第16話 道具屋
僕の居るこの国の名は【アルフレッド王国】と言う。
そしてこの国を統括しているのが国王アルフレッド13世だ。
そのアルフレッド国王が住まわれている城は帝国(正式には市)と呼ばれている大都市の中にあり、それはここから数日程度で行ける位の距離にある。
帝国内では、政治、経済、物流、学問等、国民が生活するその全てが国の中心として機能している。
しかし……帝国には厳しい制限がある。
所謂僕達一般国民は住む所か入る事さえ出来ない……。
帝国に住むには、上級国民権を持つか、軍隊等の兵になるしかない。
勿論、僕は生まれた時点でで無理なのだが貴族、王族も帝国内に住める権利を有している。
僕達一般国民は、帝国が管理している町までしか自由に往来出来ない。
その町には帝国が管理しているギルドがあり、帝国との直接的なやり取りは全てギルドを通さなければならない。
さらに町のギルドが管理しているのが村って事になる。
さて、何でいきなりこんな事を言っているかと言うと、それは僕の目の前で深々と頭を下げ、地面に擦り付ける様にひれ伏しているこの少年のせいなのだ。
さっきも言ったがこの国の階級制度のお陰で、一般国民が商売をするのにはかなりのハードルが存在する。
国というのは当たりまえだがその国内において税金を徴収し、国の運営を行っている。
とはいえ、僕達一般国民から、金(ゴールド)を徴収するには無理がある。
ではどうやって徴収するか……それが道具屋や宿屋となる。
国はまず金を自ら掘っている。そしてその金を金貨にして流通させている。
以前にも言ったが、金を掘るには特殊な機材が必要で一般人には不可能、そもそも勝手にそんな事をすればたちまちギルドにバレてとんでもない事になってしまう。
僕達一般国民がお金を稼ぐにはどうすればいいか、色々あるが一番多いのは農業だ。
農家は村や町に作物を売り収入を得る。
そしてその作物を商店で売る。
この商店が所謂道具屋、道具屋商となる。
防具や武器、薬や薬草も全て道具屋商から派生した商店、そしてその売り上げをギルドが管理して帝国に上納するシステムになっている。
金は持っているだけではほぼ無価値(溶かして武器や防具に使う事もある)仕様して初めて価値が生まれるからだ。
そして、武器や防具を買うのがモンスター退治を生業とする者達、パーティーとなる。
ちなみに優れた戦闘員の戦士、魔法使いは帝国の軍隊や学校にスカウトされ、上級国民権を得たりもする。
それゆえに、ギルドではパーティーを管理し、監視もしている。
つまりモンスターを倒して得た金で物を買う事により国が潤う、さらには森に蔓延るモンスターを増やさないので、国としてはモンスター退治の仕事は必要不可欠な仕事の一つとなっている。
まあ、何が言いたいかと言うと、つまりは国の収入の根元となるので、道具屋は無闇やたらに営業出来ない様になっている。
それ以外にも村の経営として納める金等もあるが、それはいつか話そう。
そうあって道具屋はギルドが直接的に管理する為、町で数十件、村では大きさによるが1件から始まり最高でも数件程度しか許可は降りない。
厳しい競争社会なのである。
勿論村が発展すれば町になるが、一から個人が村を作って町に迄発展した所は無い……。
「お願いします!」
頭を地面に擦り付け必死に懇願する少年を僕はじっと見つめる。
どこかで見た事のある赤い髪の少年……そうだ、思い出した、彼はいつも行く町の道具屋で下働きをしていた少年だ。
店主に叱られ、こき使われながらも、必死に働いているのを何度か見かけた。
ポーターである僕はこの少年の気持ちが痛い程わかる。
この国では、弱い者、力の無い者、金と権力の無い者、そして非戦闘員の者は非常に生きにくい……。
でも……さっきも言ったが、村にとって道具屋は存続に、発展に関わる。
流通の中心は帝国、その帝国内と直接やり取り出来ない道具屋はギルドから高いお金を払い商品を購入する事になる。
当然目利き売れ筋を理解し、尚且つ全ての商品を熟知していなければならない。村では売る物全てを取扱う事になる
勿論買い取りもするのでさらに難しい知識も必要となる。
現状一件しか建てられない道具屋に彼を使って良いのだろうか?
でも……、僕は彼の熱意に、この情熱に掛けようと思った。
「──うん……わかった」
「え?」
「いいよ……君に任せた」
「ほ、本当に! 本当ですか! や、やった……遂に自分の店が」
頭を上げ真っ直ぐに僕を見つめる彼の目から涙が溢れだす。
「……ちょっと……あんたわかって言ってるの?」
僕が彼に任せると言ったその時、ジェシカがテントから顔だけ出してそう言って来た。
さっきの事があったので、ご飯が出来るまで寝ているかと思っていたけど……。
「ジェシカ……わ、わかってるよ! 未熟な者を使うリスクは」
「は! あんたが一番未熟者でしょ、そうじゃなくてこいつ…………ふん、まあ、いいわ、あんたが良いって言うなら、私には村の経営とか興味ないし、関係無いわ……」
そう言ってジェシカは再びテントの中にごそごそと入って行く……。
彼に何かあるのか? でも、町の商店で働いていた彼は凄く真面目で一生懸命だった。
「あ、あの……」
「あ、うん、まだテントしか無いけど、宜しくね」
「はい!」
彼は満面の笑みで笑う。
そうこれが初めて村に村民が誕生した瞬間だった。
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