第20話 パーティー全滅


 そして……遂にその時が来た。


 彼の力、重力魔法が花開く時が。

 

 あれからさらに数日、みるみる力を、魔法力を上げていく彼、既に大きな岩を複数個同時に移動できるまでになった。

 今は地中に埋まっている岩を掘り起こすトレーニング、いえ、村造りの最中だった。

 

 そして、それはちょうどリンが3回目の買い出しから帰って来た時だった。


「あの……ヨーク様……そこでこれから森に入るパーティーの人達にあったのですが、村で休憩させろと言われて」

 ただいまも言わずに帰ってくるなりすまなさそうにヨークにそう言い出す。

 

「おいおい、なんだよテントしか無いのかよ、貧乏くせえ村だな、まあ村なんて貧乏人しかいねえけどよ、うははははは」

 銀色に鎧を纏い背中に大剣を背負った屈強そうな大男がリンの背後から大声でそう言う。


「ちょっと……休むってテント? こんなショボいテントならうちの装備の方がよっぽど良いじゃない?」

 男か女か分からない言葉を吐きながら、キラキラと輝くローブを着た緑のロン毛、恐らく魔法使いがそう続く。


「……」

 さらにその後ろから銀色のコートを着た、恐らく回復魔法(ヒーラー)の男が不機嫌そうに辺りを見回している。


「ふっ」

 さらに後ろに子供の様なポーターが二人、見るからに出来上がったばかりのパーティーに私は思わず苦笑してしまった。


「──おい! てめえ何かしら笑ってやがる」

 私の笑いに気がついた大剣使いは私を睨み付け、ドスの聞いた声でそう言ってくる。

 だから私は正直に言った。


「ぷ、ぷぷ……だ、だって、あんたの着てるそのシルバーの鎧……皮の上から色塗ってるだけだし、ローブも普通銀の糸で縫うのに、それただの銀色の糸だし、コートに至っては銀粉を撒いているだけ、しかも純銀じゃないし、いかにも安い賃金で雇ったポーター二人だし……もうどこから突っ込んでいいか分からないわ、あはははは」


「な! て、てめえ」


「そんな軽装備で森に入るなんてお止めなさい」

 私同様、死にに行くだけ……。


「う、うるせえ、てめえ黙って聞いてりゃ」


「ま、待って下さい、ジェシカ!」

 私と大剣使いの間にヨークが割って入ってくる。

 ……これは……私は思った……遂に来た、千載一遇のチャンスが。


「何よ、本当に事言って何が悪いの? あんただってポーターならわかるでしょ? こいつらが以下にバカか」

 私にそう言われヨークはパーティーをチラリと見てそれを、その私の言葉を否定しなかった。


「なんだガキ、てめえポーターか? ポーターの分際で俺達にケチつけようってのか?」


「いえ、別にケチなんて」


「おい、この村の責任者呼んで来い、客に向かって失礼にも程がある」


「客って……どうせ金(ゴールド)もろくに無い貧乏パーティーが何を買うってのよ? バカなの? 本当貧乏人ってバカばっかりよね? ろくな物食べていないから、栄養が頭に行かないのかな?」


「う、うるせえ、てめえさっきからナメやがって、女だからって容赦しねえぞ」

 大剣使いはそう言うと背中の剣を抜き構える。

 魔法使いは大剣のやや後ろに陣取り詠唱を唱え始める。

 回復者は数歩下がりバックアップ態勢を整え……その様子を見ていたポーター二人は逃げ出した。


「ま、待って下さい、責任者は僕です」


「は! ポーターが責任者だと? ナメてんのか?」


「す、すみません、ジェシカも謝って!」


「は? 嫌よ、何で私がこんな貧乏の能なしに謝るのよ?」


「てめえ、てめえだけは許さねえ」

 大剣使いの大男は持っていた剣を天高く上げる。

 ほらね、こんな隙だらけの攻撃、両刃剣は振り上げるんじゃなく突くのよ、そんな事も知らないなんてね、昔の私ならこの隙に詠唱3っつは唱えられたわよ?

 まあ、今は何も出来ないんだけどね?

 ゆっくりと私の頭めがけ振り下ろされる大剣を私は真っ直ぐに見つめる。


 こんな奴に殺される……それも悪くないかも、最低の私の人生なんてこんなもんだって思ったその瞬間。


「うお! な、なんだ!!」

「きゃ!な、なに!」

「……」


「止めろ!」

 ヨークがそう叫ぶと3人が宙に浮いた。


「……来た……遂に」


「うお!? な、なんだ?」

「なに? これ?」

「……こわい」

 3人が宙に浮いたままもがいているが、網に捕らわれた獣と同じく重力制御下では足場がないので何も出来ない。

「て、てめえか、なにしやがる!」


「僕の……僕の村で、僕の……だ、大事な人に……乱暴はやめてください」

 ヨークは普通に立っているだけ……手も上げていない、ただ茫然と立ち尽くしているだけ……。

 その姿に、そのヨークの言葉に、私は胸が熱くなる……ち、違うのよ? 大事な人って言われたからじゃじゃなくて、ヨークの魔法に、その凄さに胸が熱くなってるだけ。


「てめえ、ポーターの癖に、おい! 攻撃しろ! お前の魔法なら簡単だろ!」

 大剣使いの大男はそう言って魔法使いに命令する。

 

「……ホントバカ……」

 私は詠唱を始めた無知な魔法使いに向かってそう言い、ほくそ笑んだ。


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