第11話 何でそんなに詳しいの?


「うわ……」

 僕の目の前で巨大な岩が空中に浮かび静止している。

 0重力、いや地面から浮かび上がったのだから、マイナス重力なのか?

 とりあえず僕は岩に当てている手に力を入れた。


「……くっ」

 岩の重さは変わらない、質量事態に変化は無い。なので力を込めても岩はなかなか動かない。

 足を踏ん張り、身体全体で岩を押した。


「……それじゃ駄目よ」

 岩がゆっくりと動き出すもジェシカは僕にそう言った。

 なぜ? と思った直後岩はドスンと音を立て転がり落ちる様に地面に落下した。

「はあ、はあ、あれ?」

 岩を押すのに疲れたのか、魔法に疲れたのか? 息切れをしながら落下し、地面にめりこんだ岩を眺める。


「馬鹿ね、重力範囲が分かってないじゃない」


「重力……範囲、ああそうか」


「今まであんたの周囲に展開してた魔法の範囲を岩の下に向けて発動したんでしょ? だったら岩を移動すればその範囲から外れる、現にあんたの周囲には重力があった、だから足に踏ん張りが効いてたんでしょ? あんたバカ? それくらい考えて魔法を使いなさい、落ちる場所によっては危険な目に遭うわよ!」


「……うん、ごめん」

 岩の上に座って町で購入した甘いお茶をのみながらジェシカはそう言って指摘する。

 口は悪いが全てジェシカの言う通りだ。それにしても、見ただけでそこまでわかる何て……。


「ほら、今日中に大きな岩位取り除かないと、いつまでたっても村なんて出来ないわよ」


「あ、うん……」

 そうは言っても簡単に出来る物じゃない……つまりジェシカは魔法範囲を、0重力を保ったまま移動させろって言ってるのだ。


 物体の周囲の重力を消し、さらにその範囲を持ち上げた物体ごと移動する。

 そして危険が及ばない様に自分は離れた場所からやれという事だ。


「つまり手を使わずに横から押すって事? 無理だよ……」

 物体を静止させるだけでもかなりのコントロールが必要、強すぎればどこかに飛んで行ってしまう、弱すぎれば持ち上がらない。

 その微妙な調整を維持したまま範囲を移動させ、さらに横から力を加える何て直ぐに出来るわけがない


「バカね重力がないんだから摩擦は0でしょ、押さなくてもルートを作れば良いのよ」


「ルート?」


「そ! 道よ、道!」


「連続展開しろと?」


「連続展開しなくても、斜めに角度をつければ良いじゃない、なにも浮かべる事が目的じゃないんだから範囲を水平に保つ必要も、岩の周囲だけする必要無いでしょ?」


「斜めに……細長くって事……か……成る程……うん、やってみる」

 重力魔法の範囲を村の外まで一直線になる様に道の様に頭の中でイメージすればいい、そもそも僕の魔法に詠唱は要らない。

 前もってターゲットを指定する必要もない。

 通常魔法詠唱にはターゲットや、範囲を詠唱の中に入れる必要がある。ジェシカはそれを知っていてアドバイスしてきた。

 つまりはそうなんだ、なぜここまで詳しいのか僕は気づいた……間違いない……


 ジェシカは……かなりのレベルの魔法使いだと、僕はそう確信した。


 

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