第12話 天才と言われ


 私はジェシカ『ジェシカ・トレーシー』


 正式には『ジェシカ・エリザベート・トレーシー』


 トレーシー一族の末っ子としてこの世に生を受けた。


 ミドルネームは貴族にだけ与えられ称号。

 私の家は古くから魔法貴族として世界に名を馳せていた。


 そして私は叔母様に続く、いいえ……一族を貴族にまでのし上げた最強の魔法使いエリザベートの再来と言われる位の魔法使いとして子供の頃からずっと、もて囃されていた。


 私はエリートしか入れない帝国の魔法学校に主席で入学、そこであらゆる魔法勉強し、あらゆる魔法を使いこなす。魔法学校創設以来最強の魔法使いとして君臨していた。


 しかしある日、私はミスを犯す。


 召喚魔法の練習中に、自分のその能力に過信して、超1級魔獣の龍を召喚してしまった。

 自分の力以上の存在を召喚してはならない。それが召喚魔法の絶対的な決まり。

 でも……私は龍よりも自分が強い、圧倒的に強いと過信していた。


『召喚事故』……召喚した魔獣に私は敗れ、魔法の能力を全て奪われた。

 

 魔法の使えない魔法使い……なんて、なんの役にも立たない。

 学校は退学、家では家族に無能と呼ばれ、私は全ての居場所を失った……。


 そして……それは居場所を失うだけに留まらなかった。


 私はなんとか力を取り戻せないかともがいていた。

 家の地下で文献を徹底的に漁り魔法の事を調べ尽くしていた。

 しかし家族は、叔母はそれを許してはくれなかった。


 ある日私は叔母の部屋に呼ばれこう言われた。


「ジェシカ……貴女に縁談が来てるの、せめて家の為にそれくらい貢献しなさい」

 大好きだった叔母に、役立たずと言われた瞬間だった。


 せめて政略結婚しろと叔母からそう提案された。


 叔母の言葉は絶対、私は素直にそれを受け入れた振りをして、政略結婚のお見合い相手と会った。


 そして当日、結婚相手に会ったその場で、私は逃げた。

 ドレスを着たままその場から逃げ出した。


 無理だった……好きでもない相手以外と身体を合わせるなんて……想像しただけで吐き気がした。


 行く宛の無い私は無謀にも思った……龍に、私の力を奪った龍が住むと言われている森で龍を倒そうと……。

 

 でも、魔法能力の無い、なんの力も無い私が勝てるわけがない……。


 そう……私は……死のうとしたのだ。

 龍の住む森で死のうと……。


 しかし龍どころか、私は森の中で最低の虫に襲われる。こんな低レベルの魔物に私は何も出来なかった……。


 最低の最後だ、最低の結末だ。

 私の人生が虫にって……私は虫けら以下だって……。


 そう考えた瞬間、死ぬのが怖くなった。


 そして気が付いた……実戦経験の無い私は、死ぬ覚悟も無い私が龍に勝てるわけが無かった事に。

 後悔……その瞬間命が惜しくなった。


 無駄だとわかっても声を上げた。

 そして……。


◈◈◈


 私は出会った……とんでもない人に。


 あの子はわかっていない自分の力に。


 あの子はわかっていない、自分の魔力に。


 長時間使用に耐え得る超魔法、重力魔法は一瞬でも使うのが困難。


 無詠唱でこの世の作りを変えてしまう、この世の秩序を変えてしまう。


 魔法を、魔法の力を根底から覆してしまう。


「ふふふふ、あははは」


 私は一度死んだ。


 私を殺したのは魔法。

 私を殺したのは家族。

 私を殺したのはこの世。


 私は……憎い……この世が憎い。


 そしてあの子はこの世を変えられる……皆それに、誰もそれに気付いていない。

 私以外……誰も……。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る