海中夢
ミスターN
海中夢
砂地に足を埋める感覚だけが私を現実に繋ぎとめる。砂の中には貝殻と星の欠片が混ざっていて足の裏が少し切れてしまった。
「今日は何曜日だっけ?」
きっと今日は月曜日だ。だって、足に当たる波が冷たいから。
空を見上げると曇天。今日はいい天気だ。遠くで雷が落ちれば尚良い。
日差しが眩しくなくて目蓋が重くなる。その重さで項垂れると赤い海水が目に入る。つまり、私はこのまま立っていて構わないみたいだ。
そう思えたら前向きな気分になってきた。再び顔を上げると、いつの間にか波の向こう側に大きなカタツムリが泳いでいた。カタツムリがどう泳ぐかは私もこの目で見るまでは想像もつかなかったけど、確かにこれならば泳いでいるとしか言えない。海を泳げるのなら当然、空も泳げる。
「明日は雨ですか」
少し喉が痛くなるくらい大きな声で訊いてみたけど、返事は無かった。当然だ。カタツムリは喋らない。
分かり切ってた。でも、予想以上に私は傷ついて悲しくなった。それ以上に悲しかったのは、私が感情とは裏腹に曖昧に笑っていたことだ。
カタツムリは喋らない。でも、私がちぐはぐな事に気付いたらしく角を片方縮めた。
「明日、雨ならいいのに」
私が瞬きをするとカタツムリはカエルに変わる。これはおかしい。カエルは海にいないはずだ。カタツムリなら有り得るけど、カエルは有り得ない。
ならば、あれはカエルモドキということだろう。
私はカエルモドキに向かって今度は囁くように尋ねる。
「明日は晴れですか」
カエルモドキは私の話す言葉に近いようで遠い不思議な言葉で返事をした。残念ながら意味は分からなかったけど、反応があるだけでなんだか嬉しくなった。こんなに嬉しいのなら、きっと明日は晴れるのだろう。
明日、雨ならいいのに。
海中夢 ミスターN @Mister_N
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます