしまうのだった。
————————
【あとがき】
「続きが読みたい!」「音無さんよく頑張った!」と思った方は、
★★★で称えて頂いたり、フォローや応援コメントを残して貰えると嬉しいです。
よろしくお願いいたします。
先日助けたクラスの美少女が、あの日以来SNSで俺の話ばかりするようになりました とによ @ganmen
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