こうかんこ

名上ユウキ

こうかんこ

得意な事って、みんな違うと思います。

すきなことが伸びることも有れば、頑張っても結果が芳しくないことだってあるでしょう。

では、どうしましょう?

はかせは一所懸命考えて、ついにある装置を作りました。

「こうかんこマシーン ひとり一回まで」

見た目はみすぼらしい箱ですが、効果はお墨付きです。


はかせが発明を完成させて一日目。

うわさを聞きつけて、一組の男女がはかせのもとを訪ねました。

「なんだね、わしはカップルなんかに用はないぞ」

「はかせさん、お願いします。私たちはこうかんこマシーンを使わせてもらいにきました」

「ほう。それで、何をこうかんこしたいんだね」

「からだの性別です。ぼくは男の子になりたくて、彼…彼女は女の子になりたいのです」


はかせはふたりの話を聞いて、願いを叶えてあげる事にしました。


「わあ、やったよ!ぼく今日からほんとの男の子だ!」

「あたしもだよ!折角だから、お洋服を買いに行きたいな」


「もとには戻せないからな。気を付けろよ」

彼らはすっかり満足して、はかせが話終わらぬままスキップして帰ってゆきました。


はかせが発明を完成させて二日目。

分厚い本を持った学生たちがやってきました。

「なんだね、わしは未来あるものに用はないぞ」

「お願いですはかせさん。おれは空の星の勉強をしたいのに数学がてんでだめなんです」

「僕はこの本を読みたいのに国語力がからっきしなんです。僕たちの学力をこうかんこして下さいな」


「一回だけだぞ。後悔するなよ」

はかせは暇だったので願いを叶えてあげました。


「やった!これで入学試験に受かるぞ!」

彼らは舞い上がって、お礼もとんと忘れて帰ってゆきました。



はかせが発明品を完成させて三日目。

はかせの家に老人と町人みんながやってきました。

「なんだね、わしはうるさい奴らに用はないぞ」

すると、一人のたくましい若者がついっと前に出て言いました。

「お願いしますはかせさん。この爺さんは体の虚弱なのを理由にして本を読み耽っていました。穀潰しはいりません。どうかこうかんこで私に知識をくれてやって下さい」

「はあ。本当にお前でいいのか…?」

「いいからはやくしてくださいよはかせさん。取り敢えず頭が良い奴ならいい町にしてくれるんじゃあねえの。俺たちは責任負いたくないし、こいつが頑張ってくれるさ」


はかせは面倒だったので願いを叶えてあげる事にしました。

「一回だけだぞ。それと、明日から毎日ぶどう酒一びんを持ってこい」


町人たちは喜んで、はかせに目もくれず踊りながら去りました。


半年後、はかせは怒っていました。

ぶどう酒が届かなくなったからです。真相を確かめようと、離れた町まで歩いてゆきました。

町に入るなり若い娘がはかせに縋り付きました。


「助けてくださいはかせさん。若い町長は利発ですが、あまりにも愚かです」

「ならば、抗議でもすれば良いじゃないか」

「ダメです。頭の回転が早いので、誰も彼を言葉で破る事ができません。他の者が勉学に励む間ずっと鍛えていたので、腕っ節でも敵いません」


「もういっかいこうかんこをしてくれ!」

「町人のよしみだろう」

町のひとびとがみなはかせを頼りました。

しかし、気難しいはかせはぴしゃりと言い放ちました。

「わしは一度だけと忠告したぞ。それを用が済んで話も聞かず礼も言わずいなくなったのはお前たちだ。ぶどう酒はどうした?」

「それは…はかせなら文句言わないと思いまして」

「嗚呼、あきれた。わしは自分を愚かだと思ってきたしこれからもそうだが、間違えてはいなかった。努力は宝だったのだな」


はかせはそれからも気ままに研究をして過ごしましたとさ。


おしまい

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こうかんこ 名上ユウキ @Nakamichan

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