第15話 喧嘩


「何考えてるの! 馬鹿なの? 呆れて物も言えないわ!」

 サーベルタイガーが雑木林の中に消えていった途端ジェシカは凄い剣幕で僕に食ってかかった。


「いや、物言ってるし」


「うるさい! 揚げ足取ってる場合じゃない! あんたモンスターを取り逃がすどころか、怪我まで治すって、馬鹿なの? アホなの? 死ぬの? てか死ね!

今すぐ死んじゃえ!」


「あんまし死ぬとか言っちゃ駄目だって」

 コンプライアンスに関わるし……。


「うるさいうるさいうるさい!」


「いや、うるさいのはどっちかって言うと、ジェシカの方だし」


「あんたね! わかってるの? あんたの魔法はとんでもないのよ! あんなモンスター簡単に殺れるのよ!」


「いや……そんなには……」

 僕の魔法は無詠唱とはいえ、実戦で使える様なスピードは無いし範囲も狭い。

 ちょっとでも素早い敵なら苦もなく避けれる僕の魔法に、そんな価値はない。

 これはポーターとして今までずっと後ろからパーティーの戦闘を見てきた経験から冷静に自己分析した結果だ。


「──そうね……戦闘員は非情であれ、でも……それが、その言葉が、あんたがパーティーを追い出された理由でもあるのよ、わかってるの?」


「……うん」

 基本的にパーティー追放は一般的に認められている行為、役立たずがパーティーに居れば全員の命に関わるという理由からだ。


「いつまでそうやって……好い人でいるつもり?」


「……」


「あんたはね、私を助けるべきじゃ無かった……非情にならなければ、死ねの、ここはそういう世界なの!」


「分かってる……分かってるさ! でも……僕は非戦闘員なんだ……非情になれない、なりたくない……だから僕は非戦闘員なんだ、だから僕はポーターなんだ」


「そんな事まだ……」


「何が悪いんだ! なんで戦わなくちゃならないんだ! 逃げる事だって重要だろ? 命を大事にしないジェシカに何が…………あ」

 僕がそう言った瞬間、ジェシカの顔が歪む……ジェシカの目が潤む。


「……ご、ごめん」

 ジェシカには聞いていない……森で何をしていたのか、でも……わかっている、ジェシカ程の知識があれば、わかる筈。

理由わからない、でも、何の武器も持たずに森に行ったという事は……つまり……ジェシカは死ぬつもりだった……。


「……うっさい……もういい……死ね……」

 ジェシカはそう言うと、とぼとぼとテントの中に入って行った。


 何か言わなければ……謝らなければ……そう思ったが……何を言っていいのか、ジェシカはどうして欲しいのか、僕に何を求めているのか? 何を期待しているのか? 僕にはわからない……僕はどうすれば……。



「あ、あのお……」


「うわ!!」

 その時背後から突然声をかけられる。


「あのお……お取り込み中すいませんです」


「──びっくりした! 誰?」


「すいませんです……」

 振り向くとどこかで見た事がある赤い髪の少年が僕の前に立っていた。

 赤い髪で僕よりも、ジェシカよりも小さな身体の少年……。


「えっと……何か?」

 周囲の罠は人間には分かる様にしてある。糸は既にサーベルタイガーに切られて地面に落ちている為、彼が村(予定地)へ侵入した事は、全くわからなかった。


「あのお、あのですね……あの……お、お願いします! ここで……僕に……道具屋をやらせて貰えませんか?」


「はい?」

 その少年は地面に座り込み、そのまま地に付けるまで頭を下げながら僕にそう言った。

 まだ整地も家も出来ていないテントだけの村に……道具屋が来てしまった。

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