第10話 荒れ地に花を……


 広大な森の周囲に村や町は無い。

 理由は2つ

 一つは森には魔物が住んでおり、その脅威は森の周囲にまで及ぶ。

 

 そしてもう一つ……それは広大な森がそれ以上広がらなかった理由が関係している……。


「はい、じゃあ頑張れ」


「──マジで?」


「格安で土地の権利を買ったんだから、頑張って村を作ってね♪」

 ジェシカは大きな岩の上で寝そべりそう言った。

 

 あれから僕達は森に近い土地は誰の物かを調べる為に管理をしているギルドのある町に行った。

 そして、何の価値も無いこの地の権利をジェシカは持っていたゴールドで地権者から買った。


 拳大の金(ゴールド)3つ、親指くらいの大きさでも3ヶ月は遊んで暮らせる金の数倍、数十倍をポンと支払い無価値の土地を躊躇う事なく買ったジェシカ……彼女は一体何を考えているのか? そしてその金は……。


「ほーー、村作りは口だけ?」

 ジェシカは町で新しく買った紺色のスカートが捲れるのも気にせず岩の上で柔軟体操をしながらそう言った。

 大きな岩の上で……そう、さっきから言っているここ、この土地に町や村が出来ないもう1つの理由……それは……。


 土地が荒れすぎているからだった。

 

 まず土が殆んど無い、地面をちょっとでも掘れば岩がゴロゴロと出てくる。

 さらにジェシカが寝そべれる様な巨大な岩が辺り一面にゴロゴロと転がっている。


「いや……開拓するって言っても……どうやって……」

 ゴロゴロとした岩の上に家を建てるのは不可能、岩を削るにはハンマーを使い叩き削るしかないが、相当の時間と相当の技術が必要。

 森から近い為に大きな木も岩の間に無造作に生えている。

 場所によっては岩をどかさないと斧が振れない所もある。


「そんな事もわからない? あなたポーターでしょ? 運べば良いじゃない」


「運ぶ? ええええ!」

 この岩を? 木を?


「そ! そして運んだ岩を城壁にすれば良いのよ、簡単でしょ?」


「さ、さらに積み上げろと?」


「そ、一生ポーターやって荷物を運ぶよりも手っ取り早いでしょ? 頑張って」

 ジェシカは岩の上で寝ながら、町で買ったお菓子を頬張りつつそう言う……勿論手伝うつもりは全くないというアピールなのだろう……。


「そんな事言ったって……僕の魔法に岩を持ち上げるなんて力は……」

 大人三人を一人分にする位の魔法、岩を持ち上げるなんて出来るわけない。


「持ち上げるんじゃない、重力を操るのよ……この世界の法則を貴方が変えるの」

 いつの間にか起き上がり真っ直ぐに僕を見つめるジェシカ……その目は僕に期待するかの様に、そして僕に何かを伝えようとしている目だった。


 真剣な眼差しで、僕を見つめるジェシカ……。


「やってみる……」

 今までは荷物を慎重に運ぶ事、自分の身体のバランス保つ事等を考えて魔法を使っていた。

 でも今はただ持ち上げるだけ、いや、この岩の下、地面からの力を無くす、重力を無くす……考えるのはただそれだけ……。


 僕は目を瞑り岩に手を当てた、今までは自分の身体だった。今は岩に力を集中する、余計な事は要らない、ただ岩に精神を集中させた。


「あはははは、凄い、やれば出来るじゃない」

 ジェシカに言われ目を開ける。


 0重力……そう僕の目の前の巨大な岩が、空中に浮いて静止していた。




 


 

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