第18話 どうせバカですよ!


 僕の魔法に詠唱はいらない。

 その最大の利点は魔法を使っている事がバレない。


 しかし、詠唱を唱えないという事は、常に頭の中で魔法展開をし続けなければならない。


 詠唱は魔法の効果、ターゲット、範囲を混ぜて唱える。

 いわば唱え終わったらそれで完了なのだ。


 しかし僕の魔法は頭の中で常に唱え続けている様な状態。

 もっと簡単に言うと、頭の前や上から動きづらい、動かしづらい手が出て、ターゲットを持ち上げたりしているという事だ。


 今まではポーターをしている時は、荷物をおんぶしている様な、自分の首根っこを自分でつまんで持ち上げている様な感覚で使っていた。


 ジェシカに言われて、それを、その感覚を今度は、その頭から出た手で岩を掴み移動する様な、2本の手で手のひらの上を転がす様な感覚で使用し、岩を動かす事が出来る様になった。


 でも……今度は違う。

 複数の石を同時に持ち上げる。

 石はそれぞれ大きさ形重さが違う。

 自分の手で一つ一つ持ち上げるという、岩を持ち上げた時の感覚では、そのイメージでは出来ない。


 だって手は2本しか無いのだから……。


 頭から数十本の手を出す……いや、そんなの全くイメージ出来ない。

 僕の魔法は詠唱とは違い、イメージ出来なければ行使する事が出来ない。


 それでも、頑張った。なんとかしようと……でも石5ー6個が限度……それ以上持つと最初の1つがストンと地面に落下してしまう。

  

「あははは、不器用ねえ」

 ジェシカは何かを食べながらテントの前で僕を見て苦笑する。


 でも、ジェシカは毎度こうやって僕に課題を出し、そして時折アドバイスをしてくれる。

 

 その的確なアドバイス、豊富な知識、僕の魔法をあっさりと見破った事、間違いなくジェシカは魔法の教育を受けている。


 この国で魔法教育を行っている場所は一つしかない。


『帝国魔法学校』 

 

 その学校に入るにはまず上級国民でなければならない。

 パーティーに参加している様な一般国民の魔法使いとは別格、血筋も確かで才能溢れる子供のみ入学が許され、英才教育を受ける。

 

 僕は確信していた。ジェシカは間違いなく魔法学校出身者だ。


 そしてこれは大変にラッキーな事なんだと……今更ながら僕は思い始めていた。

 一般国民、それも底辺の僕が、魔法学校出身者から教えて貰えるなんて……。

 

 そう思い僕はようやく7個石を目浮かばせたその時、最初の1個が落ちそうなったので、慌ててそっちに集中した……ら……。


「あ、全部落ちた……」


「あーーもう!、バカでしょ? あんた頭悪いでしょ? この鳥頭とりあたま!」

 ジェシカはそうやってアドバイスを…………口は悪いけど…………ふん! どうせバカですよ。……鳥頭?


 でも、僕は少しずつだけど、ジェシカの言葉を信じ始めていた。

 

『あんたね! わかってるの? あんたの魔法はとんでもないのよ!』


 帝国魔法学校出身者に言われたその言葉を……僕は少しずつ信じ始めていた。






 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る