第34話 エピローグ

 統一歴 二千二百九年 神無月七日 転移 百九十九日目 尾張



 桶狭間山から誠たちを迎撃に向かった今川兵一万を武装解除させ捕縛した後信長は、義元左文字を接収して清州に運び込み修復作業を開始した。

 更に捕縛した今川軍将兵を開放する条件交渉の為、筆頭家老の林秀貞に今川方の松井宗信を証人として付け優一の指揮する巡洋艦浅間で駿河に派遣。

 かなり強気な条件で交渉を進めている。


 信長が強気になるのも当たり前で、国主である義元をはじめ大黒柱であった太原雪斎など捕縛された生き残りには今川家の重要人物が多いため、彼らなくしては領国経営に支障をきたすのは明白であり、かなり無茶な条件を突きつけても飲まざるを得ない現実がある。


 義元が囚われたことで鷲津砦を攻めていた朝比奈泰朝は降伏した後捕縛され、沓掛城主近藤景春も降伏したが、信長に裏切りを咎められ嫡男と共に切腹を申し付けられ一族は追放。

 鳴海城主岡部元信も降伏した後捕縛され、同じく大高城主朝比奈輝勝も降伏後捕縛され交渉材料にされることになった。

 三河との国境はこうして信秀他界前に戻すことが出来た。



 ただ一人丸根砦を攻めていた松平元康だけは譜代の家臣達と共に岡崎に逃げ戻り、何やら策動している様子であるとか。


 美濃との同盟が盤石である以上黄泉と戦う力をつけるには織田家は東に攻めるべきであり、穂村と信長と義龍に加えて学園の生徒会女子役員による統治体制を築いた後は美濃、尾張を中心に少なくとも伊勢、伊賀、三河、遠江までは安定した統治で領国を運営できなければ黄泉の勢力を押し戻せないというのが学園首脳部と信長の見立てである。


 それ故元康が三河で独立するというのなら尾張と遠江の両側から攻められることになる。

 ただ元康はそのことを知り得る術などなく、父祖伝来の三河を独立させようとする可能性はあるだろう。


 外交を含め今後の方針は近い内に話し合うことになるだろう。

 荒武者を使って消耗した義元の回復を待ってからになるだろうが……



 一方穂村は荒武者を使った後なのにまるで体に負担はないようで、卜伝指導の下勁術の鍛錬を続け、魔力を使いこなすための基礎訓練と武術の修練に明け暮れている。

 内勁だけでなく外勁も使える穂村はこの世界ではかなり貴重な人材なので、教導役である卜伝も言継も妥協なく基礎を叩きこんでいる。


 まだまだ成長の余地があると二人は思っているが現時点で最上大業物を使った義元に抵抗すら許さず完勝してしまえるのだから、末恐ろしい才覚の持ち主であるというのが二人の共通した認識である。


 武蔵総合学園の在り方も転移してからの二百日弱で大いに変わり、転移当初に起きた友貞との騒動で戦って生き残るしかないと学園関係者の多くは腹を決めたが、その後生活のめどが立ちこの世界の常識を知ることで、大半の者がこの世界に適応しようとしている。


 具体的には男女間の生徒あるいは教師と生徒もしくは教職員同士、今の所少数ではあるがこの世界の者と夫婦としてやっていきたいので学園内の共同生活から出て収入を得るため織田家に仕官したい者達がかなりの数として出てきたのだ。


 学園において産業や技術開発、農地経営や海軍や水産業に関わる者達のなかにも今までの共同生活から変化を望む声が強くあり、全校集会を開いて今後の方針を話し合ったところ、学園の施設や技術などの知識ごと織田家に統合してほしいという結論に至った。


 織田家の当主は信長であり、尾張は弾正忠家が実効支配しているが、学園が織田家に溶け込むなら実質的トップは穂村になり、彼の妻たちが今後美濃と尾張を差配することを分かった上で、不自由な共同生活からの変化を望むものが大半であった。


