第17話 買い出し
「名前はえっと……り、リンド・ビショップ……っていいます」
「リンド……、じゃあリンくんって呼ぶね」
「はい、宜しくお願いいたします、ヨーク様!」
「様はやめてよ、呼び捨てでいいよ」
「駄目です! それでは示しがつきません!」
「まあ、無理にとはいわないけど……」
僕の村に道具屋としてリンくんが入村する事になった。
そして、これは物凄くラッキーだったと言わざるを得なかった。
彼はとにかく働くのだ、家づくりの木を自ら切り、さらにはその木を材木として加工、さらに組み立てる寸前まで全てやってのける。
さらには色々と僕にアドバイスしてくれた。
そしてやはり道具についてはかなり詳しく、僕が持っていた道具も、もっといいものがあると言ってくれた。
僕もポーターとしてかなり知識はある方だったが、やはり専門職にはかなわないと思わされた。
ただ、まあ、僕と違い彼は重い物は持てないけどね……とさりげに自分が上だとアピールしてみたり……。
ちなみに彼を信用していないわけではないが、重力魔法の話はまだしていない。
ポーターの話はしているので、荷物を軽くするなんらかしらの方法がある(グラーブ村の秘法も秘密な為)とだけ言ってある。
彼はその辺の事も詳しく、(秘密とされる魔法については詳しく問わない)それ以上僕に聞くことはなかった。
そして、彼にこれから当面の間のメインの仕事としてやって貰う事があった……それは。
「ほら、あの髭の主人がやってるお菓子屋があるでしょ? あそこの焼き菓子美味しいのよね~
、それと、そろそろこの普段着も飽きてきたから何か良いものあったら買って来て頂戴」
「か、かしこまりました!」
そう言って、僕の持っているよりも二回り程小さいバックパックを背負って村を出ていくリン君。
そう、彼のメインの仕事は……買い出し……それも半分はジェシカの物。
まあ、スポンサーなので仕方がない。
ジェシカの荷物以外に、その他食料や、機材、そして今回はギルドへの村民登録及び、道具屋の設置許可も代理として行ってもらう事にした。
本来なら僕が行かなければならないんだけど、町まで往復4日もかかる為に、毎回僕がジェシカを連れ買い出しに行っていた為、村づくりが一向に進まない。
勿論ジェシカは何もしないので、全て僕一人の作業となる。
ちなみにジェシカの世話(テント設営、食事づくり)をしながらの買い出しだったので、ポーターの僕一人ならもっと早く往復できるんだけどね……。
「一人で大丈夫かな?」
彼の後ろ姿を見送りながら、少し心配になった。
ここから町まで森はない、安全地帯とはいえ、夜はキャンプの必要もあるし、はぐれモンスターが出ないとも限らない。
悪い連中に襲われる可能性も……。
「はん……道具屋を経営するんだから、これくらいするのが当たり前でしょ? 私の金(ゴールド)持ち逃げしなければ上出来よ」
「そんな……でも……まあ、そうなんだろうけど……体も小さいし、まだ子供だし」
「……子供って……あんたホントわかってな……まあ、いいわ……それじゃあの子もいないし、そろそろ新しい事に挑戦しなさい!」
「新しい事?」
「そうよ、こんなんじゃいつまで経ってもあんたの魔法……いえ、村が出来ないでしょ?」
テントは買い物を行く度に増えていく……でもまだ家は一軒も建っていない。
それはそうだ、いまだ村予定の敷地には木が沢山生い茂っており、岩は取り除いたけど、大きな石はゴロゴロと辺り一面に散らばっている。
「うん、まあ……」
「畑も作らないといけないでしょ? ちんたらしてたら寿命が尽きるわよ?」
「それはそうだんだけど……」
そもそもここは村を作るには不向きな土地。
地面は岩だらけで畑には不向き……そもそもここを買ったのはジェシカなんだけど……。
色々と腑に落ちないけど、もう村民は来てしまった。
早く村に人を、お客を呼ばないと、村民も増やさないと……僕の金もジェシカの持っている金も尽きるだろう。
「じゃあ、あの子がいない間にやらないとね、今日からあんたの魔法範囲を広げて地面に落ちてる石を一気に集めなさい」
「え? えええええ?」
「石を一つ一つ移動してたらいつまで経っても終わらないでしょ?」
「今度は魔法の多数展開しろって事!」
「そうよ!」
「無理だよ!」
即答である。ただでさえ調整が大変な重力魔法の多数展開とか……出来るわけがない。
「岩を移動するときに複数展開してたでしょ?」
「でもあれって言わば二つを交互に入れ替えてるだけで、実際それも何度も失敗……」
「つべこべ言わない! さっさとやれえええええ!」
「……うう、わかったよ……」
スポンサーには逆らえない……ここでジェシカに引かれたら僕だけではなくリン君も路頭に迷ってしまう。
やらなければ、もう自分の為だけではない、期待してくれているジェシカ、そしてリン君の為にも……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます