第13話 整地作業


「そうよ! やれば出来るじゃない!」

 ジェシカの言葉に乗せられるかの様に僕の魔法はみるみる上達していった。

 大きな岩は全て村の建設予定場所から取り除いた。

 さらにはその岩を使った整地を始める。


 平らな大岩を上空に舞い上げ地面に叩き落とす。

 『ドスンドスン』

 大きな音を立て地面の岩の凸凹が削れ平らになっていく。


「うん、良い調子、とりあえず整地が終わったら私達の家を作りましょう」

 

 村作りを始めて20日程経過していた。勿論何も無いこの地、途中何度か町まで買い出しに行っている。町まではここから往復で4日かかってしまう。

 まあ、荷物運びは僕の本業なのでその辺は問題無いが、その荷物の多くがジェシカの服やら本やらで、その置き場の為にテントが村にどんどん増えていっている。

 もうすでにテント村として機能出来る位の数が……。


「あーー、あの本買うの忘れた! 本当ここって不便よね!」


「……いや、ここの土地を無理やり買って、全部僕にやらせて、運ばせて……さらに遠いって文句ですか、そうですか……」


「何か言った?」


「いいえ、何も……」


「ふん!」


 とりあえず僕は現状ジェシカのヒモ状態なのではっきりと文句は言えなかった。


 それにしても……今だに謎だらけ、あのお金は一体どこで手に入れたのか?


 金(ゴールド)を手にするには、通常モンスターを倒すか鉱石を掘るかの2つ。

 鉱石を掘るのは素人には不可能。しかし、かなり大きなモンスターを倒しても手に入る金は小指の先位程度。

 でもそれは町で換金すると金貨1枚と交換出来る。

 金貨1枚あれば30日は食べられる。

 

 ジェシカは金貨どころか金その物を、しかも見たことが無い大きさの金を自分のバックにいくつも入れていた。


 盗むにしてもどこから? という程の量……出会った時はドレスを着ていたので、どこかの国のお姫様? それとも貴族? いや……それにしては気品が感じられない……。


「なんか言った?」

 岩は全て片付けてしまった為に、ジェシカはテントの入口を大きく開けた状態で寝転びながら僕を監視している。


「……いいえ何も」


「早くしなさいよ、いい加減テント暮らしも疲れて来たわ」

 金も出すけど口も滅茶苦茶出す。

 寝転んでいるだけで疲れたって……。

 色々と腑に落ちないけど抗議は一切受け付けないとの事なので……僕は黙って再び岩を落とし整地を始めた。


 整地が終われば木を切る作業に入る。

 木は周囲に無限にある。

 その木を切って皮を向き、丸太にし、各丸太に切れ込みを入れ組み立てる。

 

 いわゆる丸太小屋を作る予定だ。


 通常小屋を作る場合、一番時間と労力がかかるのが重い丸太を持ち上げて組む作業なんだけど、僕には重力魔法があるので、そこが一番簡単に出来る。

 おそらくそれほど掛からずに家は完成するだろう。

 

「……え……でも……まさか一緒に住むなんて事は……」

 勿論だがいまだにテントは別々……つまり僕はまずジェシカの家を作るって事になるわけだ……。


 ちなみに村の権利は僕にある。ここを統治しているギルドにそう申請している。

 つまりジェシカはただのスポンサーだ……そして僕とジェシカの間で借金の契約はしていない。

 つまりジェシカをここから追放すれば……。


 なんて事をパーティーを追放された僕が出来る筈が無い……。


 僕はテントで魔法書を読み更けているジェシカをチラリと見る。


 今は僕の方を見ず真剣な表情で文献を読んでいた。

 時々見せる思い詰めた様な目で……。

 彼女は何も話さない、自分の事は一切。


 何かを隠している。一体何を隠しているだろうか……。


 僕はジェシカの事を考えながら、再び岩を持ち上げて整地を始めた。



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