第3話 金髪の美少女

多足虫……。

 人形の様な美しい顔立ちの金髪の美少女は多足虫、通称ゲジゲジ数十匹に襲われていた。


 大きさは基本的に肘から指先程度、大きな物は人の身長と同じくらいにまでになる。

 数十本の足を巧みに動かし地面を這って移動する。堅い殻を背中に持ち、並大抵の刃物だと跳ね返してしまう。

 ただし森の中の魔物としては最低ランクの雑魚、ドロップアイテムは殆んど出ないし、食えもしない。

 そしてこいつには厄介な性質がある。一瞬で退治しなければ仲間呼ぶという点だ。

 近くに大きな巣があれば何千匹と寄って来る可能性すらある。


 弱点は炎、簡単な火炎魔法で焼き殺すのが一番手っ取り早い。


 でも、勿論僕にそんな魔法は使えない。

 当然高価な魔剣の様な魔法発動装置なんて物も無い。


 危うきには近寄らず……。

 昔からの言葉だ。

 森の中では下手な事をすれば取り返しが付かない事態になりかねない。

 戦闘員でも無い僕が雑魚とはいえ、攻撃なんて事をすれば……死ぬ可能性もある。


「自己責任……」

 森の中では全て自己責任……いや、この世界で最後に頼れるのは自分だけ……。


「そんな事が出来れば……そんな厳しさが僕にあれば……追放なんてされなかったんだろうな」

 僕はそう呟き、彼女に近づいた。


「だれ! た、助けなさい!」

 絶対絶命のピンチなのに、その言い方……良く言えば高貴さを消さない。

 着ている服、こんな時まで、そんな態度を取るって事を鑑みると、この美少女はどこかの名家のお嬢様かもしれない……でもなんでこんな所に……。


「き、気持ち悪い!、なにこいつら! あんた! 早く助けなさい!」

 命令口調が鼻につく……まあ、それでも助けるんだけどさ……。

 自分の甘さを再度確認して、僕はバックパックから食料の黒豆を取り出す。

「く……貴重な食料を…」

 そう思いながら、それを彼女の横に投げつけた。

 黒豆は貴重なタンパク源、人間も動物も、魔物にも欠かせない。

 魔物は匂いに連れられ、金髪美少女から離れ、黒豆……餌に群がっていく。


「今だ逃げろ!」


「む、むりいい!」


「え?」


「あし! 足怪我してるの!」


「あ、あああ」

 彼女の足首から血が滴り落ちている。


「な、なんとかしなさい!」


「全く……」

 仕方ない……なけなしのポーションを使おうと、僕はバックパックからポーションを……あれ?

 いつも入れている場所に回復ポーションが……ない。


「しまった……やられた」

 高価なアイテムが軒並み抜かれ、代わりに小石が詰められていた。

 頭痛に吐き気、急いで出発、いつもなら必ずチェックする荷物の中身……。

 プロとして、ポーターとして失格だった。


「何してるの! 早くなんとかして」


「って言われても……」

 数十匹のゲジゲジ達が黒豆を食い尽くす。

 一瞬で全部殺すなんて僕には無理……ここは逃げるしかない。

 彼女を抱えて走る……片手で抱えて走るのは可能だけど、荷物を持って森を疾走するには、手が非常に重要になる。

 そして……なにかあった時に片手で対処しなければいけない。

 さらに彼女は怪我をしているのだから、森の外まで連れて行かなければならない。

 片手で? いや……そんな事出来るわけがない。


 見捨てる……その言葉が頭に浮かぶ……僕は一瞬後ずさりする……。


「早く……お願い……助けて」

 僕の表情に何かを感じたのか……彼女の態度が急変する。

 

 僕は少し考え、バックパックからロープを取り出す。

 武器や防具をバックパックにぶら下げる為の太い紐。

 それを持って彼女に近づく。


「な、なに! 何するの! いや!」

僕は彼女を縛り付けた……。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る