 学園城塞は今後も元の世界にあった物をこちらに適応した形で再現する技術開発を行う拠点とする為、尾張領内でも最重要拠点となる。

 海軍を指揮をする優一と、海賊衆の取りまとめをする信勝以外に城塞の指揮や統治の為学園城主として誠を配置することになるだろう、信広を妻として……


 それらは今の所決定ではないが近い内に決定されるであろうと誰もが思っている。


 そして長島城主服部友貞は桶狭間における今川の動向を知らせた功績により、穂村から褒美として印の結び方を教えてもらい秘名を得た。

 勿論これは一向宗に対し秘密のままでの褒美である

 以前より倍以上強くなったことに喜んだ友貞は今後も穂村の手足となって働くことを改めて誓った。



 統一歴 二千二百九年 神無月十日 転移 二百二日目 尾張 学園城塞 普通科第一校庭



「え~、これより我が武蔵総合学園は織田家と組織を統合し、秋津に覇業を打ち立て、その後黄泉の軍勢を駆逐することに全力を尽くす方向で活動していきたいと思います。皆さん生きて元の世界へ帰ることはできないかもしれませんが、この世界で精一杯生き抜こうではないですか!」

 学園代表として穂村が今後の展望を学園の全関係者に語る。


 校庭に集まった学園の全関係者が拍手と歓声で応じる。


「では、織田家当主織田信長殿と、美濃斎藤家次期当主斎藤義龍殿よりお言葉を賜りたいと思います」

 穂村は紹介を入れると、拡声の外勁を施したマイクを信長に渡す。


 まず信長が

「此度の今川の侵攻も、尾張統一もお主等学園の者達の力抜きでは成しえたとしても何年もかかる大業であった。改めて礼を申す」

 そういって信長は軽く頭を下げる。

「そして今後は我が家臣として我と夫穂村、我が一族を支え覇業の助けを命じる。よろしくな」

 そういって笑顔でマイクを義龍に渡し演壇を降りる。


 次に義龍が

「我が国美濃は母道三の国盗りに対する不満を持つ者も未だ多く、内情は安定しているとは言えませぬ」

 悲しげにそう前置きした後。

「ですが皆様の助けがあればきっと盤石な領国経営が出来るようになります。お力添えのほどよろしくお願いいたします」

 と宣言するのだった。

 義龍はマイクを穂村に渡すと演壇から降りる。


 それを確認して穂村が、

「これより尾張織田弾正忠家と美濃斎藤家と我等学園は共に歩むものとし、数年以内に統一した組織として再編成を行います。出世や待遇は功績次第なので生き延びて共に繁栄を謳歌しよう!」

 穂村がそう宣言すると学園関係者達が歓声で応える。


 好むと好まざるとに関わらず、自分達はこの世界で生きていくしかないと割り切り、開き直った者達ゆえの歓声である。


 まだ割り切れぬ者もいるが、現実を否定しても生きている以上生活していかなければならない。

 ならば楽しく生きた方が良い、そう割り切れた者が多いのは転移して以降達観した言動で若者たちを支え続けた学園長の影響が多分にあるのかもしれない。


 だが結局彼らの大半は自分で生きる道を選び進み始めた。

 そうせざるを得なかったという面はあるがそうしたのだ。


 今出来ることを一つ一つやっていく、それを選んだ者達だけが前に進むことが出来る。

 少なくともそれを選んだ者達に今、後悔はない。


 そう、だから……


 演壇を降りた穂村の元へ彼女達が集い、

「ほっくん」

「ほむほむ」

「穂村さん」

「ほむらくん」

「ほむら」

「穂村」

「穂村様」


「「「「「「「幾久しく」」」」」」」

 永久の愛を誓う彼女達の幸せそうな表情に後悔はない。


 例えこの先どのような嵐が、どのような波乱が待ち受けようとも彼女達は信じた道を貫くのだろう。

 そして穂村はそんな彼女達と共に歩み、時に守り、慈しむことを改めて決意するのであった。




 ――第一部 完――


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異世界美将女群雄伝 不知火読人 @Yomihito_Shirazu

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